最新のカートレンドを訪ねて、アメリカ西海岸へ。〈Race Service〉というカーカルチャーの発信基地

ロサンゼルスに、クルマを中心に据えてカルチャーを発信するチームがあるという。アートやファッションなどを組み合わせて、たくさんの人たちを巻き込みながら魅力的にカーカルチャーを盛り上げる、その取り組みを探りにクルマを走らせた。

初出:BRUTUS No.1006「Car Life」(2024年4月15日発売)

photo: Kenichiro Goto / text: Taku Takemura / coordination: Aya Muto

さまざまな才能が集まった、クリエイティブ集団のオープンスペース

ロサンゼルス。ディズニーランドがあるアナハイムなど周辺のエリアを合わせるとこの町は関東平野と同じくらいの広大な面積になる。一部を除き公共交通機関がほとんど発達していないこの町は、どこへ行くにもクルマが必須だ。縦横無尽にフリーウェイが走り、しかも片側6車線、7車線あるのが当たり前のビッグスケール。この町に住む人たちにとってクルマは、生活必需品だ。だから町にはさまざまなクルマが走っている。

今でこそ少なくなってきたがボディのパーツがパッチワークのように継ぎはぎだらけの使い古されたクルマから、最新の高級車、ピックアップトラックや電気自動車まで。取材中にもテスラの新型車・サイバートラックを何度も目撃した。

そんなこの町に、拠点を置くのが〈Race Service〉。レース、サービス……?それぞれの単語の意味はわかるけれど、連なるとよく意味がわからない、この〈Race Service〉は“クリエイティブエージェンシー”だという。彼らはクルマやレース、それらにまつわるライフスタイルに関するコンテンツやプロダクトの制作などを請け負う。クルマが大好きだったJacobとJamesの2人が中心となり、ディレクター、デザイナー、アーティストなど、さまざまな得意分野を持ったメンバーが集まる。

大きなゲートから入るとこれまでのガレージのイメージを一新するかのようなカラフルで楽しくなるスペースが広がる。レーシングカーやアパレル類が並ぶショースペース、オフィス、ガレージ、アトリエ。クルマにそれほど興味がない人でも長居したくなる居心地のよい空間が広がる。


クルマをさまざまな角度から楽しみ、その楽しさをみんなに伝えよう、というのが彼らの仕事だ。もともと古いガレージだった敷地を改装して造ったこのスペースに、大きなゲートから入ると、正面にはBMWの初代M3、右側にはフェラーリ348とデスクに座ったスタッフが出迎えてくれた

サーキット仕様のフェラーリ348の隣にはデスク。そしてその奥には整備用のリフトも。ここでスタッフたちはミーティングを行う。

とにかく人と表現をミックスする

さらに、メルセデスAMGのレーシングカー、NASCARが収まるガレージにはカーペットとソファがセットされている。まさにさまざまなカルチャーが混在する楽しそうな雰囲気溢れる場所。今回は残念ながら発起人であるJacobとJamesは不在だったが、〈Race Service〉所属のアーティストでありアートディレクターを務めるOrnamental ConiferことNicoが現れた。

Ornamental ConiferことNico
Ornamental ConiferことNicoをアトリエで。

「この〈Race Service〉は2018年、今から6年前にできたんだ。JacobとJamesが共にスタートさせた、まだまだ新しい集団だね。それまではオンラインベースでやっていたことを、実際に自分たちのスペースを持ってやっていこう、ということになってまずはこの場所を作ったんだ」

これまでにあったレースやクルマの産業のイメージをもっとクリエイティブに、アートやファッションなどほかのカルチャーと結びつけ、新しい価値観でカーカルチャーを定義する提案をしている。〈Race Service〉内はいくつかのセクションに分かれていて、オフィスやショールーム、そしてNicoのアートスタジオもある。

「正面奥が僕のスペースなんだ。若い頃はグラフィティが好きだったんだよね。とにかく昔から手を動かすことが好きで。小さな頃は特にラリーカーが好きだったよ。見た目は普通の乗用車なのにさまざまなスポンサーのステッカーが貼られていたり、カラフルに塗られているボディに惹かれたんだ。

正直に言うとそれほどクルマそのものには興味がないんだよね(笑)。でもクルマのボディは作品を描くためのキャンバスとしてとても魅力的なもの。もともとレースに詳しいJacobとJamesと、レースならではのルールやセオリーを話し合いながらペイントするのも、とてもチャレンジングで楽しい。

そんな“ミックス”が大事なのかもね。例えば、映像を担当しているAndyはもともとスケートボードのビデオを撮っていたから、その感覚でクルマの撮影をした映像は新鮮。主にアパレルを担当するMaxなどいろいろなバックグラウンドを持つスタッフが集まると、さらに新しいものが生まれる。今ではコンピューターで仕上げられる作品が多いけれど、僕の場合はほとんどのものをハンドペイントで仕上げるようにしているよ。ほかのスタッフも僕のやり方を尊重してくれているんだ」

なるほど、敷地内に置かれているBMW M3のボディも、近くで見ると筆跡が残っていて、直接ペイントしていることがわかる。このスペースにいると〈Race Service〉がどんなことを目指しているのか、作品やその空気感を通じて確認できる。

「カーレースの世界は男性的な部分が多い。その世界が好きな人にはいいのかもしれないけど、興味がない人にもレースの楽しさやクルマの美しさを知ってもらえたらと思っているよ。このガレージにはレーシングカーとともに花も飾られているでしょ。花とレーシングカー、まったく違う物質ではあるけれど、それぞれ美しさがあって、同じように価値があると思うんだ」

クルマやカーレースにあまり詳しくない人でも長居したくなる気持ちのいい空間だ。

「レーシングカー、メルセデスAMG GT3の隣にあるアパレルも僕たちが提案して製作したプロダクト。今までのレースイベントなどで販売されたり配られたりするTシャツなどのアイテムは目立つようにロゴを入れることが重要で、クオリティは二の次。それでいいとされてきたけれど、もったいないと思うんだ。普段も身に着けられて、ファッションを楽しめるように、ハイクオリティな素材にこだわって製作してるよ」

クルマとそれから発生するさまざまなカルチャーを新しいアイデアで楽しむ。それがとても新鮮に感じる。クルマが社会に浸透したロサンゼルスだからこそ、さらに新しいカーカルチャーの発信地となる〈Race Service〉のこれからの活動に期待したい。