今年の「PARCO GRAND BAZAR」は『パプリカ』とコラボレーション。世代も国境も越える作品の魅力と、キャンペーンで生まれる化学反応

PARCOの冬の大セール『PARCO GRAND BAZAR(パルコグランバザール)』。毎年様々なコンテンツとコラボレーションしてきた名物企画だが、今年、タッグを組んだのは今 敏監督のアニメーション映画『パプリカ』。公開20周年を迎えながら世界中で今なおファンを増やし続ける本作の魅力はどこにあるのか、そして、『PARCO GRAND BAZAR』とのコラボレーションでどんな化学反応が起きるのだろうか。

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今 敏が『パプリカ』で提示した、夢の恐ろしさ、そして夢の美しさ

文・門間雄介

今年(2025年)10月、今 敏の初監督作『PERFECT BLUE』(1997年)がアメリカやイギリスで再上映された際、BFI(英国映画協会)は彼を「大人向けアニメーションの先駆者」と紹介した。そして「彼が監督として手がけた4本の長編映画は、時とともにますます評価が高まっている」と。

2010年の逝去から15年を経てなお、今 敏に対する国内外の評価の声はやむことがない。彼はアニメーションの可能性を探求する、刺激的で先鋭的な作品を作りつづけた。なかでもその集大成といえる作品が、ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に選出され、公開された長編アニメーションとしては、残念ながら彼の遺作となってしまった『パプリカ』(2006年)である。

他人の夢をシェアできる画期的な装置“DCミニ”が研究所から盗まれた。DCミニを有効に使えば、他人の夢に入り込み精神治療を施すことができるし、悪用すれば、他人の無意識下に悪夢を投影して精神を破壊することもできる。サイコセラピストの千葉敦子はパプリカという名の探偵に変身し、DCミニにより次々と精神崩壊を引き起こすテロリストを夢の中に追いかけるが、やがて夢と現実の境目は溶け合い、夢が現実を侵食していく。

夢(ファンタジー)と現実(リアリティー)。それは『PERFECT BLUE』以来、今 敏が何度も描き続けてきたモチーフだ。その2つの境界線はたいていは曖昧で、混じり合うところに彼の重層的な作品世界は立ち上がる。通常なら対立するような2つの概念を、今 敏は対立したものとして捉えない。だから彼の作る作品は、空想的でありながら同時に現実的でもある。この現実味の部分が、アニメーション映画といえば子ども向けのものが大勢を占めた1990年代終盤~2000年代初頭の海外市場で、彼を「大人向けアニメーションの先駆者」として認知させたのだろう。

現実に根ざした舞台設定とか、リアルなキャラクターデザインとか、そういった作風から彼の作品は「まるで実写のよう」と時に評されてもきた。「別にそれが嫌だったわけじゃないんですけど」と断った上で、彼は『パプリカ』のコンセプトについて公開時のインタビューで話している。

「今回は今までやってこなかったような部分も鍛えるために、アニメのようなアニメを作ろうっていうコンセプトは最初からあったんですよ」(『CUT』2006年12月号)

彼はその試みの一つとして、筒井康隆の長編小説を原作とする『パプリカ』を「変身ヒロインものである」と考え、ヒロインが敵と闘う冒険活劇のかたちに大胆に翻案した。そして想像力の枠を他の長編作品より大きく広げ、実写では決してできない、イマジネーションに溢れるアニメーション表現を追求した。

その最大の成果は、劇中にくり返し登場する“夢のパレード”のシーンに見てとれる。鳥居や仏像、招き猫やダルマ、さらには人体模型や日本人形など、現実から打ち捨てられた有象無象がにぎやかなマーチに乗って行進する『パプリカ』の象徴的な場面は、渦巻くイメージで観る人を恐ろしい夢に誘い込む。

パレード以外にも、床がぐにゃりと波打ったり、風景の一部がバラバラと剥がれ落ちたりする、超現実的な描写の数々は、今まさに夢を見ているかのような奇妙な臨場感を観る人に与える。夢の中では、何が起きても不思議ではない。空を飛ぶことも、巨大化して敵と闘うことも、夢の中なら何だってできる。アニメーションの多様な表現方法を駆使して、『パプリカ』はありのままの夢をそこに作り出すことに成功した。

その一方で、やはり今 敏の視点が現実的なのは、他人の夢を共有するDCミニというテクノロジーを、“科学の暴走”としても映す点だ。DCミニを盗み出す黒幕は、夢を科学により支配する行為を、人間の思い上がりだと非難する。深遠な夢の領域は誰にも侵せないものなのだ、と。テロリストが犯行の動機の一端を、そのような科学至上主義への批判として示すことは、変身ヒロインの冒険活劇を目指したこの作品を、単なる勧善懲悪のストーリーにとどめない。本来は悪であるはずの敵役が、ある種の道理にかなった主張をすることで、夢と現実の境界が溶け合うのと同様に、善と悪の境目は曖昧になる。

