海外を飛び回る野村訓市さんの朝食は、ソーセージの塩気とメープルシロップの甘さが混じり合った、ちょっとジャンクなパンケーキ。それにイチゴの酸味とゴルゴンゾーラの塩気が新鮮なベビーリーフサラダを添えて。ドレッシングも自家製。
松浦弥太郎
訓市さんが料理するのって意外だった。
野村訓市
たまにね。カレーを作るぞというと4時間くらいかける(笑)。あと日々タレの開発。男はタレですよね。
松浦
言い方としてはソースの方がいいんじゃない?(笑)おなか減ってきたね。
野村
では、作りますか。
トマトの
オリーブオイル和え
野村
松浦さんは、料理は作るんですか?
松浦
月に1回くらいはやりますよ。休みの日とかね。
野村
どんなものを作る?
松浦
やっぱりカレーとかさ。
野村
(笑)。男の料理だね。僕らは毎日はやらないですからね。
松浦
カレーとかサラダ、あとはスープとかかな。
野村
(1)プチトマトのヘタを取って、ザク切りにしていきます。
松浦
プチトマトは何個くらい使うんですか。
野村
お好みだけど、2人分なら8個くらいかな。でも、僕はけっこうたくさん使う。(2)これにオリーブオイルをひたひたになるまでかけて、塩を振って出来上がり。
松浦
すぐできましたね。
野村
うん。パンがある時はパンと一緒にひたすら食っていればいいし、パンケーキの時は横に置いておけば、口直し的につまめる。昔、スペインに行った時にイタリア人の友達がこれを大量に作っていたんですよ。
パスタにも突っ込んだりして一日中食べていた。あっ。バジルを切るのを忘れていた。ちょっと待っていてください。すぐに用意します。
(3)バジルをザク切りにして、トマトの上に散らしてください。
松浦
すごく香りがいいね。
野村
食べる直前に刻むと、より香りが立っていいかもしれないですね。
松浦
サルサソースみたいな感じだね。何にでも使える。
野村
そうですね。では、パンケーキを作りますか。
ソーセージと目玉焼きを
添えたパンケーキ
野村
この粉はアメリカから送ってもらったもの。
松浦
パンケーキミックス粉になっているんだね。
野村
ドラマ『ツイン・ピークス』のロケ地になったロッジのものなんですよ。そういえば、デイヴィッド・リンチが『ツイン・ピークス』の続編を撮るらしいですよ。
(1)粉1カップに対してちょっと少なめの水を入れる。牛乳は入れない。コクはないけどあっさりしていて僕は好きですね。
松浦
少しずつ水を入れるんだ。
野村
一気に入れると混ざらなくなってしまうんです。
(2)泡立て器で混ぜていきます。粉と水がきちんと混ざって粉の塊がなくなったら大丈夫です。
松浦
コツがあるんですね。
野村
次は焼きですが、焼く前に(3)フライパンにサラダ油を引いて強火で一回温める。一度、火から下ろして濡れふきんにのせて底を冷やす。それから焼かないと焦げてしまうんですよ。
松浦
パンケーキは小さいものを何枚も焼く感じですか?
野村
いや、まあまあ大きい。10cmくらい。では、焼きますか。
松浦
けっこう上の方からタネを入れるんですね。
野村
うん。その方がきれいに丸くなる。あとテフロンのフライパンだったら油はなくても大丈夫。
松浦
表面がブツブツになってきましたよ。
野村
(4)ブツブツと気泡が出てきたら、中まで火が通ったということなのでひっくり返します。
野村
そして、(5)焼き上がったら皿にのせてバターを塗っておきます。
次は目玉焼き。同じフライパンをそのまま使っちゃおうかな。
松浦
油は?
野村
引かなくてもこのままでいいでしょう。
(6)卵を割り入れて、目玉焼きを作ります。
松浦
すごくきれいですね。さっきから拝見していると、訓市さんって料理をとても丁寧に作る。デリケートですよね。
野村
これがくずれていたり、汚いとイヤじゃないですか。ビジュアルが良くないと男は料理を知ろうとしないんじゃないかな。
松浦
程よく半熟になってきましたね。
(7)出来上がった目玉焼きをパンケーキにのせる。いやあ、匂いもおいしそうですね。
野村
(8)ソーセージを焼きます。
松浦
ソーセージにこだわりはあるんですか?
