広報・財務などを渡り歩いて20年超になる〈国立科学博物館〉(以下科博)の関根則幸さんと、勤務6年目で広報室長を務める〈国立新美術館〉(以下新美)のオエットリ愛子さん。広報チームを牽引する2人に、特に印象に残っている仕事を挙げてもらった。はじめは私たちにも馴染みがある展示の話から……。
関根則幸
科博の場合、常設展示のほか、上野では企画展と特別展を合わせて年8回ほど企画展示を開催しています。ほかに東京・白金台にある〈附属自然教育園〉や、茨城県の〈筑波研究施設〉にある〈筑波実験植物園〉でも、年間で上野の科博と同数程度の企画展示を開催しています。そのPRの多くが私たちの仕事です。
オエットリ愛子
科博と新美の大きな違いの一つですね。そもそも常設展がない新美では、年数回の企画展が柱になります。近年では、新美で企画した『大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ』展が大仕事の一つでした。展示するその現場で作家に制作していただく巨大なインスタレーション作品があり、どうしても通常よりも展示の全貌が確定するまでに時間がかかるんです。
会期前に本格的に広報ができたのはほんのひと月ほどでした。学芸員による大巻さんのインタビューに同行し、その生の声を生かしたり、各種プレス対応を行ったり。ノンバーバルな展示だったこともあり、新美としても初めて外国語のメディア向けにギャラリーツアーも行いました。
研究者/学芸員の思考を、リリースに落とし込む
関根
濃密なひと月ですね。科博では、広報のための文章や写真などは、担当する研究者が準備してくれます。その内容が専門家以外にも伝わりやすいよう体裁を整えたり、言葉遣いを相談・調整したりするのが重要な仕事の一つ。例えばメディア向けのプレスリリースなら、タイトルをつけて、大まかな内容がわかるリード文をつける。「世界初」「日本初」などキャッチーでニュースバリューがある単語は冒頭の目につく箇所に書くよう意識します。
オエットリ
新美でも、素材は担当学芸員が準備してくれるところからですね。そのうえで、見どころなどをヒアリングしながら、リリースを作っていきます。タイトル、リードはもちろんですが、いかに魅力的な写真を使うことができるかも重要視していますね。「この作品が本展の肝なんだ」という学芸員の意志は尊重しつつ「こっちの作品の方が映えそうなので」と相談することも実は少なくなかったり……。
関根
わかります(笑)。実は、科博のプレスリリースの半分ほどは、研究成果の発表なんです。展示や資料収集・保存と同様に、調査研究もこの博物館の大切な役割の一つですから。〈筑波研究施設〉の研究者が執筆し、学術誌に掲載される論文は一般向けにもPRしています。このときも研究者に素材を準備してもらうのですが、やはり難解なんですよね。メディア関係者をはじめ一般の方にも、少しでも興味を持ってもらえるように、表現を相談することは欠かせません。例えば「ウグイスの谷渡り鳴き」という現象があります。
これは捕食者の存在を仲間に知らせる警報だと考えられてきました。ところが新たな研究はメスに対するアピールであるという仮説を提唱するもの。つまり捕食者を回避できる強いオスだ、と表現しているんですね。そこから「つまりチキンレースみたいなものでしょうか」とリリースに書こうとしたら、相談の末に断られました(笑)。
オエットリ
広報でできることとしては、リリースを発表するタイミングも大切だと感じています。例えば2024年、新美が香港の現代美術館〈M+〉と国際連携し、共同企画を行うことを発表しました。発表記者会見自体は3月末に行われたのですが、リリースを出したのは少しずらし、あえて4月半ば。速報としてリリースを打ってもよかったのですが、年度末の忙しい時期より、その方がより広く取り上げてもらえるのでは、と考えたんです。
関根
確かにタイミングは重要ですよね。昨春、文部科学省でのプレスカンファレンスで科博の広報を行いました。そこで以前から興味深いと思っていたサクラマスの感覚器に関する研究について紹介したら、メディアに取り上げてもらえたんです。ただ、この研究はそれより1年半ほど前に一度リリースを打っていた。期せずしてPRできた形ですが、いつ・どこで・どのように広報するかも大切だと身をもって感じました。
オエットリ
あとはリリースを出しっぱなしにするのではなく、地道にメディアに電話をかけたりして。
アンケートにクラファン。伝えることでできること
関根
力業の広報ですね(笑)。15年ほど前に広報課にいたときはテレビ局などにも積極的にPRしました。そうした昔ながらの方法もありつつ、SNSを筆頭に現代ならではの広報も欠かせませんよね。企画展『知られざる海生無脊椎動物の世界』の会期中には、タイトルに沿って、展示のメインとなるクラゲや貝、タコなどの意外な知識を意識的にSNSで紹介しました。
YouTube『かはくチャンネル』では、アナウンサーで同志社大学に勤める桝(ます)太一さんと当館の研究者によるライブ配信『科博から広がる自然科学の世界』シリーズも公開しています。
オエットリ
新美でもSNSは普段から運用しています。幼児を育てる家族に向けて託児サービスもやっており、その告知も反響がありました。『蔡國強 宇宙遊 ―〈原初火球〉から始まる』展のときは、大規模なLEDインスタレーションを含む展示が、子供たちにもきっと楽しんでもらえるだろうと思い、「ファミリー・デー」を開催しました。まずそのために、家族で訪ねやすい曜日・時間についてSNSでアンケートを取ったんです。
その結果、日曜日の午前中が良さそうだとわかり、当日だけは開館時間を1時間早めて9時オープンに。そのうえで12時までは「家族でおしゃべり鑑賞アワー」として、親子で話しながら作品鑑賞ができる時間を設けました。
関根
こういう双方向のコミュニケーションもSNSならではですね。
オエットリ
科博では、なんといってもクラウドファンディングがとても話題になりましたよね。近年の国内のミュージアムでは最大の広報事例だったのではないでしょうか。
関根
これはもう本当に大きかったです。2023年の夏のことでした。「地球の宝」でもある当館の標本・資料を守るために、広く支援をお願いしました。SNSで話題になり、メディアにも大きく取り上げていただき、目標の9倍、約9億円の支援をいただく結果に。このときはとにかく、貴重な標本・資料の存在を知ってもらうことが不可欠と考えました。
ただそもそも非常にデリケートな資料なので通常、保管現場を公開することはありません。その中で研究者にも納得してもらいつつ、メディアに見せられるものを調整したんです。こうした工夫が支援結果に与えた影響は、きっと少なくなかったと考えています。
オエットリ
日々やりとりする研究者との信頼関係でもありますね。
関根
現在は科博の総力を挙げて、2027年に向けた広報活動の準備が始まっています。ここが開館150年という節目の年なんですよ。
オエットリ
新美も同じく27年は大事な周年の年になります。まだこちらは開館20年ですが。
関根
もうすぐですね。一足先に150周年を盛大に祝った〈東京国立博物館〉の成功に続くよう、お互いに頑張っていきましょう!
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