欲しいものがあれば、自分で作る。
それを家訓に育ちました
購入の決め手は、裏庭に生えていた桜の木だったという。2007年に美大を卒業し、NYにやってきたフィッツューとリンゼイが出会った一軒の家。住宅街パークスロープに多い、昔ながらのブラウンストーン建築だ。色も素材も重々しくて閉塞感を覚えたが、建物の裏で伸びている木を見てひらめいた。「この木を主軸に据えた家を造りたい！と思ったんです」とフィッツュー。
裏庭に面した壁はすべて取り払い、ガラス窓を大きく取った白い壁を設置する。住む人の視線が木へと伸びる家。建物全体もリノベして、明るく軽やかな空間に造り替えた。壁や床、天井が真っ白なのはなぜ？「デザイナーの私たちは、仕事で毎日次から次へとモノを見続けていて、視覚的に飽和状態。家に戻った時にはすべて白紙に戻したくて」とリンゼイが説明する。
白いキャンバスのような住空間に、ウッドの家具やオブジェたち。これらは木工作家フィッツューが自作したものだ。リンゼイが愉快そうに続ける。「私はNY州北部ロチェスターの出身。父親の口癖は“必要なものは自分で作り出しなさい”。ニューハンプシャー州で育ったフィッツューも同じことを言われてきたそうです」
「ある日、4本柱のベッドが欲しいって言ったんです。そうしたら2日後、フィッツューがなんとこんな柱を抱えて戻ってきて（笑）」とリンゼイ。もちろん自作。ブランクーシの彫刻を思わせる。 
フィッツューの実家にある牧羊用の納屋に付いていた引き戸を運び込んで、バスルームのドアに。長年使われてきた木材に、意外な用途を新たに与えるのが巧みだ。 
階下の部屋からも、ガラス越しに庭の景色を楽しめる。カウチはこの建物から出た古い梁で作った。NYなのにまるでニューイングランドにいるような穏やかな雰囲気だ。 
ノーフォークテリアのベン＆オリーブ用に、コーヒーテーブルはケージ付き。白い暖炉の上に飾られた立体作品は、フィッツューが木々の破片を組み合わせて製作した。 
ダイニングテーブルは2人でブナの倒木を切り出し、製作。パントンチェアと組み合わせて。リンゼイは子供の頃からなぜか仮面好き。壁には彼女の父が作った鏡も。
リビングの上にゲストルームが。壁の照明はインドの貨物船で実際に使われていたランプ。 
友人たちからもらったおみやげやギフトは、キッチンの一角に。一つ一つにエピソードが。手前の白い物体は、友人の陶芸家がロブスターの爪で作ったウイスキーフラスコ。 
フィッツュー（左）とリンゼイ（右）。彼女が腰かけているインディアンベッドは不用品処理場で拾った。ダイニングテーブルは自作。 
カウンターもフィッツュー作。天板がまな板のいわゆる「ブッチャーブロック」だ。
ちなみに影響を受けた人物は？と訊くと、建築家でデザイナーのアルネ・ヤコブセン、現代彫刻の旗手デヴィッド・スミスや、米国現代陶芸の先駆者トシコ・タカエズ、そして建築家スティーヴン・ホールの名を挙げた。そういえばこの家の窓。ホールがカンザス・シティで設計したネルソン・アトキンス美術館の、半透明に輝く巨大なガラスの壁をどこか彷彿とさせる。
白くモダンなこのブルックリンの家で、インテリアのポイントに使ったのが、ニューイングランド地方の納屋から運んだ「引き戸」。開拓の国アメリカのDIY精神と、これまで培ったデザイン素養、そして2人の原点とが楽しく融合する家だ。
リンゼイの自慢は鋳鉄ホウロウの〈アメリカンスタンダード〉社ヴィンテージシンク。棚に並ぶ器はアスティエ・ド・ヴィラット、エヴァ・ザイゼル、夫妻の作品ほか。 
重苦しいレンガ造りだった壁は取り壊し、ガラスが広がる白い壁に。レンガは庭の建材や花壇に再利用。〈ABCカーペット〉で買った明るい色のクッションが映える。
