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〈NOAH〉ブレンドン・バベンジンと〈UNION〉クリス・ギブスが語る、仕事への向き合い方

NYとLAで唯一の地位を築いている、ファッションブランド〈NOAH〉とセレクトショップ〈UNION〉。個性を残して時代を読み、ブランドやショップを発展させる。ストリートファッションを黎明期から見守り、一大ムーブメントに育てた2人が、仕事への向き合い方を語る。

photo: Akira Yamada / text: Minori Okajima / translation: Aya Muto

ストリートカルチャーを黎明期から支え、育て上げた、NYとLAの雄

2022年10月、NYで誕生、現在はLAを拠点とするセレクトショップ〈UNION〉が大阪にオープンした。しかも、同じくNYのブランド〈NOAH〉の大阪店のすぐ近く。LAの〈UNION〉と、NYの〈NOAH〉。アメリカのストリートファッションシーンの雄たちが大阪のオレンジストリートで出会うとあって、世界的に注目を浴びるオープニングになった。

サーフィンやスケートボードなど自身の背景や環境問題までをもデザインに落とし込む〈NOAH〉の創業者、ブレンドン・バベンジン。そして、〈UNION〉で長年バイヤーを務め、現在はオーナーとなったクリス・ギブス。2人が大阪で、それぞれのクリエイティビティについて語らう。

〈NOAH〉ファウンダーのブレンドン・バベンジン、〈UNION〉クリエイティブディレクターのクリス・ギブス
ストリートで出会った2人は、今では家族ぐるみの付き合いに。

業界が注目するストリートのカリスマの店作りとは?

クリス・ギブス

新店舗は、より日本的な店作りを意識したんだ。2018年前にオープンした東京店は、もう少し感覚的な店作りでね。僕は昔から日本が大好き。今まで多くのブランドの買い付けに通っているし、プライベートでも何度も訪れているからね。だからこそ大阪店は地域性を重要視しながら、僕らの個性を発信できるショップにしたかったんだ。

ブレンドン・バベンジン

僕もクリスと同じ理念で店作りをしている。サーフィンやスケートボードに夢中だった10代の頃は、ほかの人と違う服が着たいと思っても、ストリートカルチャーが生まれる前だったから、地元の家族経営のショップに通っていたんだ。そこは地域密着型で、店に行っては長く居座ってね。駐車場で一緒にスケートしたり、交流の場だったよ。

クリス

あったあった、そんな場所!

ブレンドン

それを〈NOAH〉でも作りたかったんだよ。2020年前に作った大阪店もそう。もともと100年以上続いた家族経営の蕎麦屋さんでね。過去の場所として切り離すのではなく、歴史や伝統を受け継ぎたかった。だから梁を生かしたり、日本的なディテールを残したデザインを妻のエステルが考えたんだ。

クリス

新天地に足を踏み入れる時は、その土地に敬意を払うのが、とても大切なことだよね。ただ同じ形式をCtrl+V(コピペ)すればいいわけじゃない。

ブレンドン

クリスと僕にとって、日本での出店はごく自然なことだったんだ。ファッションや音楽に携わる誰もが、少なからず日本のカルチャーに感銘を受けているんじゃない?だけど、まさか大阪のショップがこんなに近いとは驚いたよ(笑)。たったの数軒先だ!

クリス

ここだ!という物件を見つけて、場所を調べたらたまたま同じストリートだったんだ。不思議な縁だね。でも優れた場所は限られているから、ある意味必然だったとも言えるかな。

UNION OSAKA

LA、東京に続き、22年10月1日にオープンしたばかりの新店舗。店舗面積148m2という広い空間には、ウッドクラフト調のフロアや盆栽など、日本をイメージした内装が随所にあしらわれている。さらに、1700年代のNY・ハーレムの風景を描いたSheila Bridgesの壁紙や、友人のアーティストJulia Chiangによる円状の作品を飾ることで、アメリカと日本の要素を融合させた。

大阪〈UNION 大阪〉店内

NOAH NOODLE SHOP

東京店に次ぐ、日本2店舗目のショップ。100年以上の歴史ある老舗蕎麦屋を改築し、和洋折衷の雰囲気に。建物に溶け込むように、店内には木製の什器(じゅうき)や障子窓が用いられ、〈NOAH〉のウェアやシューズ、スケートボードも新鮮に映える。2階奥は、その場で食べられるインスタントマグカップにゅう麺やドリンクなどを陳列するカフェスペースに。