『パプリカ』の魅力を考える上でもう一つ大事なのが、夢というモチーフの扱い方だ。もちろんこの作品は、眠っているときに見る夢についてまず描いているが、同時にまたいつかかなえたいと願う夢のことも浮き彫りにする。本作の裏の主人公ともいえる存在が、パプリカのセラピーを受ける中年刑事・粉川だ。不安神経症に悩み、どこからか聞こえてくる「続きはどうするんだよ?」という謎の声に苦しむ彼が、物語のラストで再発見するかつて抱いた夢。

今 敏はその最後の作品で、夢の続きという、ほのかな希望を示唆する結末を用意した。『パプリカ』は夢の恐ろしさと、そして夢の美しさを提示する。

PARCO GRAND BAZARならではの『パプリカ』とのコラボレーションの数々

『パプリカ』はただのアニメ映画という域を超え、ファッションや映画、音楽など様々な面で世界中でファンを増やし続けてきた稀有な作品。そしてパルコも同様に、商業施設だけにとどまらず、アートや映画・音楽・演劇・出版など幅広い領域で活動をおこなってきた。そんな両者のコラボはファンからすると見逃せない企画だろう。

キャンペーンの目玉はCMからイベント、コラボレーションまで幅広い。CM映像は「2026冬 PARCO GRAND BAZAR『パプリカ』篇」というタイトルで映画に出てくるキャラクター“有象無象(うぞうむぞう)”たちが渋谷の街を行進する特別な映像だ。音楽は劇中でも印象的で、今なお世界でファンの多い平沢進による「パレード」が使用。作品のファンにとってはそんなポイントも嬉しいところ。

イベントも目白押しで、2026年1月2日(金)~1月5日(月)の期間中には『パプリカ』オリジナルグッズや商品券が当たる『GRAND BAZAR抽選会』が開催。期間中に税込5,000円以上のお買い上げ(複数ショップの合算も可)で、「ポチ袋入りPARCO商品券」「ニット」「羽子板セット」「コットントートバッグ」「夢日記帳」などのこの抽選でしか手に入らない『パプリカ』オリジナルグッズが抽選で当たる。

特に様々な映画や人物を大胆にあしらったニットで人気の「編み物☆堀ノ内 オリジナルニット」はファンならぜひ手に入れたいところ。羽子板や扇子は、有象無象にも出てくる日本の縁起ものから着想を得ていたり、作品のテーマが「夢」であることから作った夢日記帳の表紙が作中に登場する夢の中のバー「RADIO CLUB」のドアのデザインだったりと、さりげないがグッとくる細かいポイントが散りばめられたアイテムばかりだ。

他にもレストラン・カフェにて1会計税込1,200円以上の利用者にはオリジナルのブックマーカーが配られる『レストラン&カフェ ノベルティ』やSNSでのプレゼントキャンペーンも行うのでぜひチェックしてみてほしい。

そして、コラボレーショングッズが豊富なのもグランバザールの魅力の一つ。札幌、渋谷、名古屋、心斎橋店では、オリジナルのスペシャルグッズを販売する「Paprika limited pop up store」がオープン。特に、アニメーション作品とのコラボレーションTシャツで評価の高い「GEEKS RULE」と『パプリカ』のコラボレーションは初めての試み。ヒロインのパプリカの象徴的なビジュアルと映画のキーとなる蝶などをオリジナルコラージュ。シルクスクリーン15版を使用し、映画の世界観を表現したビジュアルを再現している。

そして館内にあるオリジナルラベルドドリンクを提供する自動販売機「TAG LIVE LABEL(タグ ライブ ラベル)」とのコラボレーションラベルの販売も行われる。

さらにはミュージックカフェ&バー〈QUATTRO LABO〉(渋谷)では、サウンドトラックを流したり、オリジナルドリンクの提供が行われ、レコードショップ〈union record渋谷〉、〈diskunion〉(吉祥寺、浦和)でもグッズが展開されるなど、店舗とのコラボレーションも盛んだ。

そして、映画館〈CINE QUINTO(シネクイント)〉では、「今 敏シアター(KON’S THEATER)」を期間限定で開催。会期中は『パプリカ』含む監督4作品(『PERFECT BLUE』『千年女優』『東京ゴッドファーザーズ』『パプリカ』)の一挙上映に加え、特別展示やオリジナルグッズの販売を同時開催。さらに渋谷PARCO・8F WHITE CINE QUINTOでも『パプリカ』を4Kリバイバル上映する。

今 敏シアターのメインビジュアル
今 敏シアターのメインビジュアル。2026年1月2日(金)〜1月25日(日)開催。場所は、CINE QUINTO(住所:東京都渋谷区宇田川町20-11 渋谷三葉ビル6・7F|地図

他にも、期間中の館内放送が主人公のパプリカ(CV:林原めぐみさん)になったり、配信スタジオのDOMMUNEによるトークイベントなど、全身で『パプリカ』の世界を感じるコンテンツが溢れたグランバザールになっている。

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