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野田クリスタルさん、みんなに伝わる面白さってなんですか?

客席に笑いを巻き起こし、老若男女を夢中にさせる人気者は自身の思う“面白い”を届けるために、どんなことを考えているのだろう。お笑い芸人・野田クリスタルに聞いた、伝え方のコツ。

photo: Masanori Ikeda / text: Masaki Hamase

漫才、コント、バラエティ番組でのMCやトークなど、さまざまな場で活躍する〈マヂカルラブリー〉野田クリスタルさん。日夜エンタメに身を捧げる彼は、自分が考える“面白さ”を伝えるために、普段何を意識しているのか。

「漫才に関して言うと、僕は“マイム”を大事にしています。体や表情を使って、いかに状況を伝えられるかが勝負。漫才師って、普通一人が何かをして、相方が状況説明をするのが定石ですけど、僕らの場合、相方の村上はツッコんでいるだけ。ほぼ説明しないんですよ。

だから僕らの『つり革』というネタだと、お客さんに“そこに吊り革がある”と思ってもらえるかは僕のマイム次第。見せたいシチュエーションを想像してもらうために、極力複雑な動きはしないようにしていますね」

野田さんいわく、マイムには会話に通ずるものがあるという。

「マイムには、技術によってそこに物があると思わせる“パントマイム”などがありますが、会話の場合も、“この人に対してはこんな話し方をしよう”と技術を駆使して話をしようとする人がいますよね。僕は、それよりも“目の前の相手を思った方がよくない?”と考える派。

どんなに優れたマニュアル通りでも、相手が嫌がっていたら会話はやめた方がいいし、違和感を覚えたら軌道修正した方がいい。ビジネスコミュニケーションも大事ですけど、技術だけ先行すると“これって本当の会話なのかな?”と思ってしまう。日常会話もお笑いも、目の前の人がどんなふうに思うかを考えることがすべてです。

そもそも僕は運動神経がなくて不器用ですし、笑いの技術もない。いつもこのスペックの割によくやっているなと思います。“へただったけど練習してうまくなった人”の方が指導者に向いているという理論に近いけど、何事もゼロから作らなきゃいけない人間だったから、物事の構造が見えるし、できない人の気持ちもわかる。だから“教える”や“伝える”が大事だと思うのかもしれません」

手練れの野田さんでも、失敗することはある。『キングオブコント(以下KOC)』の準決勝で披露したコント『シャドウ』は、お気に入りのコントだったが……。

「アニメの“あるある”を詰め込んだコントなんですが、何のツッコミもないので、アニメ好きじゃない人には本当に伝わらない。『KOC』の決勝前にルミネtheよしもとの寄席で試した時は、服の布がこすれる音が聞こえたくらいゼロ笑いでした(笑)。この体験で得た教訓は“伝わるかどうかは相手にもよる”ということ。同じネタでも、場所やお客さんが違うだけで、反応も真逆になる。あのネタで準決勝に勝てたのは、賞レースやお笑い好きのお客さんの前だったからです」

失敗を経て、伝え方を試行錯誤してきた。それと同時に経験も積んだ。

「寄席でネタを見せてウケなかったら、その部分を直す。それと同じで、伝え方も経験を重ねて、調整していくしかないと思います。ただ、毎回漠然と挑戦するんじゃなくて、自分の中では“意味のある経験”にした方がいい。

僕は成長することが好きなんですが、人前に出る時に失敗していいと思ったことは一度もないし、賞レースも落ちたら辛くて、ずっと引きずる。だから反省します。反省は苦しいですけど、その分次に生かせるから。毎回“今日のお客さんには伝わるか?”を試して、駄目だったら“どこが?”を振り返る。その繰り返しですね」

そのうえで、自身がテクニックよりも重要視していることがあるという。

「例えばエピソードトークで大事なのは、何か起こった時にどこにオリジナルの視点を置くか。芸人みんなそうですけど、最悪何も起こらなくても“面白いこと”としてお届けするし、嫌なことがあっても“こんなことがあったんですよ!”とポジティブに変換する。そうやって自分なりの視点を加えて、面白くアウトプットすることも、芸人の醍醐味だと思います」

お笑い芸人・野田クリスタル

野田さんが羨ましがる“伝える力”最強の芸人

最後に野田さんが考える、伝え方が上手な人を教えてもらった。まず2024年の『M-1』で“伝える力ナンバーワン”として挙げたのは〈真空ジェシカ〉だ。

「決勝戦で披露した『商店街』も『ピアノがデカすぎるアンジェラ・アキ』も、どちらも非現実的な設定なのに伝わってましたよね。冒頭で見せたボケを後半で回収する構造でしたけど、なんで観客が最初に言ったことを後半でも覚えている、と思えるんだろうと。普通は不安だから説明したくなるけど、あのネタはそれなしに伝わっていた。むしろ丁寧に伝えすぎていないから、面白かったんでしょうね」

続いて挙がったのは、同じく24年の『M-1』で2連覇を果たした〈令和ロマン〉の髙比良くるまさん。Prime Video『最強新コンビ決定戦THEゴールデンコンビ』で野田さんとコンビを組んだ彼は、最終決戦で約90秒間アドリブで演技を繰り広げ、圧倒的な表現力で観客を惹きつけた。

「『M-1』決勝の漫才を観てもわかるように、くるまは中身がコント師なんですよ。演じる力がとにかく優れている。それに加えて〈とろサーモン〉の久保田(かずのぶ)さんや〈霜降り明星〉のせいやのように、稀に芸人界に現れるんですが、突然“1分間フリーで何かやってください”と言われたら即座に対応できるし、ずっと続けられる“能力者”がいるんです。

急にバッターボックスに立たされても、口や体をオートで動かしながら、出力にリソースが削がれることなく次の展開を考えられる。演者として最強ですし、伝える力がある人たちだなと思います。羨ましいし、かっこいい。

でも、彼らに“どうしてできるんですか?”って質問しても“なんとなく”としか言わないでしょうね。実際そうだから。それに引き換え、僕は大人数がいる楽屋では無口になってしまう非能力者、人とめったにしゃべらない僕が、“伝え方”のインタビューを受けて大丈夫なんでしょうか?(笑)」

野田クリスタル流、面白さを極めるためのマイルール

・「観てくれる相手を思う」を突き詰める。
・何事も意味のある経験と捉え、試行錯誤を繰り返す。
・必ず自分なりの視点で体験を伝える。