〈イートリップ〉のコーヒーができるまで。野村友里×濱田大介のブレンドコーヒー対談

最後に飲んだコーヒーでそのお店の印象が変わるくらい、レストランにおけるコーヒーって、実はすごく大事だと思っている。

コーヒースタンドではコーヒーは目的であり主役だけど、レストランでは役割が違ってくるよね。

料理を食べ終えて、口の中の油をリセットするためにちょっと苦味が欲しいし、一緒にデザートも楽しんでほしい。ビターな深みがありつつ個性的すぎず、いい感じの締めにしたい。せっかく料理をおいしく食べても、締めのコーヒーがいまいちだと台なしで、店の顔を決めると言っても過言ではないかも（笑）。

だから友里ちゃんが、店でうちの豆を使いたいと言ってくれたときは、試されてるのかな!?って嬉しさと緊張が半々だった（笑）。

何から何まで自分たちで作るのもいいけれど、私は「餅は餅屋」って考え方。全部オリジナルで揃えるより、際立ったものはその道のプロに任せて互いにセッションする感じが面白いと思うんだよね。

それは〈シェ・パニース〉で働いた経験も影響してる？

そうかもね。〈シェ・パニース〉では〈ブルーボトル〉はじめ地元のコーヒーを使っていたし、スタッフは出勤前に寄ってよくコーヒー片手にお店に来てた。そういう地域コミュニティのカルチャーもすごくいいなって。だからイートリップも近所にあるリトルナップの豆を使うのは、私のなかで必然でもあった。

毎週店に買いに来てくれてたよね。そういう距離感とか、互いの店をきっかけにそれぞれのお客さんの往来が生まれたのも嬉しいよね。

今さらなんだけど、濱ちゃんはどういうイメージでリトルナップのブレンドを組み立てたの？

コーヒーのブレンドって音楽に似てると思うんだよね。ハンドドリップで淹れるシングルオリジンがあっさりしたアコースティックだとしたら、マシンで淹れるブレンドはバンドセッションみたいな感じ。

ほほぉ、興味深い譬えだね。

僕のコーヒーのルーツはイタリアなんだけど、イタリアのエスプレッソでは5種類以上ブレンドした豆を使う決まりがある。しっかりしたボディのドラム、ベースラインがあって、柑橘やフローラル系のギター、スパイシーなエッセンスのホーンセッション、鼻に抜ける芳香はエコーを効かせた深いダブみたいな感じ。

それらをエスプレッソマシンで抽出したときに最高のパフォーマンスを発揮するようにブレンドする。マシンを通すことで味わいは複雑さと厚みを増すから、マシンのチューニングも大事。ブレンドの味＝店のアイデンティティ。

レストランなどの店に卸すと、そこからまた新たな店のアイデンティティが生まれるのも、ある種のセッションだよね。

まさに。イートリップではドリップで淹れているんだけど、私たちにできることは豆に頼りすぎるのではなく、おいしく焙煎されたコーヒーをきちんとおいしく淹れること。

ディナーの後は濃いめに淹れた一杯を、小さめのカップでさっと提供。朝はコーヒーの存在感が強くなるから、モーニングでは薄めに淹れてマグでたっぷり飲んでもらいたい。シーンやタイミングも大切にしている。

常にコーヒーの香りが充満した店にいると、自分たちのコーヒーの香りにちょっと鈍感になる部分がある。だから料理の香りに包まれたレストランでコーヒーを淹れたとき、香りのコントラストが際立って、より魅惑的に感じるのも良いんだよね。

そうなの。挽きたての豆の香りがフワ〜ッと立つのが毎回嬉しい。

まさに食事の後のコーヒー一杯で、トリップできるんだよね。