――今回のショートフィルムの制作にあたって、企画に参加された経緯やまず初めに考えたことをお伺いできると嬉しいです。
玉田真也
長編映画は今まで何本か撮ったことがあるのですが短編は初めてだったので、短編をやるならこんなことをやってみたいというアイデアはいくつかありました。
――休憩時間、帰り道、食事中など、肩書きや規則から解放される“営業時間外”を大切にしようというNORMEL TIMESのテーマを軸に映画を撮影していただいたと思うのですが、どのように作品に落とし込まれているのでしょうか。
玉田
NORMEL TIMESが掲げる“営業時間外”は、余暇の時間をどう過ごすかといったテーマだと思うのですが、この作品では本来余暇のはずの旅行に来ているけれど、違った過ごし方をする2人を描きました。一人は仕事から離れられず、もう一人は一緒に休日を楽しみたい。そんな、交わりたいけれど交われない関係性を描いています。

――主人公の二人の関係性が独特だなと感じたのですが、着想したきっかけがあるのでしょうか。
玉田
まず、最初からロードムービーにしたいと思っていました。旅の物語にするなら、ただ仲のいい二人が楽しく旅をするだけではなく、対立やねじれた要素を入れたいという気持ちがあって。なので、気まずくならざるを得ない関係の二人が旅をしなくてはいけない、というストーリーにしたかったんです。
日常でも時々ありますよね。親友が仲の良い別の友だちを呼んで三人で遊ぶとき、親友が席を外すと残された二人は少し気まずくなる。あの空気感のまま1泊2日を過ごす状況って物語として面白いなと思ったんです。

――今回は“グラス一杯のウイスキーを味わう時間”=約20分の物語にするというお題があったと思います。短い尺の中で物語を構築するにあたって意識された点や工夫はありますか。
玉田
特別なことはしていないのですが、短編の場合は途中から始まって途中で終わるような中途半端な切り方でも、それが逆に余白になって観る人の想像力を掻き立てられるのではないかと思いました。短編だからといって何かを制限するというより、むしろ自由に作っていた感覚があります。
――撮影を通して、坂井真紀さん、李夢苡樺さんをはじめとする出演者の印象やエピソードがありましたら教えていただきたいです。
玉田
坂井さんは僕が前に制作した長編映画『そばかす』でご一緒したときからお芝居が素晴らしくて、またお仕事したいと思っていた俳優さんです。なので、母親役にぱっと浮かびました。旅に仕事を持ち込んでしまう母親という、嫌われてもおかしくない役柄なのですが、愛嬌のある坂井さんが演じるとちゃんと好きになれるキャラクターになる。そこが唯一無二だと思います。

玉田
李夢さんはオーディションで出会いましたが、最初から圧倒的にうまかったです。役についての解像度も高くて、僕が想定していなかった部分まで掘り下げてくれる。実際に撮影に入ってからも、セリフも完璧で役を作り込んできていましたね。スクリーンに映ると画の強度がぐっと上がって、観ているうちにどんどん引き込まれる俳優さんだと思います。

――最後に、本作に込めた思いや作品を観た方に伝えたいメッセージがあれば教えてください。
玉田
「こういうことを伝えたい」という強いメッセージはないんです。でも、ローカルで人情味のある旅館で過ごす登場人物たちと同じ時間を味わうような、ゆったりとした気持ちで観てもらえたら嬉しいです。肩の力を抜いて、この旅に少しだけ付き合ってもらうような感覚で楽しんでもらえたらいいなと思います。