外遊びの達人、スタイリストの岡部文彦さん。ウルトラライトなギアホリック、〈groovisions〉の伊藤弘さんと〈HALF TRACK PRODUCTS〉の土屋雄麻さん。そしてなんでもDIYしてしまうアイデアマンのファッションデザイナー、アレキサンダー・リー・チャンさん。
趣味嗜好は少しずつ違うけど、アウトドアを通して緩やかにつながっていた面々が、今回初めて4人で外に繰り出すことに。彼らが遊び道具に選んだのは、ここ数年ハマっているという「アルパカラフト」。ハイキングから台頭したウルトラライトのムーブメントを受け、パッキング(Packing)できるラフトボート(Raft)=パックラフトとして注目を集めるアラスカ生まれの超軽量ゴムボートだ。
総重量約2.45㎏、収納サイズ約20×50㎝と非常に軽く小さくなるため、バックパックに収納しどこにでも持っていける。ホワイトウォーターのダイナミックなラフティングも、水深が浅い源流部の川でも下れる高い浮力を持つ設計で、幅広いアクティビティに対応する優れもの。“自己完結、自己満足”のウルトラライトな精神にのっとり、1人1艘、愛用の“アルパカ”と1泊2日分の装備を携え、ダウンリバーへと繰り出した。
釣りにSL、ギア自慢も。大人の川下りは遊びがいっぱい
初日の天気予報は曇りのち雨。一抹の不安を抱えながらも、4人が乗った車は静岡県を流れる一級水系、大井川へと出発。南アルプスの南部、間ノ岳(あいのだけ)を源とする大井川。
上流は寸又峡(すまたきょう)などの険しい峡谷を複雑に入り組みながら流下し、大蛇行を繰り返しやがて駿河湾へと流れ着く。雄大な景色と川に架かる吊り橋、SLが運行する大井川鐵道など観光名所も多い。川の流れは比較的緩やかで、のんびり外遊び派の面々には最適のチョイスだ。
今回のラフティング旅のプランは、駿河徳山駅から大井川本線に乗車し、千頭(せんず)駅で南アルプスあぷとラインに乗り換え沢間(さわま)駅で下車。そこから大井川に出て駿河徳山まで約17kmを下るコース。釣り好きの岡部さんはシンプル・フライ・フィッシングも楽しもうと密かに遊漁券も購入済み。
だが、車窓から見る大井川は想定外に水量が少ない様子。「雨よりこっちの方が心配だなあ」。そんな心の声が漏れたのか、「今年は雨が少ないからね。ダムの放流もほとんどないよ」と車掌さんが教えてくれた。水害の多い地域だが、地元民にとって雨は恵みでもあるのだ。流れの緩急に身を委ね、体幹を使い、川を下る。
河原に出て、まずはボートを膨らます。荷を解き、そして再びパッキング。すべての荷物を防水用のドライバッグに詰め、流されないようにボートの船頭にかっちり固定。この準備からして、既に4人はずいぶん楽しそう。互いのギアが気になって仕方ないのだ。「伊藤さん、浄水器持ってきたの⁉」「そのロープ使い、ナイスだね」「そのストーブ、ウェイトは⁉」……。
各人のスタイルが主張し切った個性豊かな4人と4艘は、まるで“一国一城の主”的な風格、とでも言おうか。そして着水。ギアの趣向も様々なら、ラフティングスタイルも4者4様。
グイグイとパドルを漕ぎひたすら前進する岡部さんに、下ろしたてのアルパカの感触を楽しむように水と戯れるリーさん。流れの穏やかな淵を見つけては悠々昼寝を決め込む土屋さん。そして、川の流れを読み確実に早瀬を攻めていく伊藤さん。緩やかな流れに身を委ねたかと思うと、またすぐ次の瀬が迫る。「川はさ、この緩急がたまらないよね」。寡黙な伊藤さんがポツリと呟(つぶや)く。
一人一人が水の流れと対峙し、解放と緊張を繰り返しながらひたすら川を下ること7時間。予報より早く、昼過ぎから落ち始めた雨は目標の半分あたりまで下った頃には土砂降りになっていた。日も暮れ、重く垂れ込める雨雲と激しい雨粒のせいで視界はすっかり不明瞭。でもあの闇の向こうにはさらにエキサイティングな流れが……。まだまだ遊びたい……。
寒さで身震いしながらも、生気を失わない4人の瞳は怪しく光っている。が、無理をしないのも彼らの流儀。強まる雨の予報をダメ押しに、今宵のテント泊は断念。けれど急遽探した宿には、熱い温泉と楽しい合宿の夜が待っていた。
翌朝4時。近くを走る鉄道の走行音で目を覚ますと、空は目の覚めるような快晴。早々に身支度を済ませ、再び川へ繰り出した4人。雨上がりのせいか山々の緑はいっそう深く、濃密な香りを漂わせていた。
河原にテントを張り(ここでまた、ギア談議に一花!)、澱みを知らない川面にボートを浮かべ、釣り糸を垂らし、念願のSL列車に手を振り、しばしの川下りを満喫。すっかり遊んでパッキングも終えた頃、奇(く)しくも大粒の雨が、再び降りだしたのであった。
4人の知恵と工夫が詰まった、ウルトラライトな優秀ギア&活用術
HOW TO “PACK RAFTING”
GEAR
4人のアルパカ・パッキングスタイル。