特集「写真はもっと楽しい。」を試し読み!あの写真家&写真好きは、どうやって写真を楽しんでる?

photo: Taiga Nakano, Yoko Takahashi, RK,Tetsuo Kashiwada, Tetsuya Ito, Satoko Imazu, Kimiko Nishimoto, Hiroko Matsubara, Jiro Konami, Jun Nakagawa, Keiko Nakajima, Taro Hirano, Jack Davison, Ayaka Endo / text: Rio Hirai, Tami Okano, Naoko Sasaki, Asuka Ochi, Toshiya Muraoka, Chisa Nishinoiri, Masae Wako, Foo Syoji, Taku Takemura

注目の若手からレジェンドまで、17人の写真家や写真好きが登場する、BRUTUSの最新号写真はもっと楽しい。」 をダイジェストで紹介。彼らの作品と言葉から、写真のさらなる楽しみ方を探ります。

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仲野太賀「光景を“肯定”して撮る」

仲野太賀は13歳で役者の仕事を始めるよりも早く、自分のカメラを手に入れた。撮影者と被写体、両方の気持ちがわかるようになった今、彼にとって写真を撮ることは「肯定する行為」だという。ファインダー越しに何を見つめているのか。

ただそこにいる、自然な姿に惹かれた。
肉眼で見つめているよりも写真を介した方が、その人がまとう空気を色濃く感じるというのは太賀の言葉。実の祖母のなにげない姿が印象的な一枚だ。「この、受け入れているでもなく拒絶しているわけでもない佇まいが絶妙ですよね。プリントしてみて“撮れちゃってた”と思った写真です。祖母に見せたら喜んでくれました」

高橋ヨーコ「写真のために、行く、会う」

高橋ヨーコの旅と写真は、切っても切り離せない。なぜなら高橋にとって、旅をすることは、写真を撮ること、そのものだから。世界各地に赴き、かの地を撮り続けている高橋の、旅と写真に懸ける思いと頼る心情。

鉄のカーテンの、もう一枚向こう側。
南コーカサスの共和制国家グルジア(現・ジョージア)にて。撮影は当地でバラ革命が起きた2003年。外国人が泊まれるホテルがなく、一般家庭が旅行者に部屋を貸し出す「プライベートルーム」に宿泊した。「特に東欧は普通の家の中を見られる機会なんてないから、むしろラッキー。だからこそ、本当のリアルライフが撮れた」

RK「フェイクが生み出すリアル」

“What I see vs What my camera sees” 。写真家のRKがInstagramに記した言葉は、目で見る風景とレンズを通した世界の違いを端的に表している。フォロワー数は76.5万。その写真の魅力とは?

写真だけが、想像し得ない画を夢中で追いかけさせる。
台湾の松山空港近くで距離感の面白さを望遠レンズで捉えたもの。この企画のためにエディットし、新しい作品に仕上げた。

柏田テツヲ「旅の先の“予想外”を閉じ込める」

旅、自然、環境問題などを軸に、粘り強く対象を追った作品で知られる、写真家の柏田テツヲ。自らの興味を突き詰め、伝えようとする原動力は、写真という想像の先へと導くアウトプットがあってこそ生まれている。

写真だけが、想像し得ない画を夢中で追いかけさせる。
2枚の写真を対にし、それぞれを人間と自然と見立てることで、その関係性を表現した「Nearly equal」シリーズの一作。“自然との共作”として、レンズに落ちた雨の雫や、現像時の色ムラなど、写真のエラーを意図的に残している。

伊藤徹也「物語の途中を切り取る」

写真家ではなくフォトグラファーであることに自負があり、目の前にやってくる課題(≒仕事)に対して、千本ノックのように打ち返してきた30年。その日々は「面白くてたまらないし、まったく飽きない」と、伊藤徹也は言う。「自分の写真なんてわかんない」と語るが、近年の仕事から多様な写真を振り返ると、いくつかの共通点があった。

料理人の手を写すことで、その料理の背景まで感じさせる。
料理家・野村友里さんの母、野村紘子さんの著書『受け継ぎたいレセピ』(誠文堂新光社)で撮影した、中華料理・ヤーズの皮をのばしているところ。皮にもピントは合うが、ほとんど「手」を撮影している。使い込まれた手を写すことで、母が大連で習い、紘子さんが子供の頃からよく食べていたという、この料理の物語をすくい取る。

幡野広志×永積 崇「良い写真って、何だろう?」

コロナ禍で写真を撮り始め、初の写真集『発光帯』を発表した音楽家、永積崇さん。写真家として活躍しながらもワークショップを開くとたくさんの方々が集まる幡野広志さん。共にカメラを持って東京・日本橋の街を歩き、シャッターを切り、対話した、写真のこと。

2人で話しながら撮り歩き、見えてきた「良い写真」の正体。
本人を前に、永積さん(右)の写真集『発光帯』を手に幡野さん(左)は感動し通し。
幡野さんの一枚
雨が降るなか、レンズを気にしながら優しい表情を見せる永積さんを振り向きざまにパチリ。雲が晴れて光が差した一瞬を捉えた一枚。「暗い部分をしっかり黒で締めてコントラストをつけるのがポイントです」(幡野)
永積さんの一枚
相合い傘で、仲むつまじく通りを横断する初老のお2人。こなれた風情でスーツを着こなす紳士の後ろ姿は、まるで昭和の銀幕スターのよう。見せたい被写体が中心に来るように、上下を少しトリミングして仕上げた。

西本喜美子「自撮りは、楽しかね!」

自虐を交えたユニークな自撮りで注目を集め、インスタのフォロワーは34万超え。御歳95歳の現役フォトグラファー・西本喜美子はフォトショップを駆使した作品を発表し続けている。遊び心を忘れない“自虐”写真の極意とは?

