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ソロはストイックに、バンドでは楽しく。色彩豊かなOvallの新作『Still Water』が完成するまで

Shingo Suzuki、mabanua、関口シンゴによるOvallが、約5年ぶりとなる4枚目のフルアルバム『Still Water』を完成させた。今作は個別での作業が多かったというが、3人集まると同時に、楽曲同様のリラックスした空気が流れ始めた。

photo: Naoto Date / text: Katsumi Watanabe

Shingo Suzuki

2019年の前作『Ovall』は、コンセプトアルバムを前提に、無駄を排除し、ストイックな作品を構想して制作しました。完成後、3人ともソロやプロデュースワークなどで忙しくなり、スタジオへ集合して作る時間が取れなかった。

その代わり、曲のマテリアルができると「こういう曲が浮かんだ」と、その都度オンラインに音源をアップし、アイデアを交換しながら作っていったんです。

mabanua

曲のラフを投げ、おのおのの演奏やアイデアを足していった。個別に作った部分が多く、カラフルな出来映えでファーストアルバム『DON'T CARE WHO KNOWS THAT』に近い。各自の原点回帰的な作品になったと思います。

Suzuki

それは、時間の流れの変化が大きかったように感じます。音楽的な部分だと、デジタルウェアの進歩があり、スタジオに集合しなくても、自宅でレコーディングができるようになった。

一方、社会的にはパンデミックがあり、すごいスピードで、時間の流れが変わっていった。僕らもおのおのの歩み方で進んだ中で、今回は「一緒に集まって、作っちゃおう」というノリにはなりませんでした。

個人での作業が増えた分、音楽性の幅が新しく広がり、確かにファーストを作った時の気持ちに近い。当時はおのおのの好みを出している部分が大きかった。まだバンドのサウンドを模索しているような。

mabanua

ゴッチ(Suzuki)さんからファンクの「Peanuts」の原型を聴かせてもらった時、ファーストっぽいと思いましたよ。

Suzuki

まさに!デビュー時期をイメージして作って。15年前と違うのは演奏力と人脈。ゲストのトランペットのタブゾンビ、サックスのMELRAWとは共演する機会が多く「一緒にやろう!」と話をしていて。

mabanua

SIRUPやNenashiなどのゲストも迎えているけど、意外と違和感なく聴けるのは、共演経験のある人たちばかりだからかもしれない。

Suzuki

「影 feat.さらさ」は、ある企画でmabanuaの叩いたドラムが素晴らしくて、シンセベースを入れたり、再構築していたら、さらさちゃんの声が浮かんだんです。

mabanua

「絶対!さらさの声!」って言っていましたよね(笑)。

Suzuki

仮歌のぼんやりした歌詞の言葉の響きを拾い、物語にしてくれた。想像より5倍くらい暗い歌詞になったけど、サウンドにハマった。

関口シンゴ

そういえば「影」のギターソロは、生演奏に差し替える予定で、僕は準備していたんですが。

Suzuki

シンセで弾いたらギターのようで、少し違う音色で、気に入ってそのままOK出しちゃった。

関口

いい音でしたね(笑)。

mabanua

3人ともよく「エゴがない」と言われるけど、お互いへの信頼があるので、自我や厳格さを出す必要がない。だから、Ovallでの制作は楽しく感じます。

Ovallの3人。左から、Shingo Suzuki(B)、mabanua(Dr)、関口シンゴ(G)。
左から:Shingo Suzuki、mabanua、関口シンゴ

曲の印象を言葉で伝える

関口

今回は音源ラフと一緒に、曲のイメージがテキストになって付いてきて。面白かったんですよ。

mabanua

例えば「Cubism」では、「前半はテクニシャンが自信満々で演奏。後半やソロでは突然下手クソが乱入!」とか書いたね(笑)。

関口

「つぶれた音」や「破綻しそうな」とか。うまく弾かないよう、逆に何回も演奏を録音しました。

mabanua

説明しすぎると、サプライズが引き出せなくなる。キーワードだけ投げるようにしたら、想像以上の仕上がりになって返ってくることが増えた。以心伝心ですかね。

Suzuki

ただきれいな曲に仕上げても面白くない。違うイメージを投げ、試行錯誤したことで、メジャーで仕事をしている演奏者と一味違う、インディー/ガレージのギタリストみたいな世界観が出ましたね。

mabanua

曲はもちろん、アルバムやバンドとして、全体を見据えてキーワードを投げている部分もある。そこで細かな参考音源などを出すと、途端につまらなくなるんです。

Suzuki

3人とも器用だから、参考音源があったら、そのまんまできる。それを避ける感じはあったかな。

mabanua

最近のプロデュースワークでも、具体例ではなく、キーワードを投げるようにしています。

ライブにおける分担作業

Suzuki

これからツアーだけど、まだ一度も『Still Water』を通しで演奏したことってない。

mabanua

既存曲とのバランスを取りながら選曲するつもりです。僕はドラムを叩きながら「It's all about you feat. SIRUP」のボーカルを歌うと思いますが……ゴッチさんは「影」のさらさちゃんのパートを歌ってくれると期待していますよ。

Suzuki

そうだ、それ考えてなかった(笑)。スタジオで練習かな。

『Still Water』
約5年ぶり4枚目となるフルアルバム。インスト曲の「Cubism」や「Neon」などのほか、ゲストを迎えた「It's all about you feat. SIRUP」「Find you in the dark feat. Nenashi」「影 feat. さらさ」など全8曲を収録。