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みんなの心と体を温める。心を揺さぶる〈スープストックトーキョー〉のPR術

多くの共感を集めた企業の担当者に聞く、思いを伝える秘訣とは?これまでPRとどのように向き合ってきたのか、〈スープストックトーキョー〉取締役社長の工藤 萌さんに尋ねた。

photo: Wataru Kitao / text: Shoko Yoshida

みんなの心と体を温める。常にそこに立ち戻ります

どんな企業も、人の心を動かし得るメッセージや信念を持っている。けれど、その思いを魅力的に社会へ伝えられているかは、また別の話。企業が情報を発信する際、近年はネットでの“炎上”を恐れ、いかにネガティブな視線を回避するかが重要視される傾向にあるが、時に発信者の予期せぬ形で受け取られてしまうケースもあるだろう。

しかし、実際にそういった困難に直面しても、思いを伝えることを諦めない、真摯な姿勢とメッセージで多くの人の心を震わせることがある。思い出されるのは2023年4月、〈スープストックトーキョー〉(以下〈スープストック〉)が発表した、離乳食の全店無償提供にまつわるエピソードだ。

当時〈スープストック〉は子育て世帯の応援を込めて、生後9〜11ヵ月目安の子供を対象に、ほぼ全店舗で離乳食の無償提供を始めることを発表。「画期的だ」「ありがたい」という声の一方で、「一部のお客さんを優遇していないか」「一人で行きづらくなった」などと、ネット上では賛否両論が飛び交った。

それに対して、〈スープストック〉は、安易に謝罪をするのではなく、声明文を公開。そこでは同社の企業理念と、取り組みに対する考えが丁寧な言葉で説明されており、発信者の気持ちが手紙のように伝わってくる文章として、大きな話題になった(現在も公式HP上で閲覧可)。

声明文執筆に携わったうちの一人は、取締役社長(当時は顧問)を務める工藤 萌さん。飾り立てることなく、一貫した姿勢をありのまま綴ったことで、結果的に会社の魅力が広く伝わったことに対し、「〈スープストック〉の発信物は、常にこの循環で自然に生まれています」と振り返る。

「そもそも、〈スープストック〉にはマーケティング部もコピーライターも存在しません。食のバリアフリーを目指す『Soup for all!』という取り組みと、スープを通じて“世の中の体温をあげる”という理念に基づいた話し合いは、社内で日常的に行われているので、PRはその思いを伝える一つの方法だと思っています。

何かを宣伝するために伝えることを絞り出すのではなく、日頃から企業理念に立ち戻ることで、意識せずともすべての行動がPRにつながる。そうした一貫性があるから、離乳食の無償提供を発表した際も、周囲の反応に必要以上に動揺することはなかったですし、声明文の言葉に納得してくださる方も多かったのだと思います」

目先のエンゲージメントや利益率などではなく、常に一人一人が当事者意識を持って行動するという文化も、社風としてしっかり根づいている。そうして生まれる、〈スープストック〉ならではの店舗接客もあるという。

「毎年1月7日には七草粥を店舗で提供しているのですが、“今年も一年、健康でお過ごしください”とお渡しする際に一言添えています。お客様の無病息災を願い、心の体温をあげたいと考えているからです。

この企画を実行する前には、各店の代表者が集まり、“なぜ私たちは七草粥を販売するのか”という問いを持ち、どういうシーンを描きたいのかを話し合う時間も持ちました。

このように上からの指示ではなく、アルバイトを含め、全員が企業理念を体現しようと主体的に考えていることも私たちの誇りです」

仲間同士、企業理念が指す方向を向いて仕事に向き合う。まさに企業にとって理想の形だが、そんな環境が自然と出来上がる秘訣は?

「カルチャー作りは入口が肝心。私自身も参加する採用活動や初期の社員研修では、理念の理解に時間をかけています。体温があがることを問いかけ、自分事で考え続けてもらうことを大切にしています」

ここで疑問が一つ。〈スープストック〉が商品説明やプレスリリースで綴る文章は温かく、押し付けがましく聞こえないのはなぜだろう。強い信念が込められたPR文であるなら、インパクトの強い言葉ばかりが並んでいてもおかしくないはずだが。

「誰かや何かを否定したり、無意識のうちに決めつけたりはしたくない。なので、世の中で一般的に使われている表現でも、そもそもどの立場から物事を見ている言葉なのか、自分の持つ常識や固定観念を疑うことから始めます。

各人の思い込みもあるかもしれないので、“自分の生い立ちではこう感じるけど、ほかの人から見たらどうだろう?”と多くのメンバーが社内外の人にインタビューしている様子もよく見かけますね。

例えば弊社には、年齢や障がい、歯の治療などさまざまな理由で“食べる力”に不安がある方に寄り添う『食べやすさ配慮食』という商品があります。

24年12月のオンライン販売開始に合わせプレスリリースを書いたのですが、“あらゆる方とおいしいを分かち合い温かなシーンを作りたい”という思いが正しく伝わるよう、言葉遣いや表現について慎重に検討を重ねました。同時に、そもそも、その言葉や表現を使うスタンスについても、深く議論しました」

〈スープストック〉が日常的に発信する情報からもう一つ感じ取れるのは、食材の生産者などのビジネスパートナーの存在をあらゆる関係者に伝えたいという積極的な姿勢だ。

「別の組織に所属していても、共感し合える仕事仲間のことを、たくさんの人に知ってもらいたい。一杯のスープを届けるまでに行動を共にしている方々の思いを代弁させてもらい、最終ランナーとして“世の中の温め方”を誠実にお伝えできたらと。

広告はスピードだという理論で言えば、引きの強い言葉やビジュアルをテクニカルに連ねる方が効果的でしょう。ですが、絶対解を企業が提示することには違和感があります。なので、私たちは選択肢を提供し続けたいと思っています。そうして、“買ってくださる消費者”ではなく、私たちの思いで体温があがる“共感者”が増えていったら嬉しいです」

田植えの様子
田植えと稲刈りに参加、生産者と関係性を築く
生産者とのコミュニケーションも大切にしており、富山県砺波(となみ)市の契約米農家の元へは、毎年社員が田植えの手伝いに行く。「多くの方に共感してもらえるブランドでありたい。公式SNSなどでも、食材の産地やビジネスパートナーの方々との取り組みを伝えています」(工藤さん)

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