自分が面白いと思える、心に響く写真を撮りたい。
代表作となった転倒シリーズ「車にひかれる」。車の下敷きになりながら新聞を読んだり、スクーターで転倒したり、さまざまなバリエーションがある。画像加工でスピード感を表現している。

作原文子「つながりがあるから撮れる」

多くのフォトグラファーたちと信頼関係を築き、その場、そのチームでしか生まれ得ないものを作る。人気インテリアスタイリストの作原文子が語るのは、写真を介したつながりと、つながりが生む幸せの話。

大切な写真家たちの作品をポストカードに。
写真のテーマはそれぞれの「山の朝」。信頼する写真家20人による作品でポストカードを作り、セットにした『mountain morning “FIRST”』より。箱やグラフィックも含め、デザインは〈brown:design〉の村田錬。作原が商品開発や空間プロデュースを手がけるプロジェクト〈mountain morning〉を立ち上げるきっかけにもなった。(Photo:作原文子 × Hiroko Matsubara)

小浪次郎「カメラを介して交流する」

自らの父親をレンズで捉えることが、写真体験の始まりだった小浪次郎。彼は今でも写真を撮るため、父ともそうしていたように、“対話する”よりも“時間を共有”する。そうして、被写体とのカメラを介した交流を続けているのだ。

変化していく被写体としての坂本龍一。
「10年以上坂本さんを撮り続けてきた中で、多くのことを教えてもらい、常に尊敬をしていた」と小浪は話してくれた。月日を重ねるごとにカメラが捉える坂本龍一の表情も変化していたと言う。より親しくなった2人の関係性を写し出しているのだろう。

スタイリスト・長谷川昭雄に聞くファッション写真のスタイルの作り方

どこかリアルから遠い世界を切り取っているかのような異質さのあった、日本のファッション写真。その不自然なシーンを刷新し、独自のスタイルを作り上げた“チーム長谷川”の写真作りとは?

NYの象徴的なスポットを生かした、動きのある見開き。
〈COACH〉のタイアップページ。場所の紹介も兼ねてハイラインが写るように撮る予定が、平面的なイメージだったため、急遽ハイラインの上から見た写真に。「鞄を見せながら、動きのあるカットをうまく静止画に捉えられた」(『POPEYE』2014年10月号「ニューヨーク・シティガイド'14」)

平野太呂「ある視点から見て集め、並べてみる」

なんだか変わった風景、変わった車、変わった人。同じように撮り集められたものなのに、写真家、平野太呂のアメリカで撮影された3作品はついついニヤリと見入ってしまう。その理由は、彼ならではの着眼点とルール設定にある。

「アメリカ」を写す、きっかけの情景。
空になったプールのある風景を撮りためた作品群の一部。カリフォルニアの住宅の裏庭にあるプールは底が丸い。本来は泳ぐためのプールの水を抜き、底を波に見立ててスケーターたちが滑った。これが現在のスケートシーンを形作るきっかけとなるプールスケーティング。

Jack Davison「モノクロームで浮き彫る情感」

強烈な黒のイメージに感情が揺さぶられる。イギリスの若手写真家ジャック・デイヴィソンが生み出すポートレートや風景写真は、時にシュールで、時に耽美的。複雑なプロセスを経て現れる、モノクロームの引力に迫る。

モノクロームはエモーショナルな表現だと思う
古い映画のワンシーンのような、モノクロームのポートレート。シュルレアリスムの画家や写真家の影響も感じられるが、紛れもない2023年の新作だ。

遠藤文香「私だけに見えた唯一の色を表す」

これは白昼夢か異世界の幻影か。北海道の自然や動物にストロボの光を当てて撮影し、デジタル加工を施すことで、記憶の中のイメージを表現する。注目の若手作家、遠藤文香が被写体から引き出すのは、自然と人為のはざまにある、唯一の色。

カムイ宿る地で撮った神話のような世界。
「天国みたいにきれいと評価してもらえる半面、神秘的すぎてちょっと怖いって言われることもあるんです」と笑う遠藤は、北海道の道東へと何度も足を運び、偶発的に出会ったものを中心に撮影する。「あらゆるものにカムイ(神)が宿るというアニミズム的な視点に惹かれるようになった」と話す彼女が、アイヌの神話も残る雌阿寒岳(めあかんだけ)や弟子屈町(てしかがちょう)の摩周湖などで撮った「Kamuy Mosir(カムイ・モシリ)」シリーズより。ストロボを使ったデジタル撮影。