「おォ!これはイチモンジカメノコハムシの幼虫では⁉ハムシの中でもそうそう出会えない、何年もずっと会いたかったヤツです」
公園を歩き始めて30分ほど(しかし進んだ距離はわずか100m足らず)、昆虫大好きイラストレーターの横山寛多さんが歓声を上げた。東京都と埼玉県の都県境、東西約3500ヘクタールにわたって広がる狭山丘陵の緑地。その西端に位置し、都立公園最大級の広さを誇るのがここ野山北・六道山公園だ。
「よく見つけましたね。このあたりは彼らが食草としているムラサキシキブの木が生えているので、近くに成虫もいるかもしれませんね」と、ガイド役の西武・狭山丘陵パートナーズ(NPO birth所属)のパークレンジャー、杉山俊也さんが応える。彼らが嬉々として見せてくれた葉を覗き込むと、わずか5mmほどの小さな黒い物体がくっついている。もはやゴミにしか見えないのだが……。
「まさに。彼らが背負っているのは自分の脱皮殻。ゴミで覆うことで天敵から身を守っているんです。ちなみにアワフキという虫は自分のおしっこで巣を作って身を守っているんですよ」と、杉山さん。目を凝らすと、確かに黒い物体の下に透き通ったヒダとトゲが並び、微妙に動いている。奇妙かつ非常に理に適った昆虫たちの生態はとても興味深い。そしてなんと神秘的な姿だろう。
「成虫いました! このプラスチックみたいな透明の円盤に覆われているのが昆虫本体。ツヤッとした表面の質感と横から見た時の立体感がたまらないですね」と、のハムシを見つけ大興奮の横山さん。素人なら素通りしてしまうような茂みに目を凝らし、鮮やかなアオオサムシや最近お気に入りのケシキスイなどお目当ての昆虫に次々と遭遇。
眼前に広がる丸山の雑木林に足を踏み込む手前で早2時間だ。深い緑の中で耳を澄まして、葉っぱの裏や足元に視線をグググーッとフォーカスしていくと、広大な森の中に小さな生き物たちの奥深い宇宙が広がっているのだ。