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森山大道、佐内正史、祖父江慎らに聞く。人生を変えた一冊の写真集

「ウィリアム・クラインの写真があまりにも鮮烈だった」と話すのは森山大道さん。偶然手にした一冊の写真集により、「行く道」が決まることもある。そんな幸せな出会いをした写真家やブックデザイナーなど12人に、深く胸に残る写真集と見開きについて語ってもらった。

初出:BRUTUS No.699「写真はもっと楽しくなる。」(2010年12月1日発売)

photo: Kenta Aminaka / text: Tamio Ogasawara

『NEW YORK』 WILLIAM KLEIN

選んだ人:森山大道(写真家)

マンハッタンの逆光の写真。これが格好良かった

僕が写真の入口で出会ったのが、ウィリアム・クラインの『NEW YORK』。スナップショットだけど、グラフィカル。説明的でなく、直接皮膚に伝わってきた。これを見てから50年ずっと路上でストリートスナップをやっているね。写真のコンテクストに土足で踏み込んだクラインの人間性も好きなんだ。

『LETTERS FROM THE PEOPLE』 LEE FRIEDLANDER

選んだ人:佐内正史(写真家)

写真は「言葉」を持たないものだと知った

写真家になりたくて東京に出てきて買ったフリードランダーの写真集。大きい判型のわりに写真を小さく配置し、路上にあるアルファベットなどをまとめただけ。自分が写真集を出してから、その良さがわかったんです。写真は文学ではなく、理解されなくてもいいものなのだと気づかせてくれた一冊。

『WILLIAM EGGLESTON'S GUIDE』 WILLIAM EGGLESTON

選んだ人:ピーター・サザーランド(写真家)

被写体との間にある不思議な関係性が写っている

写真を撮り始めたのは、23歳の誕生日に弟からカメラをもらったのがきっかけ。その後、このウィリアム・エグルストンの写真集に出会って自分の写真の方向性を考えるようになった。写真はいい意味でとても曖昧なものだからこそアートになり得るのだと教えてくれたんだ。ずっと好きな一冊だよ。

『THE COMPLETE UNTITLED FILM STILLS』 CINDY SHERMAN

選んだ人:笠原美智子(東京都写真美術館学芸員)

女性のセルフポートレート展を志したきっかけです

もともと興味があったジェンダー問題。アメリカの大学院時代、進級のことだけを考えて受けた写真の授業のおかげでシンディ・シャーマンの作品と出会い、結び付きました。彼女の写真は、普通の女性の疑問や不安をそのまま表現していて、女性と社会の関係性が身近なものに感じられたのです。

『OUTLAND』 ROGER BALLEN

選んだ人:田附勝(写真家)

最も影響を受けたのはダイアン・アーバスだけど…

今回挙げたのは南アフリカの白人貧困層を撮るロジャー・バレン。アーバス同様、表現がストレートで人間臭さやエネルギーを感じさせる。でも、被写体に演技させてドキュメント的世界を美しい写真としても提示している。彼のように「今」を撮っている写真を見ることも大事。僕自身発展途上だから。

『UFO写真集1 UFOと宇宙 コズモ別冊'75』 久保田八郎

選んだ人:祖父江慎(アートディレクター)

この本に出会ってからずっとカメラを持っている

UFO写真集と出会ったのは中学生の頃。当時はアポロ11号の月面着陸や超能力少年、UFOが流行り。この本を見て思ったのが、円盤が嘘か本当かなんて関係なくて、それ以上にこの写真がキレイじゃん、ってこと。でも、心の底ではいつかUFOを撮りたいと思っているし、撮れたらみんなに見せたいな。

『鳥と森と草原』周はじめ

選んだ人:宮崎 学(写真家)

50年前のフクロウの写真は技術と工夫の結晶

北海道のとある牧場の隅に枝を立て、一晩待って二眼レフの《RICOHFLEX》とフラッシュバルブを使って撮った写真。しかも望遠でなく標準レンズ。写真の裏側にある技術と工夫に大変感銘を受けました。自分で考え、撮りたい写真に合った機材を作ることが、ずっと僕の写真家としての基本スタイル。

『ダイアン・アーバス作品集』 DIANE ARBUS

選んだ人:戎康友(写真家)

買うまでに何度も何度も立ち読みしました

本当は初版のものが格好つくけど、この日本語版は学生の頃に読み込んだ特別な本。実家は写真館で、親戚も写真家だらけ。家業だけにポートレートに興味があり、ダイアン・アーバスの写真集を見てこんな写真を撮りたいなと。それはいまだに変わらないし、実際にそのつもりで撮っています。

『アーノルド・ニューマン展 被写体になった芸術家たち』 ARNOLD NEWMAN

選んだ人:名久井直子(ブックデザイナー)

アートとしての写真に初めて触れました

1992年高校1年生。盛岡に住んでいた頃、新聞のアート欄で小田急美術館のアーノルド・ニューマン展の記事を目にしてどうしても欲しくなり、東京在住の親戚にお願いして急いでこの図録を買ってもらいました。ペンギンの写真集を買っていた私が、初めて自ら欲しくなった、アートに触れた一冊です。

『ALL OF A SUDDEN』 JACK PIERSON

選んだ人:草野 象(ワタリウム美術館ミュージアムショップ〈オン・サンデーズ〉店長)

自分のお店で500部売れた、思い出深い一冊です

1995年のジャック・ピアソンの写真集は、内容が決まっていない状態からアメリカで打ち合わせして、写真集を作るプロセスと日本で売っていくプロセスを共有できた一冊。本を扱う立場の僕に強い影響を与えてくれたもの。連続性を大事にしたレイアウトだけど、構図も色もバラバラな入り方で実験的。

『WOMEN ARE BEAUTIFUL』 GARRY WINOGRAND

選んだ人:久家靖秀(写真家)

写真だけでストーリーを組み立てている

1枚の写真でも成立するゲイリー・ウィノグランドの作風は、全集を作るために新たに組み直しても違和感がない。ストーリー性があるとすれば、その写真の中だけ。気がつくと彼の作品が集まっていたから好きなんだと、ある時に思いました。「撮り損ないの写真」まで見たくなる写真家なんです。

『IN THE AMERICAN WEST』 RICHARD AVEDON

選んだ人:野口強(スタイリスト)

写真は好きか嫌いかでしかないんじゃないかな

25年前に初めて買った写真集が、リチャード・アヴェドンの『IN THE AMERICAN WEST』。被写体のキャラクターは強烈だったね。アシスタントの頃でお金もない。それでも六本木で遊んだ帰りに、余ったお金で青山ブックセンターで写真集を買っていた。それが当時、唯一の楽しみだったんだよね。