大阪〈NOAH NOODLE SHOP〉店内

ファッションではなく、アイデンティティを売る

店作りのこだわりや日本への愛を聞いたところで、話は本題へ。ストリートのシーンを長く支え育て上げた手腕や、新たなアイデアを生む原動力は、どこから湧き上がってくるのか。

ブレンドン

まず、僕がブランドを始めた頃と今のストリートシーンは別物だということを知っておいてほしい。というのも、最初は自分たちが好きなことを始めただけだから。そこに利益が生まれるかどうか考えていなかった。純粋な熱意だけのムーブメントだったんだ。

クリス

そういえば僕たちの関係も、ビジネス以前に友達だよね。〈UNION〉で〈NOAH〉を取り扱ったときも「Yo!ブレンドン、お前の服を送ってこいよ!」だったし(笑)。

ブレンドン

僕は正直、当初は〈UNION〉に置いてもらうことを不安に感じていたんだよ。売れないんじゃないかと。だけどクリスは、とにかく独立した考えの持ち主で、業界の動向や流行は追ってない。そこが〈UNION〉のユニークさなわけであって、独自の色を生み出している。発想の赴くままに舵を切っても、ビジネスとして成り立つんだ。それってなかなかできないことだよ。

クリス

そう言ってくれて嬉しいよ。スタッフとして働いていた頃から、オーナーになって今に至るまで、根本的なアプローチは何も変わっていない。ずっと大切にしているのは、常に消費者の視点に立って考えることだから。

ブレンドン

それはどのビジネスをする人にとっても、とても重要なことだと思う。

クリス

僕は“ストリートウェア”と呼ばれる前からこのカルチャーの大ファン。メインストリームの外側で育ってきた僕は、ストリート育ちのカルチャーに強い共感を覚えたんだよね。今でもメッセージ性があるクールな服に出会うと興奮する。バイヤーである以前に僕も一人のファンだから、「Oh wow!」と言わせてほしいんだ。そんな素敵な出会いを続けて、ビジネスにできていることが僕の最大の幸運なのかもね。

ブレンドン

クリスは“Dope”なものに対する嗅覚が優れているけど、感覚を研ぎ澄まし続けるには、どうしている?

クリス

“Dope”って主観的なものだけど、一般的に表層的でわかりやすい指標は存在していると思う。例えば、Tシャツの色やそこにのるグラフィックはどんな文脈・理由によって選ばれているのか。その文脈を理解しようと、常にブランドのストーリーや背景を探求しているかな。単純なデザイン的なクールさだけじゃなく、質、価値、独創的なアイデア。これらを相対的に考えて、自分の好奇心がくすぐられるか。そのアンテナは張り続けているよ。

新しいアイデアを生むのに、苛立ちを感じるのは必須

ブレンドン

となると、必要なのは自分の信念を貫きながら、新しい視点を持ち続けることかもしれないね。

クリス

〈UNION〉では“RNB(Reason Not to Buy)”という言葉がいつもオフィスで飛び交っている。いいデザインだけど、“買わない理由”はないか。ひっくり返すと、人に買う理由を見出してもらうことができるかどうか。これらを自問自答して、俯瞰的にプロダクトと向き合うことが大切なんだ。

ブレンドン

僕も同意見。それはブランドが何を体現するか、ということにも繋がってくると思う。買ってくれる人が僕らをどのように見てくれるかという根本的な部分だよね。僕も何か新しいことをしたいといつも考えている。その中で最も頭を抱えるのは、自分がやっていることに満足していないという“苛立ち”が生まれるとき。

だけど、その感情は必須だということも忘れてはいけない。その先に新天地が開ける予感があるわけだから。急にいいアイデアが閃(ひらめ)いたりね。ネガティブな気持ちこそ、新しい門戸を開く第一歩なんだ。

近年はストリートカルチャーがファッションシーンの中心にいるが、黎明期から携わり発信してきた2人はこの現象をどう捉え、挑み続けるのか。

ブレンドン

これまで長い間、スケートボードやヒップホップが好きな人、スニーカーコレクターなど、それぞれ棲み分けされてきた。今はそれらが融合し、ビジネスになっている。ハイブランドとのコラボレーションもその一環だね。

クリス

そうだね。カルチャーとビジネスには潮の満ち引きのような特有のリズムがあり、どこかのポイントで交差する。そのタイミングを見出すのが僕の仕事だ。“ストリートウェア”と呼ばれるものは日々、新しい才能や発想がどんどん生まれてくるジャンル。でもその一方で、古くから変わらない哲学があり、次世代でも受け入れられるブランドだってある。目新しいものだけに食いつかず、冷静に時代を読むためにも俯瞰的な視点を意識しているよ。

