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〈Norwegian Rain〉デザイナー・T-マイケルに聞く“冬のトラッド”

現代のかっこいい大人と話がしたい。世界で活躍する人たちは、今何を見て、どう動いているのか。〈Norwegian Rain〉デザイナーのT-Michael。彼にとってのトラッドとは、どんなスタイルなのか。お店を訪ねました。

photo: Bent René Synnevåg

優美なレインウェアを作るビスポークテーラー

美しいテーラリング、着物のようなエレガントさ、そして雨に耐えられる機能性。これらを兼ね備えたモダンなレインウェアを手がける〈Norwegian Rain〉というブランドをご存じだろうか。ノルウェーで生まれ、日本でも神田にフラッグシップショップを構える、唯一無二のファッションブランドとして世界中から評価されている。そんなブランドのデザインを担うのが、T-マイケルだ。どうしてレインウェアを専門に作るブランドを立ち上げたのだろうか。

「〈Norwegian Rain〉は友人のアレクサンダー・ヘレと一緒に、2009年に立ち上げたブランドだ。私たちの暮らすノルウェーのベルゲンという町は、3日のうち2日雨が降る、ヨーロッパ有数の降雨都市。ファッションが大好きな私たちは、雨の日でも気分が高揚する服を着ていたい、チープでないレインコートがあったらいいと考えた。ファッショナブルで、機能的で、気が利いている、そんな服が欲しい。〈Norwegian Rain〉はそういった思いから生まれた、生活に密接したデイリーウェアブランドなんだ」

〈Norwegian Rain 〉デザイナーの、T ‒マイケル
〈Norwegian Rain〉のシグネチャーアイテムの「Raincho」を着用したT-マイケル。普段からよく着用するほどお気に入りだという。

テーラリングを崩すことで生まれる新しいトラッド

かくして誕生した〈Norwegian Rain〉は、イタリアのピッティやパリのトラノイなど、モードの最前線の展示会でコレクションを発表するようになり、瞬く間に世界中で話題のブランドに。注目を集めたのはその機能性だけではなく、高度なテーラリング技術に基づいた美しい洋服作りにある。というのも、T-マイケルは一流のビスポークテーラーでもあるのだ。

「テーラリングはメンズウェアの基礎。それが身についているか否かで、洋服作りのクオリティに大きな差が出る。私の父は仕事で毎日スーツを着ていて、テーラードに造詣の深い人だった。父の姿を見て育った私がテーラードに興味を持つのは必然のことで、ノルウェーのテーラーで腕を磨いたよ。そこで身につけたのは、体にフィットする洋服作り。これはデザインより先にあるべきものなんだ。日本の〈ヨウジヤマモト〉や〈コム デ ギャルソン〉だって、ベースにはテーラリングがあるだろう?テーラリングを崩すことで生まれる新しさこそ、トラッドだと私は考えている」

ガーナで生まれ、ロンドンを経て、ノルウェーへと拠点を移し活動するT-マイケルだが、日本との関係も非常に濃いものがある。〈Norwegian Rain〉のシグネチャーとも言える「レインチョ」というアイテムには、日本製の高品質なリサイクルポリエステルが使われている。レインウェアとしての機能を高めるために世界中の生地を吟味して選び抜いた素材だ。

「『レインチョ』はノルウェーの伝統的なレインウェアに日本の職人技術が掛け合わさって生まれた新しいアイテム。日本のもの作りへの姿勢はもちろん、文化への興味も尽きない。自宅の一角に枯山水を作ったり、大きなインスピレーションをもらっている。2019年にパリに次ぐ海外店舗として神田に店を開いたのも、日本の職人たちへの敬意からさ。最近では能登半島に古民家を購入して、アーティストレジデンスを造れないかと画策中でね。ゆっくりとした時が流れ、心安らぐ場所が日本にはたくさんあると感じているよ」

日本にもたびたび訪れるT-マイケルだが、旅に欠かせない、いや、彼のスタイルに欠かせないアイテムがあるという。

「私にとってのトラッドなアイテムといえば“白いシャツ”。どんなスタイリングでも、これさえあれば自分らしくなる。誠実で美しく、きちんとした装いにね。これもメンズウェアの基本なんだ。東京に行く時には、白いシャツだけで10枚も持っていってしまうよ」

〈Norwegian Rain 〉デザイナーのT ‒マイケル
自身のショップにて。壁の写真は、同じくノルウェーのベルゲンで活動する写真家Bent René Synnevågのもの。ショップアトリエはノルウェーの家具、アフリカの民芸品、日本の陶器を軸に構成されている。

ブランドだけでなく、ファッションアイコンとしても注目されるT-マイケル。彼にとってトラッドとは?

「私たちのコレクションもそうなのだが、すべてが新しい必要はない。自分たちの定番や王道に、日々感じていること、影響を受けたものを取り入れてアップデートしていく。トラディショナルでありながら、コンテンポラリーでもある。その両立から生まれるものが、トラッドなんだと思う」