野村
あまり本格的じゃなくて茶色くてぷりっとしているのがいい。ただ、切れ目を入れるのはヤダ。そのまま焼いて、皮がパリッと破ける感じが好きですね。
松浦
僕も切れ目が入っているのは、イヤです。
野村
アメリカでは絶対に切ってないですからね。
松浦
焦げ目がちょっと付いてきて、いい感じになってきましたよ。
野村
(9)ソーセージが焼けたら皿に並べ、目玉焼きに塩・コショウをかけてください。仕上げに、パンケーキの周りにメープルシロップをドバドバとかけます。
松浦
メープルシロップの甘さとソーセージのしょっぱさのミックスがたまらないですね。
イチゴとゴルゴンゾーラの
サラダ
野村
じゃあ、次はサラダ。
松浦
市販のベビーリーフですね。
野村
まず(1)イチゴをザク切りにします。
松浦
ドレッシングは自分で?
野村
はい。(2)バルサミコ酢とオリーブオイルを各大さじ2入れて、塩とコショウも振って混ぜるだけ。これを洗っておいたベビーリーフにかけます。
松浦
バルサミコ酢があると便利ですよね。
野村
うん。バルサミコ酢に蜂蜜を入れて煮詰めて肉にかけても超おいしいですよ。
松浦
自分でドレッシングを作るというのも嬉しい。
野村
あとは仕上げですが。(3)ゴルゴンゾーラチーズのブロックを手でちぎるように割り入れて、その上にさっきザク切りにしたイチゴをのせる。
松浦
これで完成なんだ。
野村
これにクルミやアーモンドなどのナッツを加えてもおいしいと思います。よく、ゴルゴンゾーラチーズに蜂蜜をかけて食べるけれど、それも、ソーセージにメープルシロップと同じ。甘じょっぱいのミックスだよね。
松浦
サラダにトマトではなくイチゴを添えるっていうのがいいよね。おしゃれ。さすがだなぁ。
野村
イチゴの酸味がドレッシングに合ってすごくおいしいんですよ。これは発見だった。
松浦
またさ、イチゴの季節にしかできないっていうのもいいと思う。朝食のどこかには、旬の食材を使いたいですものね。
野村
そうですよね。意外性だけでなく見た目もかわいくなるし、このサラダは友達にも好評です。
【材料(2人分)】
・ソーセージと目玉焼きを添えたパンケーキ
卵2個、ソーセージ6本、パンケーキミックス粉2カップ、水400㏄弱、サラダ油大さじ1、バター20g、メープルシロップ適宜、塩ひとつまみ、コショウ少々
・イチゴとゴルゴンゾーラのサラダ
ベビーリーフ1袋、ゴルゴンゾーラチーズ200g、イチゴ8粒、バルサミコ酢・オリーブオイル各大さじ3、塩・コショウ少々
・トマトのオリーブオイル和え
プチトマト8個、オリーブオイル適宜、バジル5枚、塩少々
松浦
僕たち実は会うのは今日が初めてなんですよね。そこで、勝手に訓市さんをイメージした音楽を持ってきてみました。
野村
何ですか。
松浦
ロバート・パーマー。アルバム『Sneakin' Sally & Pressure Drop』のボーナストラックに「WILLIN'」って曲があって、それがすごい訓市さんのイメージ。
野村
それは嬉しい。僕も松浦さんはカレン・ダルトンかなと思って、iPhoneに入れてきました。
松浦
マニアックだなあ。お互いイメージして音楽を選んできたんですね。ほかにも最近、人に薦めているのがジョー・ヘンリー。アメリカのルーツミュージックを継承している人なのだけど、洗練されていてすごくいいです。
野村
へえ。今度聴いてみます。
松浦
あと、この本『A Secret Location on the Lower East Side』も差し上げたくて持ってきた。ビートも含めたカウンターカルチャープレスを集めたものです。
野村
昨年アーサー・ラッセルの伝記を読んでいたのですが、当時のニューヨークのロウワー・イーストサイドがいろいろ出てきて楽しい。今はもうああいうカルチャーシーンはないですよね。
松浦
僕もアメリカのカウンターカルチャーに憧れて、本屋を始めたんですよ。訓市さんはアメリカをはじめよく海外に行くと思いますが、どんなところで朝食を食べますか?
