「ある日突然、KAATのプロデューサーさんから連絡をいただき、伊佐千尋さんの『逆転』を読んでもらえないかと言われたんです。そこから物語を作ることはできないかと、チームの皆さんとディスカッションが始まりました」
『逆転』は、1964年に起きた米兵殺傷事件の陪審員を務めた伊佐さんによるノンフィクションである。
「読むまで僕は、事件のことは知らなかったのですが、1964年と現在と、沖縄の状況はほぼ変わらないということを感じました。それをまず伝えないといけないかなと」
兼島さんは、演出の田中麻衣子さんと共に、沖縄県内、横須賀の基地関係者、防衛関係者、東京の若者などにリサーチを重ね、脚本執筆には1年半をかけた。
「東京在住の若い人の中には、“辺野古”という言葉を聞いたことがないという方も複数いらして、僕が考えているよりもずっと(沖縄問題に)距離があるなと感じました。何も知らなくても観るに耐え得る強度を持つ物語にしなければと思ったんです。ただ、復帰50年でドラマや報道も増えたので、再演では細かな説明は少し調整しています」
物語には、様々な意見や立場の人物が登場する、その多面的な描き方が素晴らしい。「僕が聞いた様々な声はできるだけたくさん(物語の中に)書いていこうと意識しました」
その分、一筋縄ではいかない沖縄の問題を観客は引き渡されたような感覚になる。
「バトンのように渡して終わりではなく、僕も考え続けますし、引きずっていってほしいなと思います。今回、沖縄でも上演するのは怖さもあります。仕方ないよね、と諦めている若い人も多いけれど、それだけじゃないぞという気持ちもきっとあります。舞台を観てもらって、対話のきっかけになったらいいですね」