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菅田将暉が素顔をさらす2時間。『オールナイトニッポン』の舞台裏に密着

「ラジオ好き」なら知らぬ者はいない『オールナイトニッポン』。1967年の番組開始以降、時代のスターたちがそのブースを託されてきた。そして現在、月曜を担うのが俳優・菅田将暉さんだ。

Photo: Kazufumi Shimoyashiki / Text: Yuko Tanaka / Edit: Yuki Imai

月曜を担う菅田将暉さん

「お前、そりゃ俳優がスタッフに差し入れしたら、まずくても“おいしい”って言うやろ」

2021年1月11日。年明け初回の生放送前、菅田将暉さんはお手製の「イチゴ大福」を番組スタッフに振る舞い、本番では「好評でした」と胸を張ってみせた。直後、リスナーから届いたのが冒頭のツッコミメールだ。

それに対して、「ここのスタッフにはお世辞も気遣いもないから!」と悪態をつきだす菅田さん。彼の関西弁、そしてスタッフの笑い声が、深夜のブースに響き渡る。

互いを「お前」と呼び合えるパーソナリティとリスナーの関係。まるで部室のような、「おもろいことがすべて」の雰囲気。そう、これこそが、彼のラジオ最大の持ち味なのだ。

「目的がないんですよ、このラジオには。誰かを救いたいとか、メッセージを伝えたいとか……楽しませたい、すらない(笑)。自分が楽しんでいれば、きっとみんなも面白がってくれるだろうって。番組を始めるときだって、放送作家の福田(卓也)さんも関西の人だし、地元の言葉でフラットにしゃべれたらええな、くらいのもんでしたから」

2017年にスタートした、『菅田将暉のオールナイトニッポン』。言うまでもなく、菅田さんは俳優として数々の映画賞に輝き、歌手としては紅白の舞台にまで立った、時代を代表する表現者だ。

ところが毎週月曜25時になると、近寄りがたいカリスマ感はどこへやら。近況や時事ネタ、下ネタ含むトークを飛ばし、リスナーからのメールに立ち上がって腹を抱え、容赦ない「いじり」に張り合う。ごく自然体で「カメレオン俳優」の素顔が垣間見えるようだ。

「常に出たとこ勝負ですからね。“テレビでは本当のことを言う、ラジオではもっと本当のことを言う”ってことだけ、大切にしています」

しかし楽しさに振り切った本音は、ネットニュースを賑わすことも少なくない。変な切り取り方をされたら不快に思いそうなものだけれど……。

「嫌ってわけでもないんですよ。たしかに言葉の表面だけすくい取られて、現場の意図とは違うふうに書かれたりすることはあります。でも、そうしたニュースをネタに、またラジオで盛り上がれるから面白くて。今日の放送もそうですけど、“生で聴いてる僕らしか知らない時間”があるのはラジオならではですよね。

そういう意味で、リスナーに対しては友達との感覚に近いんじゃないかな。“そういや僕らさ、いつの間にかこの階段に座ってしゃべるようになってたよな”みたいな」

ラジオがあるから、「ふつう」に生きていける。

菅田さんの番組に対する「目的のなさ」は、ラジオ歴も関係しているのかもしれない。なんと『オールナイトニッポン』を始めるまで、ラジオにゲスト出演したことはおろか「ほぼ聴いたこともなかった」というのだ!そんな彼にリスナーへの印象を聞くと、「すごい」と一言。

「彼らはラジオのことをよくわかっていて、毎回ほんとに絶妙なメールを送ってくれるんです。そのメールからどんどん面白い流れができて、盛り上がって、オチがつく。即興劇に近いのかな。顔も知らない友達と一緒にもの作りをしているようで、ちょっと不思議なんですけど」

こうしてリスナーたちに支えられつつ続いてきたラジオは、気がつけば「楽しい」だけでなく彼にとって欠かせない場にもなっていたそうだ。

「ラジオのおかげでバランスが取れているところはあります。俳優業をしていると季節感も曜日感覚も、時に自分が自分である感覚すらもなくなっていくんですよ。この仕事だけやってたら壊れるんじゃないか、と思うこともあった。
でも、ラジオは毎週同じ時間、同じ場所に来るし、メイクも衣装もセリフもない。役に入らず、考えたことや感じたことを自分の言葉で好きにしゃべれる。すっかり僕のベースになってますね。

それに……俳優って変に持ち上げられがちな職業ですけど、ここでの生放送中だけは自分の“ふつうさ”を実感できるんです。リスナーにナメられるような、社会人サバイバル能力の著しく低い人間。そっか、これが素の自分なんやなーって」

「ラジオ、年齢を重ねた方が面白くなる予感がしています。気を使うこと、これは言えないなってことが少なくなるから。もっと自由に、さらに“本当のこと”を言えるようになるの、今から楽しみですね」

『菅田将暉のオールナイトニッポン』ニッポン放送(東京)/毎週月曜日 25:00〜27:00