ブレンドン

ファッションは一過性のあるもので、どんどん移り変わっていく。僕とクリスが仕掛けている仕事は、ある意味ファッションとは違う区分に属すと感じているんだ。服を売る仕事だけど、ファッションを売っているんじゃない。僕らが商品としているものは、カルチャーのアイデンティティなんだ。トレーディング(交換、交易)という言葉がしっくりくるかな。お金を払ってくれたら、シャツをあげるよ、というただの行為では言い表せない。

クリス

それが、僕たちがこの仕事を続けている意味だからね。その一方で、業界は資本主義がどんどん巨大化されていって、インフレを起こしている。純粋な愛だけでブランドを始めるのが稀有になってしまった。ほんの爪先だけを商業の水面につけただけで、あっという間に潮の流れに呑まれてしまう。

ブレンドン

それは社会が変わってしまったからだよね。情報のペースも昔とは比べものにならないぐらい速くなっていってる。僕たちが若い頃は、ロンドン発の雑誌を読むことで友達よりも早い情報に出会えていたけど、今では5分後には世界中に知られているという時代。ドングリが、次の瞬間には巨大なカシの木になっていなければいけない。でもそんな生き急いだっていいことはないよね。

僕たちが長い時間をかけてカルチャーを成熟させたように、若手を見守りつつ、正しい道を示し続けていく使命があると思うよ。

荒波の中で育つ新世代と、一緒に業界を盛り上げる使命

クリス

昔は自由にできたことが、今は難しい時代に差し掛かっている。次世代の子たちはそんな上り坂に臨まなければならない、苦難が待ち構えていると思う。でも、それに太刀打ちする方法を見出している子たちが徐々に出てきている気がする。

そんな時代に僕ができることは、セレクトショップのオーナーとして、新しい波を生む才能をキャッチして正しく世に送り出すこと。それから僕らが最近力を入れているオリジナルブランドの代表として、みんなをワクワクさせるスタイルを作り上げること。ブランドオーナーとしては僕も“新世代”だから、緊張感があるよ(笑)。今はその緊張感がいいバランスになっていると感じているんだ。

ブレンドン

これは、世界中のブランドとコミュニケーションを取っているクリスならではの言葉だと思う。新しい試みにワクワクしているんでしょう?

クリス

そうなんだよ、とても興奮している。〈UNION〉と彼ら彼女らが共鳴し、面白い波が生まれる予感さ。でもその一方で、まだまだ心の準備ができていないところもある。あまりにも世代が違うからね。だからこそ、従来の枠を押し広げようと努力する人たちを、もっともっと見出していきたい。これがバイヤーとして僕ができる、今のTO DOだと考えているよ。

ブレンドン

僕は、若者たちがサブカルチャーを体験できる環境を残していきたいと思っている。アイデンティティはフィジカルな場所にこそ宿っているから。〈NOAH〉がそんな存在になってくれたら嬉しいし、大切にしていきたい。あとは、流行や宣伝に惑わされず自分にとって必要なモノ・コトを見極める力を身につけてほしい。服やモノを大切にすることで消費が減り、結果的に地球を守ることに繋がる。長くシーンを見てきた僕たちが先導して、発信していきたいよね。

〈NOAH〉ファウンダーのブレンドン・バベンジン、〈UNION〉クリエイティブディレクターのクリス・ギブス
両者のショップが並ぶ大阪・堀江のオレンジストリートにて。左から〈NOAH〉のブレンドンと妻エステル、〈UNION〉のクリスと妻ベス。共に夫婦で共同経営者という共通点も。

ブレンドン・バベンジンの次を生み出す仕事術

1:決まったプロセスこそ、時には壊してみる。

2:行き詰まったときの苛立ちは前向きに受け止める。

3:ランニングをすると良いアイデアが降ってくる。

4:特別な思いを抱いたらフィーリングを信じてみる。

5:クリエイティブのレンズを通して常に物事を見る。

クリス・ギブスの次を生み出す仕事術

1:オーナーになっても現場に足を運び続ける。

2:「買わない理由」がないか客観視する。

3:アイデアが浮かぶのを焦らず待ってみる。

4:直感を養うために多角的な目線を持つ。

5:新たな才能を世界中から見出し続ける。