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大沢悠里×ジョン・カビラ「ラジオの情報には人情も愛情も詰まってます」

J-WAVEのスタジオがある六本木ヒルズにて「この素晴らしい景色なら、カビラさんみたいにかっこよくしゃべれるかな」「いやあ、そんな、またまた」って、ふたつの第一声から鳥肌立ちました。ラジオ界の巨人、夢の競演を、文字のみの放送で、ごめんなさい。

photo: Tatsuya Nakayama

「元気ですね、深酒ですか」って、図星!
ラジオの情報には人情も愛情も詰まってます。

大沢悠里

私のスタジオは、眺めはあまりよくないんだけれど、ちょうど山王下の日枝神社前の信号が見えるんですよ。

空が曇ると、信号の青がくっきり見えてくる。雨が降ったら、なんとなくじめじめして、憂鬱になる、その気持ちを聴いている人と共有できるのね。だから録音はあまり好きじゃない。

ジョン・カビラ

録音は、ディレクターのこだわりによっては何度も録り直しますしね。

大沢

色気が出ちゃうんですよ。トチったら、録り直したくなる。生なら、流れちゃったらしょうがねえんだ、ってね。

カビラ

潔さがありますね。

大沢

生ならではの楽しみもあるんですよ。あと3分なら、この3分を何とかうまく使ってやろうとか。私は中から逆Qを振っちゃいますから。

カビラ

FMは、5時間半の番組で30曲~40曲の楽曲をかけて、どう愉しんでいただくかが腕の見せどころなんですね。

前奏や間奏で、ディレクターが入らないだろうと思うところを入ったり、ボーカルがいったん消えたところで入っちゃう。一種の遊びですね。

大沢

ディレクターと一緒になって遊んだり、細かいところを凝ったりね。やっぱりこっちが楽しく遊んでないと、聴いていても面白くないでしょう。決してイージーにやるわけではないけれど、リラックスはしないとね。

カビラ

テレビは全部決め込んで、はめ込んでいく世界ですから、こんなふうに遊びの自由はないですね。CMもコンピュータ管理で強制送出だし。

大沢

半年だけピンチヒッターでテレビに出たけれど、あれはアナウンサー人生の汚点です(笑)。
嫌いなんですよ、テレビ。浮ついているというか、じっくり話を聴けないでしょう。

カビラ

秒単位でコントロールされていますからね。

大沢

テレビに向く人と向かない人がいるのかな。みのもんたさんは、やっぱり器用なんですよ。パッと現場に飛び込んで、パッと次に行ける。僕は不器用だから、スタッフと一緒に一から作っていかないと、怖くてだめ。

テレビをずっとやっていた人がラジオですぐにしゃべれるわけでもなくてね。私ももとはアナウンサーですが、アナウンサーの殻は抜けなきゃいけない。

カビラ

アナウンサーは、間違えないように、冷静に、と叩き込まれていますからね。

大沢

もっと聴いている人との距離感を縮めることが必要ですね。
「うわ、怖ーい!」と言えばいいのに、「ああ、怖いですね」では伝わらない。

カビラ

FMは局員、社員はいなくて、ほとんどが、いわば普通の人です。だからこそ、易しい言葉で正確に、という基本を心がけます。

自分が聴いて不快にならないようにも気をつけていますね。兄貴じゃないのに、上に立ったようなしゃべり方はしたくない。

キャスター・ジョン・カビラ、アナウンサー・大沢悠里
「ほら、あれが赤坂サカス。私は9階でね」「なるほど、あそこからお色気大賞なんですね……」

大沢

聴いている人の立場でものを言うことが大事だとつくづく思いますよ。上から教えるという意味じゃなくてね。私の場合はやはり自分と同じような年齢層の人が聴いてくれる。

みんな朝8時半になると、テレビの連続テレビ小説を切って、ラジオをつけて、板前さんが準備を始めたり、せんべいを焼きはじめたり、ハウスでイチゴを摘んだりね、仕事の手を止めないで聴いている。

