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35ミリのフィルムカメラで撮る。写真家・瀧本幹也が教えてくれた写真のはじめ方

一生ものの趣味をはじめる。休日の過ごし方は、働き方と同じくらい重要。楽器にスポーツ、アウトドア。かつて習っていたもの、興味はあってもなかなか手が出なかったものも。心身を癒やし、毎日の活力をくれる“パートナー”のような趣味を。

Photo: Keisuke Fukamizu / Text: Keisuke Kagiwada

教えてくれた人:瀧本幹也(写真家)

フィルムカメラで
静物をじっくり撮る。

「何を今さら」と思うかもしれない。実際、スマートフォンが全盛となった現在、写真なら毎日のように撮っているという人も少なくないだろう。

しかし、そこからもう一歩踏み込んで写真をはじめたい人に向け、35ミリのフィルムカメラで撮ることを提案してくれたのは、写真家の瀧本幹也さんだ。

「フィルムはシャッターを切るまでにすごく手間がかかるんです。フィルムを装塡して、露出を測ってフォーカスを合わせる。その間に日が陰ってしまうこともあるから、雲の動きも見てないといけません。そのうえで、ようやくフレーミングを決めてシャッターが切れるので、最短でも数十秒はかかります。

でもだからこそ撮っているときは神聖な気持ちになれるし、現像された写真にもスマホとは段違いの感動が生まれるんです」

「それに」と瀧本さんは言葉を継ぐ。「スマホは高性能で、誰でもある程度美しい写真を撮れてしまうので、“身体性”が失われてしまいがちです」と。

「もちろん、スマホの写真が悪いわけではありません。僕自身もよく撮りますし。だけど、そこに甘えすぎると、人間が機械に使われてしまう。
フィルムカメラで時間をかけて、自分の頭でいろいろ考えながら写真を撮るという行為は、“あくまで人間が先にあって、機械を使っているんだ”という感覚も育めるような気がします。

車と同じですよね。オートマや、今では自動運転のものもありますが、マニュアルの方が自分の頭を使っているから、人間としての喜びも味わえるじゃないですか」

テーマを掲げて撮影し、
自分なりの“表現”を探す。

そんな瀧本さんが、初心者におすすめだというカメラがNIKONのF3だ。

NIKON F3
瀧本さんのNIKON F3。中古品を買う際は、裏蓋を開けて中に損傷がないか、フィルム巻き上げレバーが引っ掛かりなく動くかなど、簡単な動作確認をすべし。不安な人はカメラに詳しい知人と買いに行こう。

「いわゆる一般的な一眼レフの最高峰ですね。僕も子供の頃にこれを手に入れて、写真に目覚めました。現在製造はされていませんが、中古カメラ屋に行けば、3万円台で買えます。ファインダーはクリアで見やすいし、はじめるのにいいんじゃないでしょうか」

カメラが決まったら、いよいよ撮影だ。

「とりあえず、そのとき自分が興味を持った静物をひたすら撮ってみてはどうでしょう。車でも果物でもなんでも構いません」と瀧本さん。そうして修練を積めば、教科書的にうまい写真を撮る技術は自ずと身についていくという。

「だけど、単に上手に撮れるということが、だんだん面白くなくなってくるはずなんです。“表現”がないから。そこで自分なりの工夫をするようになるのが、次のステップ。

シャッターを切る前に、この角度からでいいのか? このフレームでいいのか?この光でいいのか? そうやってすべてを一度疑って、試行錯誤するのもフィルムカメラの醍醐味です。
スマホだとパッと撮れて確認できてしまうから、その試行錯誤に流れている時間の質が違うと思いますね」

そこで行き詰まったときのヒントとして、瀧本さんは「テーマになるワードを決めてみる」という打開策を教えてくれた。

写真家・瀧本幹也
今回の企画のために、瀧本さんがF3で撮り下ろしてくれた写真。被写体は、最近興味を持っているという掛け軸とその下に生けられた枝だ。全体を見せないそのフレーミングは、さすがの一言。

「これは僕自身もときどき使う方法なんですが、例えば、リンゴを被写体としているときに、“ふわふわ”や“熱い”など視覚化しづらいテーマをまず決めてみるといいかもしれません。
そういうふうに制約を設けると、“リンゴが『ふわふわ』に見えるように撮るとはどういうことか?

じゃあ、風に揺れるカーテンのレース越しに撮ってみよう”とか、普通だったらやらないような手法が発見できたりします。そうこうするうちに、単なる写真が“表現”に近づいていき、より撮るのが面白くなっていくんじゃないかと思います」