大自然の中、2人の青年が挑むのは、禁じられた熊狩り
マタギの文化を受け継ぐ人たちの生き方を、過酷な大自然の中に描く、その描写力が素晴らしい。映画『プロミスト・ランド』は東北の山間部を舞台に、禁猟の通達に抗(あらが)って熊狩りに挑む、2人の青年の姿を映し出す。
それは自然や伝統と格闘するマタギ衆の青年たち——杉田雷麟と寛一郎が好演している——の、ひりひりするような青春劇でもあった
——マタギについて、どうやって学ぶところから始めましたか?
杉田雷麟
以前、『山歌』という映画に出たときにも、マタギの存在に触れる機会はあったんです。でも今回の作品を始めるにあたって、改めてマタギについて学びました。
飯島将史監督が前に撮っていたドキュメンタリー『MATAGI-マタギ-』を観たり、本番の1週間前から現場の山形に入ったりして。山形ではマタギの監修をしてくださった方と、熊狩りをする想定で山に登ったりしました。
実際のルートを辿って、二手に分かれて仮想の熊を追う中で、山での歩き方や熊狩りの装備などを事前に知ることができたのはよかったです。
寛一郎
マタギという言葉について調べると、実はいろいろな意味があるんですね。伝統的な方法で狩猟をする人たちを指すだけではなくて、例えば建物の土間のことをマタギと言ったり、石橋のことをマタギと言ったり。
文化を継承することもマタギと言うそうです。熊狩りをするマタギの人たちにとっては、マタギという言葉は山の神を敬う精神や自然と共生する価値観とつながっていると聞きました。
テーマは人間と自然の共生
——2人の役柄は、マタギについて異なる考えを持っています。
杉田
僕が演じた信行は、マタギの文化に対して決して前向きではないんです。
寛一郎
一方で僕が演じた礼二郎は、マタギに無批判に依存している。ある文化に対して、そこまで密接に生きている役を演じるのは、決して簡単なことではありませんでした。
マタギの方に「マタギのどこが好きなんですか?」と聞いても、「撃(ぶ)つのが好きなんだよね」って。当たり前のように受け継いできたことなので、明確な理由はないと思うんです。
ただ、なにかを受け継いだり、踏襲したりする点では、自分が育ってきた環境とリンクするところもあったので、そういったことを役に投影していきました。
——この映画のテーマの一つは"自然との共生"です。
寛一郎
僕は自然が好きだし、自然と触れ合うとパワーを感じるので、なんとかして自然を守っていきたいなと。でも一口には言えないテーマですよね。
杉田
僕も自然は好きですけど、普段は忘れがちだなって。地元の栃木にいたときは、お金がかからないからと思って、山でよく遊んでいたんです。でも仕事が忙しくなると忘れてしまう。食事を通して動物の命をいただいていることも、当たり前になりすぎてしまって。
だからこういう作品が、人間と自然が共に生きていることを再確認する、いいきっかけになればいいですよね。
——山形での撮影は、自然環境の過酷さもあって、とても大変だったと聞きました。
杉田
早朝に山へ行って、そこからさらに1時間かけて撮影現場まで登るんです。僕らは自分の装備だけでしたけど、スタッフさんたちは機材を抱えながらだったので、本当に大変だったと思います。
でも雑談をしながら、「そこ危ないよ」とか声をかけ合って現場へ向かう、その時間はほかの現場では経験できないものでした。
寛一郎
毎日、山を登り下りする中で、撮影を通して体力がついたよね(笑)。
杉田
うん。撮影でも、実際に山を登ることで、計算ではできない芝居ができました。肉体的にどんどんしんどくなっていく芝居をしようと考えていたら、本当に辛くて(笑)。芝居をするにあたっては、恵まれた環境だったと思います。
寛一郎
一日中、ずっと山にいたので、自然と役になっていったところはありますね。
——撮影を通じて、山は好きになりましたか?
杉田
雪山はとても美しいんですよ。でも同時に怖いところでもあって。
寛一郎
怖かったね、本当に。
杉田
実際に熊を見たり、鹿がすぐそばまで寄ってきたりしましたから。だから、なんて言えばいいんだろう……。
寛一郎
プライベートでもまた山に登りたい、という気持ちとは少し違うかもしれません(笑)。