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山形・赤湯温泉の旅館を再生。置賜盆地の美味を味わえる宿、〈オステリア シンチェリータ〉

ファインダイニングやスモールラグジュアリーなど、ローカルでの特別な体験に注目が集まる中、2023年4月、東北・山形に新たな施設が誕生した。老舗旅館〈山形座 瀧波〉が手がける、わずか3室の宿泊施設を備えたイタリアンレストラン。その全貌を紹介しよう。

photo: Kiichi Fukuda / text: Kei Sasaki

「山形のショーケースになる」ことを標榜して2017年にリニューアルし、地域復興を牽引する山形県・赤湯温泉の老舗旅館〈山形座 瀧波〉。今春、新たに1日3組限定の宿泊客室付きイタリア料理店〈オステリア シンチェリータ〉をオープンした。

宿が立つ南陽市は、県の南端に広がる置賜(おきたま)盆地(米沢盆地)に含まれる。飯豊(いいで)連峰、朝日連峰など2000m級の山々が四方を囲み、一級河川・最上川の上流域で、盆地にしては高い200mの標高も特徴だ。乾いた風と豊かな日照量、夏は昼夜15℃にもなる寒暖差に恵まれた土地は、米や果物など、さまざまな農作物の栽培好適地でもある。

十分一展望台からの景色
〈オステリア シンチェリータ〉から車で約10分の〈十分一(じゅうぶいち)山展望台〉からの眺め。吾妻(あづま)連峰、飯豊連峰、朝日連峰が連なる景色が見事。赤湯温泉は、右端の烏帽子(えぼし)山の裾野に。

「“魔法の盆地”。置賜盆地を、私はそう呼んでいます。でも、恵まれた自然環境だけでは魔法にはならない」と、代表の南浩史さん。県が6年前から始めた有機農業を実践する熟練農業者の認定制度で、たった19人の「匠」のうち、9人が置賜地域から選ばれている。

「食で、赤湯温泉を日本一の観光地に」という南さんの思いは、〈山形座 瀧波〉を核とした地域作りへと広がる。「逸品の食材を、食べ手にダイレクトに届けられるファインダイニングの開業」は、いつしか悲願になった。そして願いはすぐさま実現へと動きだす。原田誠シェフとの出会いがあったのだ。これも置賜盆地の魔法?

原田シェフは新潟県三条市の出身。地元で2010年に開いた〈イル・リポーゾ〉で『ミシュランガイド新潟2020特別版』の1ツ星を獲得し、近隣の飲食店や生産者を束ね、地域の食の魅力を発信してきた料理人だ。1973年生まれ、50歳を前にもう一歩飛躍したいと、次のステージを模索していた折、共通の知人を介し南さんと出会う。新潟県内の別の土地でも東京でもなく、山形で。ふいに湧いた縁に逡巡する原田シェフを決断させたのは、南さんの猛アタックに加え、置賜の宝である、素晴らしい食材だ。

原田 誠
〈オステリア シンチェリータ〉シェフの原田 誠さん。

食材への“誠心誠意”が生む置賜イタリアン

〈オステリア シンチェリータ〉は、移築した古民家や蔵からなる〈山形座 瀧波〉の一部を改修して造られた。9室あったゲストルームは、3棟のメゾネットに。内装は、福王寺法林など山形に縁のある日本画家の作品を主役に、絵画の色を基調に整えた。

天童市〈天童木工〉の家具や米沢市〈林木工芸〉の照明器具とともに、デンマークのデザイナー、フィン・ユールの椅子が置かれているのは、名作椅子の製造を、県内の工房が担うことから。館内履きには、高畠町〈仙太郎下駄工房〉の下駄を揃える。〈瀧波〉同様、山形のショーケース。アートも家具も小物も「メイド・イン・山形」だ。

大浴場を改装したダイニングは、オープンキッチンに面した8席のカウンターが中心で、古い木材の温もりと天井高4.7mの開放感が心地よい。厨房は原田シェフたっての希望である薪窯と、「フェラーリ」に譬(たと)えられるイタリア製の最高級品〈ベルケル〉の生ハムスライサーが据えられた、〈オステリア シンチェリータ〉の心臓部。

ダイニング
室内大浴場だった部分がダイニングに。1日3組限定、最大12名までのエクスクルーシブな食空間だ。

「シンチェリータ(sincerità)」は、「誠実」「誠意」を表すイタリア語で、もちろん「誠」という原田シェフの名前に由来する。重厚なイタリアのレシピ本をずらりと並べたインテリアから、山の稜線と米沢牛をモチーフにした店のロゴサインまで、原田シェフ自らが手がけた「まことの部屋」だ。

9皿前後のコースで供されるディナーは、小さなアミューズの一皿からメインの米沢牛の料理まで、置賜の豊かな恵みと、原田シェフのクリエイションが融合している。トップ生産者が栽培する米「夢ごこち」を赤ワインビネガーで酢飯にし、赤ミズ(ウワバミソウ)で巻いたアミューズなど、土地の食文化への敬意と探求なしでは生まれ得ないだろう。

全国で唯一、種から育てるオカヒジキは、三陸産のウニと合わせてパスタソースに仕立てれば、リッチなウニの旨味に拮抗する食感と存在感。天然アユのフリットも、合わせたキュウリのみずみずしさが、ソースの領域をはみ出さんばかりだ。

ペアリングは、イタリアのナチュラルワインが中心。キジハタを使ったアクアパッツァの再構築に、リグーリア州産ピガート種のミネラル感を合わせるなど、〈瀧波〉のサービスを率いてきたマネージャー、髙橋広野(こうや)さんの提案が光る。山形が誇る食材の一つ、エダマメのアーリオオーリオには県産のクラフトビールを一口、といった遊び心も楽しい。

「ここに来て一番驚いたのは、高級食材だけでなく、ジャガイモやタマネギがケタ違いにおいしいこと。地元の人は皆、“これが普通”だと言う。土地のポテンシャルと生産者の方々の仕事の精度を、よく示していると思います」と、原田シェフ。

料理を提供する際も「色摩(しかま)くんのキュウリ」「寺嶋くんのトマト」「黒澤さんの米」と、生産者の人柄や畑の様子を紹介する。素材が喜んでいるかのような料理からは、料理人の喜びもまた伝わってくる。

料理人、サービススタッフはもちろん、生産者をも巻き込んだチーム〈シンチェリータ〉で、山形からローカル・ガストロノミーを変えていく。挑戦は、始まったばかりだ。