ハット歴ン十年のスタイリストと老舗帽子店の店長が、ハットの選び方と被り方の基本と、粋な着こなしまでを語り合う。
大滝雄二朗
大久保さんはストローハットを被って何年経ちます?
大久保篤志
40年近いと思います。やっと自分のものになってきたかな、という感じ。
大滝
被りこなせるようになるまで年月がかかりますよね。
大久保
1、2年じゃ足りないね。破けるまで被り倒さないと、ハットが似合う男には近づけない。
大滝
あくまで基本の上に経験を積み重ねることで、“自分らしさ”を出せるアイテムですから。まずはハットのいろはを知るべき。
大久保
大滝さんの専門ですね!
大滝
顔幅の広い日本人の場合は特にハット選びが難しい。小判形よりも、丸くラウンドした胴回り(*頭を入れる部分)のものを選べば、馴染みがいいはず。
大久保
ただ海外ブランドのものって、小判形が多いですよね。
大滝
その場合は、ちょっとしたテクニックがあって。頭のサイズに横幅を合わせた後に、前後の余った部分にクッションを入れて補正する方法があります。
大久保
意外と、そのケアをせずに取り入れている人が多いかもな。
大滝
これをやる、やらないでは大違いなんですよ。
大久保
長年の経験からクラウンの傾斜が緩やかな方がいいなと。
大滝
その通りです。さらに言うと、自分の顔を逆さにしたのと同じ形のクラウンがベストです。
大久保
それはわかりやすい!
大滝
皆が真似しているジョニー・デップはまさに象徴的です。四角い顔に、角張ったステットソンの「ウィペット」がよく似合っていますよね。
大久保
日本人が真似しても、なかなか本人みたくうまくはいきませんけどね。
大滝
結局、帽子の被り方ってオンリーワンですから。真似では成立しないんですよ。
大久保
残念ながら万人が似合う被り方もありませんしね。
大滝
一つ言えるのは、ブリムの前後がきちんと水平だとハットが美しい表情に見えるということ。
大久保
それをベースに1〜2cm単位で上げたり、下げたり、時には斜めに傾けたり……。鏡の前で繰り返し試すことで、ココって位置が自然と掴(つか)めるようになります。
大滝
あと被り方で、もう一味加えるなら、ブリムのアレンジ。
大久保
それも大事ですね。
大滝
大きくは3つ。すべて上がったナチュラルブリム、前だけ下げるスナップブリム、すべて下げたオールダウン。
大久保
中でもスナップブリムが王道ですね。
大滝
ちなみに私の場合、スナップブリムで眉毛のラインに合わせて、さらに左眉が隠れるように少し傾けるのが定位置です。
大久保
目深な方が締まったスタイリングに見えますよね。
大滝
自分に似合う被り方は必ずあります。ただ、ブリムを上げて前髪を垂らしている若い子がいるけど、あれはいただけない。
大久保
子供っぽいですね。
大滝
自分に合ったハット選び、被り方と並び重要なのが、好みの形を見つけること。
大久保
夏の紳士帽といえばパナマハットですね。中折れが最も万能で、スーツ、Tシャツ、とオールマイティ。あと和服もいけます。
大滝
和服ならスジ入り(オプティモハット)もいいですよ。明治・大正時代に“キング・オブ・パナマ”と呼ばれた最もクラシックな形です。また丈夫なかぎ編みのパナマハットは、耐久性があってクシャって丸めて持ち運べるので初心者にもオススメです。
大久保
かぎ編みだとかなりカジュアルに扱えていいですね。
大滝
あともう一つがカンカン帽(ボーターハット)。胴回りがラウンドしていて最も日本人に似合う形ですね。
大久保
なるほど。ほかよりも存在感がある分、コーディネートはシンプルな方が良さそう。
大滝
ハットって、あまり正統派でキメすぎるよりは、少し崩したスタイルが格好いい。
大久保
だったら、ニール・ヤングがお手本になりそうだな。2012年2月にハリウッド殿堂入りしたポール・マッカートニーのトリビュートライブに出演した際、ポールへの敬意を表して、いつもとは違うきれいな白シャツをラフに着て、ボルサリーノの中折れパナマハットを合わせていて……。あれはシビレたね。
大滝
その崩しは素敵ですね。
大久保
ほかにもミュージシャンの被り方は参考になるね。ライブ衣装はリアルじゃないけど(笑)。
基本の被り方・選び方をおさらい
まずは胴回りのラウンドと、クラウンに注目して自分の顔形・骨格に合ったハットをチョイス。最も見た目が美しいとされる、ブリムの前後が水平になったサイドラインをキープしてスマートに被る。