Shingo Suzuki
2019年の前作『Ovall』は、コンセプトアルバムを前提に、無駄を排除し、ストイックな作品を構想して制作しました。完成後、3人ともソロやプロデュースワークなどで忙しくなり、スタジオへ集合して作る時間が取れなかった。
その代わり、曲のマテリアルができると「こういう曲が浮かんだ」と、その都度オンラインに音源をアップし、アイデアを交換しながら作っていったんです。
mabanua
曲のラフを投げ、おのおのの演奏やアイデアを足していった。個別に作った部分が多く、カラフルな出来映えでファーストアルバム『DON'T CARE WHO KNOWS THAT』に近い。各自の原点回帰的な作品になったと思います。
Suzuki
それは、時間の流れの変化が大きかったように感じます。音楽的な部分だと、デジタルウェアの進歩があり、スタジオに集合しなくても、自宅でレコーディングができるようになった。
一方、社会的にはパンデミックがあり、すごいスピードで、時間の流れが変わっていった。僕らもおのおのの歩み方で進んだ中で、今回は「一緒に集まって、作っちゃおう」というノリにはなりませんでした。
個人での作業が増えた分、音楽性の幅が新しく広がり、確かにファーストを作った時の気持ちに近い。当時はおのおのの好みを出している部分が大きかった。まだバンドのサウンドを模索しているような。
mabanua
ゴッチ(Suzuki)さんからファンクの「Peanuts」の原型を聴かせてもらった時、ファーストっぽいと思いましたよ。
Suzuki
まさに!デビュー時期をイメージして作って。15年前と違うのは演奏力と人脈。ゲストのトランペットのタブゾンビ、サックスのMELRAWとは共演する機会が多く「一緒にやろう!」と話をしていて。
mabanua
SIRUPやNenashiなどのゲストも迎えているけど、意外と違和感なく聴けるのは、共演経験のある人たちばかりだからかもしれない。
Suzuki
「影 feat.さらさ」は、ある企画でmabanuaの叩いたドラムが素晴らしくて、シンセベースを入れたり、再構築していたら、さらさちゃんの声が浮かんだんです。
mabanua
「絶対!さらさの声!」って言っていましたよね(笑)。
Suzuki
仮歌のぼんやりした歌詞の言葉の響きを拾い、物語にしてくれた。想像より5倍くらい暗い歌詞になったけど、サウンドにハマった。
関口シンゴ
そういえば「影」のギターソロは、生演奏に差し替える予定で、僕は準備していたんですが。
Suzuki
シンセで弾いたらギターのようで、少し違う音色で、気に入ってそのままOK出しちゃった。
関口
いい音でしたね(笑)。
mabanua
3人ともよく「エゴがない」と言われるけど、お互いへの信頼があるので、自我や厳格さを出す必要がない。だから、Ovallでの制作は楽しく感じます。
曲の印象を言葉で伝える
関口
今回は音源ラフと一緒に、曲のイメージがテキストになって付いてきて。面白かったんですよ。
mabanua
例えば「Cubism」では、「前半はテクニシャンが自信満々で演奏。後半やソロでは突然下手クソが乱入!」とか書いたね(笑)。
関口
「つぶれた音」や「破綻しそうな」とか。うまく弾かないよう、逆に何回も演奏を録音しました。
mabanua
説明しすぎると、サプライズが引き出せなくなる。キーワードだけ投げるようにしたら、想像以上の仕上がりになって返ってくることが増えた。以心伝心ですかね。
Suzuki
ただきれいな曲に仕上げても面白くない。違うイメージを投げ、試行錯誤したことで、メジャーで仕事をしている演奏者と一味違う、インディー/ガレージのギタリストみたいな世界観が出ましたね。
mabanua
曲はもちろん、アルバムやバンドとして、全体を見据えてキーワードを投げている部分もある。そこで細かな参考音源などを出すと、途端につまらなくなるんです。
Suzuki
3人とも器用だから、参考音源があったら、そのまんまできる。それを避ける感じはあったかな。
mabanua
最近のプロデュースワークでも、具体例ではなく、キーワードを投げるようにしています。
ライブにおける分担作業
Suzuki
これからツアーだけど、まだ一度も『Still Water』を通しで演奏したことってない。
mabanua
既存曲とのバランスを取りながら選曲するつもりです。僕はドラムを叩きながら「It's all about you feat. SIRUP」のボーカルを歌うと思いますが……ゴッチさんは「影」のさらさちゃんのパートを歌ってくれると期待していますよ。
Suzuki
そうだ、それ考えてなかった(笑)。スタジオで練習かな。