「自撮りは、楽しかね!」95歳のフォトグラファー・西本喜美子の遊び心を忘れない写真の楽しみ方
photo: Kimiko Nishimoto / text: Chisa Nishinoiri
自虐を交えたユニークな自撮りで注目を集め、インスタのフォロワーは34万超え。御歳95歳の現役フォトグラファー・西本喜美子はフォトショップを駆使した作品を発表し続けている。遊び心を忘れない“自虐”写真の極意とは?
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物干し竿に吊されるおばあちゃん、ゴミ袋の中でうずくまる老婆。掲載されているこれらの写真は、決して老人虐待の証拠ではない。フォトグラファー・西本喜美子による自作自演のオリジナル作品だ。自虐とユーモアが絶妙なバランスで共存する自撮り写真によって一躍有名になった西本は、72歳から写真を始めたというスーパーおばあちゃんだ。
息子の和民(かずたみ)氏は〈遊美塾〉という写真教室を主宰しているアートディレクター。自宅には生徒たちがよく遊びに来ていたそうで、そのたびに「喜美子さんも一緒に写真やろうよ!」と焚(た)きつけられ、えいやと写真の世界に飛び込んだ。
「塾で写真の撮り方やパソコン操作の基本は覚えたけど、私には難しいことはわからない。先生も、“画質や構図を気にするよりも、大切なのは見る人の心に響くかどうか”と言っています。だから私も細かいことは気にせんようにしています。その代わり、面白い写真になるようによーく考えます」
ちなみに昔から、興味を持ったらなんでもやってみる性分だったよう。美容学校を卒業して美容師をしていたが、「競輪選手だった弟2人が、自転車をかついで全国を巡っているのが羨ましくて」と、なんと女子の競輪選手に転身し大活躍。好奇心とやると決めてからの行動力は、抜群なのだ。
自分が面白いと思える、心に響く写真を撮りたい
彼女を一躍有名にした一連の“自虐”シリーズ。誕生のきっかけは〈遊美塾〉の宿題だったそう。
「ある時、自分を撮る難しさと撮られる恥ずかしさを知るために、“自分の写真を撮ってくる”という宿題が出されたんです。でもこんなおばあちゃんの写真なんてみんな興味がないだろうなぁと。だったら少しでもみんなに楽しんでもらえるように、まずは自分が面白いと思える写真を撮ってみることにしたんです。朝玄関からゴミを集積所に持っていくまでに思いついて、自分がゴミ袋にくるまってみたり。物干し竿にぶら下がっている写真は洗濯物を取り込む時に思いついたものです。それを見た塾の仲間たちが大笑いして喜ぶ姿を見て、私まで嬉しくなったんです」
もっと喜んでもらいたくて、思いつくままにどんどん撮ってみることにした。ある時は、駐車場で車の横に寝そべってひかれたマネをしてみたり。
「でもあまり面白くなかったので、さらにフォトショップで加工してスピード感を出してみたら、いい感じに仕上がったんです。作品を見たみんなはびっくりした後に大笑い!先生からは危ないことをするなと怒られましたが、あとからうんと褒めてくれましたね」
そして遊美塾では、「必ず作品発表の場を持つこと」をモットーに毎年写真展を開催している。
「発表するとなると、適度な緊張が刺激となって写真に向かう姿勢が変わってきます。そして見てもらう人に楽しんでもらおうと頭をたくさん使うので、認知症のいい予防にもなっています」
みんなの宿題作品を展示した『セルフポートレイト展』で、彼女の「転倒シリーズ」が初めて世に出ると写真展は大盛況。2011年には熊本県の美術館で初の個展を開催することに。これが、82歳の時のこと。
前述のゴミ袋や物干し竿、「転倒シリーズ」の写真は小さめのサイズでおまけとして展示したのだが、なんと美術館を訪れた人から“老人虐待だ”とクレームが入る事態に。
「私が私をモデルに撮った写真なのにね(笑)。翌日から美術館の人が“本人による自撮りです”という注意書きを貼ってくれたんです。初めて私の写真を見た人は一瞬ギョッとするようですが、隣の注意書きを読んで大笑い。そしておばあちゃんが面白い自撮り写真を撮っているとSNSでアップされて。その人のTwitter(現・X)は当時1万リツイートを超えたそうです。かくして私は、自撮り写真ならぬ“自虐写真”を撮るおばあちゃんとして、一躍有名人の仲間入りをしたのです」
彼女は、「人生で大切なことは3つ」あると言う。それが「趣味」「仲間」「発表する場」。
「72歳で写真を始めてから、そのことをしみじみと実感しています。ただの専業主婦だった私が、写真を始めた途端にたくさんの仲間ができた時の喜びは今でも覚えています。そして、年齢は本当に関係ない。長生きに必要なのは挑戦する心だと思います。私がいい例でしょう。ただ一つだけ、今は腰が痛いので、いつまで自分の足で歩けるかと怖くなることはあります。でも、死ぬまでカメラは手放しません。寝たきりになっても天井を撮ってやるという気持ちでいますよ!」