そういう人に対して思いやりのある番組にしたいと思いますね。背伸びしないで話せる範囲で話をするし、話す速度をゆっくりにする、電話番号やゲストの名前は何度も言うとかね。

カビラ

FMだと音楽が重要なパートを占めるから、洋楽か邦楽か、比率はどうなのかと、ターゲットを考えて番組を作る中にしゃべりがあるわけです。

局がどういう方向を向いているかも、しゃべりに影響する。FMは雑誌ならライフスタイル誌ですね。きれいなグラビアでちょっと夢を見せてくれる。

大沢

AMは週刊誌かな。私も蝮さん(毒蝮三太夫)も、流れもヘチマもない(笑)。

カビラ

J-WAVEの発足当時は、かっこよくなければならないという妙なプレッシャーがあって、冬の放送後、「カビラ君、鍋の話は……どうかな」「は? 鍋、おいしいじゃないですか」「いや、でも鍋ってダシ臭いしね」「えーっ」みたいなことがありました。

大沢

AMは逆に鍋を出さなきゃだめなんですよ。味噌の匂いもぷーんとするような。おでんもあり、焼鳥もあり、居酒屋ですね。

カビラ

ラジオは視覚の刺激がない分、みなさん集中して聴いていてくれるのが、うれしいけれど、怖いこともありますね。

「カビラさん、今日は普段より元気がいいですね、飲みすぎですか」ってメールが来て。図星なんです。

大沢

ゲストもすっぴんで来ますからね。すごいもんですよ(笑)。でもかっこつけないでしゃべってくれるから、人間性が伝わる。

私はゲストに関する資料は細かく読みますが、何を話すかは全然決めてなくて、その場で考えるの。そのほうが伝わるでしょう。

カビラ

しかも聴く側のひとりひとりの頭にシアターがあって、いろんなイメージを持って、想像力を駆使して、自由に遊ぶことができるのがいいですね。

大沢

社会的な問題についても、聴いて、自分の意見を持って、ちゃんとファックスやメールで送ってくれるんですよ。ラジオは外とつながっている、一番身近な存在じゃないかしらね。

でも東京は高いビルがどんどん建って、AMの電波が届かないという危機感はあります。そもそも家にラジオがない人も増えている。ちょっとテレビを消して、ラジオをつけてほしいんだけれども。

カビラ

FMは電波の心配はありませんが、新しい機械を買ってもらうのは難しい。活路はストリーミングじゃないかと思いますね。

インターネットでリアルタイムで配信して、携帯電話でも聴けるようにする。まあ楽曲の著作権をクリアしなければならないという問題がありますが。

大沢

編成の面からは、深夜を含めた夜の時間帯に、もう少し大人びた番組をやってもいいかな。

キャスター・ジョン・カビラ、アナウンサー・大沢悠里

カビラ

テレビで活躍している人の力を借りて作りたがるのも、そろそろやめてもいいと思いますよ。僕らだけでできるはず、と思うから悔しい。
糸居五郎さんのような、ラジオだけのヒットメーカーが出てきてもいい。

大沢

午前3時だった。
「夜更けの音楽ファンにお送りする糸居五郎のディスクジョッキー。みなさんこんばんは、糸居五郎です」ってね。

カビラ

CBSレコーズは糸居さんにゴールドディスクを進呈したほどですよ。そんなふうに、楽曲に対するリスペクトと愛情を伝えられる番組が欲しいですね。

大沢

ラジオは声だけだからこそ、自分自身を伝えられるんですよ。優しさとか思いやりもね。
私は、「人情、愛情、みな情報」と言ってるんですが、聴いたらほっとする、そんな時間をできるだけ作りたいですねえ。

カビラ

生放送は現在を共有している連帯のうれしさもあります。テクノロジーの進化で関係が薄まるかと思いきや、携帯からすぐレスポンスが来る。ラジオは本当に、今を生きているメディアですよ。

大沢

じゃ、私たちの今をお届けするために、たまには入れ替わって放送しましょうか。