野村
それこそロウワー・イーストに好きなダイナーがあったのだけど、そこもなくなっちゃった。
松浦
やっぱりダイナーなんだ。僕もあの雰囲気が好き。カップに口紅が付いていても誰も文句言わずに食べているところとかさ。
野村
僕は鉄板ですべてやるところが好き。映画『ブルース・ブラザーズ』に出てくるプエルトリカンみたいな人が何でも焼いてくれるの。あと、朝は薄いコーヒー。いわゆるアメリカンってやつ。何であんなに飲むのだろうと思ったら、アメリカ人にとってあの薄いコーヒーは麦茶なんですね。
テキサスでホストファミリーのところに滞在していたのだけど、そこのお父さんが毎朝大きな魔法瓶にコーヒーを入れて会社に行くんです。2〜3Lですよ。それを一日中飲む。それで、コーヒーは眠気覚ましとか嗜好品ではなく、麦茶なんだということがわかりました。
松浦
アメリカで薄いコーヒーに牛乳と砂糖をたっぷり入れて、甘くして飲んだ時は嬉しかった。アメリカン・ニューシネマの世界。
野村
インドの“ネスコヒ”もいい。つまりただのネスカフェだけど、チャイと一緒で牛乳だけで作る。砂糖も山盛り入っていて、朝のビーチでネスコヒを頼むと、いわゆるシュガーラッシュがバンバンくる。朝は砂糖たっぷりの方がいいと思う。
松浦
仕事中もブラックより砂糖入りの方がいいっていうよね。砂糖かじりながらミーティングしたりするし。
野村
松浦さんは海外の朝食はここで、というのはないですか?
松浦
ないです。あるところに入る。旅先でおいしいものにこだわりすぎるのってあまり良くない気がするんだよね。訓市さんは、朝食は必ず食べるの?
野村
普段は食べないです。でも、出張の時は必ず食べる。帰ってきた直後はそれに慣れちゃって、パンケーキを自分で作ったりします。松浦さんは朝は何派?
松浦
僕はパン。目玉焼きを作って適当にそれにつけて食べる。
野村
パンと目玉焼き。『天空の城ラピュタ』じゃないですか。朝は卵を食べたくなりますよね。僕もスクランブルエッグより目玉焼きが好きなんです。
松浦
訓市さんてラフに見えて、今日のイチゴやトマトの切り方や、パンケーキの焼き方を見ていると、けっこう繊細ですよね。
野村
そうですか。でもビジュアルはきれいな方がいいでしょう。話は変わるけど、卵かけご飯ってどうやって食べます?
松浦
白身と黄身を分けて、白身だけ先にご飯にかけて混ぜてから、後から黄身だけに醤油を入れてかける。それはすごくおいしい。
野村
僕はキャップ1杯分のだし醤油と同量のゴマ油を入れる。で、もしOKならうまみ調味料をほんのちょっと入れて、最後に刻み海苔。これがおいしくてみんなに薦めているんです。
松浦
卵かけご飯は盛り上がりネタだ。今度はそれぞれの卵かけご飯対決もしたいですね。
野村訓市さんとの
朝食を終えて
訓市さんとは共通の友人がいながら、なかなか会う機会がなかった。彼の仕事や活動を見ながら、つねにシンパシーを感じていた。会えなくても心が通じ合う古い友人のような感覚を抱いていた。だからこそ、初めて会った時、「はじめまして」ではなく、「やあ」という挨拶で打ち解けることができた。
料理をする彼を見て、ああ、やっぱりと思った。とても繊細でひとつひとつの所作がていねいなのだ。食べ終わった後の、彼の皿のきれいさといったらなかった。こんな上品な男はなかなかいない。僕は彼をもっと好きになった。(松浦)