QUEEN☓野田秀樹という、予想だにしなかったコラボレーションで、衝撃をもって迎えられたNODA・MAP『Q』:A Night At The Kabuki。名盤『オペラ座の夜』の楽曲全12曲がストーリーを彩る……のみならず、野田が歌詞を熟読して戯曲を執筆しただけあり、場面と楽曲(あるいは、楽曲から抜き取った音や歓声)とが、巧妙に絡み合う。
以前から構想を練っていたという“『ロミオとジュリエット』のその後の物語”に、さらに源氏と平家の争いなどのドラマが交錯すると書いてしまうと、なにやら荒唐無稽な筋書きのようにも見える。が、そこはそれ。野田秀樹の筆にかかれば、語感と意味合いとが噛み合った言葉遊びをちりばめた美しい(かつ、膨大な)台詞が織りなす、愛と運命の物語となってやがて胸に迫る。2019年の初演では、第27回読売演劇大賞・最優秀作品賞を受賞した。
今回は、3年ぶりの再演。初演のオリジナルキャスト10人が誰一人欠けることなく再集結することは、極めて珍しい。本作で初舞台を踏み、第54回紀伊國屋演劇賞・個人賞を最年少で受賞した広瀬すずと、野田作品初参加だった志尊淳というフレッシュなふたり。そして松たか子、上川隆也、橋本さとし、小松和重、伊勢佳世、羽野晶紀、野田秀樹、竹中直人という巧者たち。盤石のカンパニーで再演に臨む。加えて、野田作品に欠かせないアンサンブルキャスト16人も、千変万化のパフォーマンスで多様な役割を果たす。
東京・大阪に加え、ロンドンと台北での海外公演があることも話題だ。特にイギリスはQUEENの“本国”なだけあり、いわば“逆凱旋”公演。ちなみに、イギリスと野田秀樹の関係は深い。「劇団 夢の遊眠社」時代の1987年に『野獣降臨』が正式招待を受けて、エディンバラ国際演劇祭へ。92年「劇団 夢の遊眠社」解散後、ロンドンへ留学。その後も『THE BEE』『THE DIVER』『One Green Bottle』と、折々にロンドン公演を行っている。今回の会場は、伝説の劇場といわれる「Sadler’s Wells Theatre」で、“逆凱旋”の舞台には申し分ないだろう。
作品の根底に込められている大きな“祈り”は、2022年の世界では、初演時以上に重い意味を持つ。繰り返し使われる「ラヴ・オブ・マイ・ライフ」の調べが、脳裏から離れなくなる。