ランドセルとともに一歩踏み出す。小さな巣立ちの前に思うこと
お話を伺ったのは写真家・大辻隆広さんのご自宅。見晴らしが良く、眼下には長男が春から通う小学校もある。
「家からすぐの場所に学校があるのは安心なのですが、幼稚園児だった今までとは違う緊張感があります。これまでは僕や妻が毎日送り迎えをしていて、先生と話せばその日の息子の様子を知ることができた。でも小学校に入ると、息子から話を聞かない限りは何をしていたかわからないんですよね。ずっと横にいた存在が、巣立っていく。楽しみでもあるけれど、やはり不安も入り交じる。旅立ちを前にしているような気分です」
一歩踏み出す子の心配をする親の気持ちを気にすることもなく、本人は期待で胸を膨らませている。ランドセルを背負う姿はなんとも嬉しそう。小学校入学を控えた今の心境を聞くと、「ドキドキするけど、楽しみ!」と満面の笑み。
6年間一緒に過ごす相棒は、軽快な正統派がいい
大辻さん宅は、前入居者が建築家の工藤桃子さんに依頼したシンプルで洗練された空間。あちこちに大辻さんが集めた若手作家のアートピースが置かれ、彩りを添えている。部屋を見れば、モノ選びに一家言あることは間違いなさそう。ランドセル選びで重視したことは何だったのだろうか。
「まず、シンプルなことですね。小学校は毎日私服で通うから、どんな服にも合うように。それに、きっと学校から帰ったらそのへんにポイって置かれるわけでしょう。だったら装飾的なものよりも、これぞランドセル、と言えそうなスタンダードな佇まいのものの方がいい。空間を邪魔しない、落ち着いたトーンであることも大事。
親はデザインや機能、ブランドが気になるけど、子供にとっては色が決め手になると思うんです。任せたいけど、僕らの好みではない色を選ばれると辛い。〈+CEL〉のようなシックな色展開だと、“この中から選んでいいよ”となったときに子供がどれを指差しても、親が納得できるからいいですよね。
あとは、軽さや快適に持てることもポイントです。経年変化を楽しめる本革にも惹かれますが、それはやはり親目線。重い教科書に加えて、iPadも持ち歩かなきゃならない日もあるようなので、子供のことを考えれば軽いに越したことはないなと。最近の人工皮革は軽いうえに風合いも良く、丈夫。実際に手にしてみたらメリットしか感じませんでした」
「僕が子供の頃から変わりなく、今も小学生が当たり前のようにランドセルを背負っているのって面白いですよね。日本の文化のひとつになっている。僕自身ランドセルを選んだ記憶はなく、親に買い与えられたものを使っていたのかな。でも学年が上がるにつれ、キーホルダーを付けてみたり、ペシャンコの方がイケてると思って、上に座って潰してみたりして。そうするうちに“自分のもの”という気持ちが生まれていた気がします。
〈+CEL〉のランドセルは、フタの裏に柚木沙弥郎さんの作品を取り入れている。こういうところにも、子供は特別感を感じるんじゃないかな。みんなと違う部分に、愛着がわくんだと思います」