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「愛って、ままならないもの」。小川紗良が選ぶ、愛の映画

愛の映画を語る時、その人が理想とする愛の形が見えてくる。文筆家、映像作家、俳優・小川紗良さんに聞いた、愛と映画の話。

photo: Satoko Imazu / text: Asahi Hoshi

愛って、ままならないもの

矢崎仁司監督のデビュー作で、初めて観た時に「なんだこれ!」と衝撃を受けました。若さゆえの勢いや未熟さがすごくかっこよくて。モノクロだったり、カメラワークや録音技術が熟練ではないからこその荒々しさによって、映画全体の雰囲気が湿っぽくジトジトしているのも面白い。ベテランの監督が初期に製作した、衝動が感じられる作品を観るのが好きですね。

主人公の女の子が女友達に片思いをするのですが、相手に男性の恋人がいることで恋心が執着に変わり、どんどん行動がエスカレートしておかしくなっていくんです。例えば、主人公が2人の関係を壊すために好きな子の恋人と体の関係を持って、シーツについた血で自分と好きな子の名前を書いたり。好きな子に渡そうと思って渡せなかったバラを食べたり。そういう際どいシーンがずっと続く映画なんです(笑)。

映画『風たちの午後』
『風たちの午後』80'/日
『ハッピーストリート裏』などの自主上映作品の助監督を務めていた矢崎仁司の監督デビュー作品。消えかけた情愛と湧き起こる憎悪を鮮烈なタッチで描いていく。第3回ヨコハマ映画祭自主製作映画賞受賞。監督:矢崎仁司/出演:綾せつ子、伊藤奈穂美、杉田陽志ほか。

愛って綺麗なところばかりじゃなくて、人間の醜さや矛盾も含まれるはず。理想とする愛の形とかってよくあるけど、実際ほんとに沼に陥ってしまった時に、理性ではどうにもできない部分が人間にはある。だから愛って、ままならないものだと思うんですよね。

今の世の中って、倫理観において綺麗さを求められがちだけど、映画や芸術の中では「でも人間ってもっと汚いよね」っていう部分が見られるのが面白い。『風たちの午後』は、そういった愛のまがまがしい部分が描かれた映画だと思います。

文筆家・小川紗良