壊れたら、直す。本来、当たり前の価値観
パタゴニアが近年、取り組んでいる〈WORN WEAR〉というプロジェクトを知っているだろうか。“WORN”とは、「着用された」「すり減った」「よれよれの」といった意味で、つまりはパタゴニアの古着のことを指している。ほぼすべての製品の修理対応をしており、できるだけ長く着用することを推奨している。
そのために「つぎはぎ号」と名付けたリペアカーで全国の直営店や大学、サーフタウンなどを回り、キャンペーンを行っている。壊れたら、直す。それが新しい価値観のように響いてしまうのは、ファストファッションのせいだろうか。「つぎはぎ」という言葉の通り、日本には古くから物を大事にする心性があったはずで、ようやく足元を見つめる時代に還ってきたのかもしれない。
試算によれば、新品で購入したウェアを9か月間長く着るだけで、製造時のCO2(二酸化炭素)や産業用排水が20~30%削減できるという。「新品よりもずっといい」というキャッチコピーは、新製品を販売する企業としては実に画期的で、彼らのスタンスが明快に表現されている。
その〈WORN WEAR〉プロジェクトで、新しい試みが始まっている。機能性、耐久性が担保されたウェアは、手入れさえしていればほとんど一生モノだが、それでもサイズアウトしたり、着なくなったりすることもある。そんなときのためにスタートしたのが、パタゴニアによる、パタゴニア製品の買取サービス。2024年5月から始まり、すでに8500点以上が持ち込まれ、中古ウェアとして、新製品と並んで直営店で販売されている。
査定基準は単純明快で、「状態が良いかどうか」
買い取りに関しては、希少価値や人気商品であるか否かは、まったく関係がないという。実際の業務は、古着店〈RAGTAG〉を営む株式会社ティンパンアレイが担当している。バイヤーに査定について訊いた。
「通常の古着の買い取りですと、デザイン的に難しいこともありますが、〈WORN WEAR〉の場合には、基本的にすべてのアイテムに値段がつきます。それに、通常の買取基準よりも評価は、少し優しいかもしれません」
なぜなら、パタゴニアには修理のノウハウが蓄積されていて、少し状態が悪かったとしても再販する際に直すことができるから。下着や加水分解で剥離してしまったウェアなど、修理ができないごく一部のアイテムを除いて、すべてが買取対象。そこにパタゴニアの本気が表れている。
今回の撮影を担当したパタゴニア好きのカメラマンに、買い取ってほしいアイテムを持ち込んでもらった。タグの製品番号はもうほとんど読み取れないほどに薄れてしまっている。25年以上前に購入したフリースは、型番のデータベースにも登録がなかったが、バイヤーによると、状態はAランク。同じく年代もののアノラックと合わせて2点で3800円という査定だった。
思っていたよりも高い金額で、納得感がある。メルカリなどのサイトに出品すれば、もしかしたらより高値で売れる服もあるかもしれないが、パタゴニアで買い取ってもらえば、パタゴニアの直営店で販売され、確実に必要としている誰かに引き継がれる。そこに生まれる愛着の連鎖のようなものこそが、〈WORN WEAR〉プロジェクトの根幹かもしれない。

〈WORN WEAR〉は、愛着をつないでいく循環
パタゴニアのマーケティング部、小林優子さんは言う。
「直営店での買取イベントの際に、そのアイテムについてのストーリーを書く札を用意しているんです。『子どもと山に行くときに着てました』とか『親からもらったフリースです』とか、着るものにはそれぞれに物語があって、その愛着を引き継ぐようなプロジェクトだと思っています。パタゴニアの直営店で販売する際には、スタッフは新しい製品とまったく同じように製品の機能や特徴をご説明します。ですので、安心を感じていただけているのかもしれません」
剥離していたり、修理不可能なアイテムは、直営店に設置されたボックスに入れれば、マテリアルとして再利用されるという。ただ、「時折、買取ができる状態のものも入っているので、まずはweb上で申し込み、査定に送ってみてほしい」と小林さん。
〈WORN WEAR〉の買取サービスは、ポップアップイベント以外では、web上で簡単に行うことができる。アカウント作成後、買取申し込みをし、製品を送って、査定を待つだけ。送り状を書く必要もなく、送料もかからない。ちなみにパタゴニアのアカウントを作れば、修理代金も20%オフになるという。
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もう一つ、長く使うためのコツは、きちんと手入れをすること。レインウェアも洗濯機で皮脂汚れを落とし、きちんと乾かしてから、乾燥機の低温で15~20分ほどかけると撥水機能が回復する。各製品の手入れの方法は、こちらもweb上に細かく掲載されている。
〈WORN WEAR〉のプロジェクトは消費者の側から見れば、修理や古着のリサイクル、手入れの推奨をして、どうにかして「新製品を買わせない」取り組みと言える。その思惑に則って、新製品を買おうと思い立った時には、その前にクローゼットを確認しようではないか。きっと、もう必要なものは持っている。もしかしたら、次の誰かに渡すべきアイテムが発掘できるかもしれない。