燕三条駅からクルマを走らせることおよそ20分。のどかな田園風景を横目に大きな鳥居をくぐり、霊峰・弥彦山の麓へ。右手に見えてくるコンクリート壁のひときわ瀟洒(しょうしゃ)な建物が〈マッシュルーム〉だ。
隣接するお土産店〈おもてなし広場〉の牧歌的な雰囲気が、同店が観光地のど真ん中にあることを意識させる。オーナーの土田鏡(あきら)さんとショップマネージャーの土田悠さんの兄弟が出迎えてくれた。
「2020年にここへ移転しました。それまでは県の中心部でしたが、年齢を重ねるごとに故郷の良さに気づいたのです。特に弥彦村は(弥彦)山から良い“気”をいただいているように感じたのと、観光地として知名度も上がってきていたので“移転したい”と、周囲にはずっと言っていました。スタッフには事前に伝えて了承を得ていましたが、移転したことでクルマで1時間以上もかけて通うことになったスタッフもいて。みんなには感謝しています」
75m2ある広々とした店内には、ヴィンテージデニムを中心に、ミリタリーウェアやアウトドア、シャツ&Tシャツ類がギャラリーのように整然と並ぶ。ヴィンテージの雄である〈リーバイス®〉501XXのデッドストックを筆頭に、20世紀初頭のワークウェアまで、博物館級のアイテムを惜しげもなく展示している。
圧巻のヴィンテージコレクションに見惚れていると「最近はレギュラーのシャツも人気ですよ」と、悠さん。なるほど、〈ラルフ ローレン〉や〈ブルックス ブラザーズ〉などのオーセンティックなブランドのシャツも幅広くセレクト。高い商品力はヴィンテージだけではないのだ。
2人は商売人の家に生まれ、商売をするなら好きなことでないと続かないと思い古着の世界へ飛び込んだ。
「地元の古着屋さんで店頭販売などの経験を積み、2年で独立しました。色々と経験し、結果的に商売になるのはヴィンテージだということに気づき、現在の商品構成にしました」
古着業界では“〈マッシュルーム〉=良質なヴィンテージが揃う”というイメージだが、アメリカではもう古着は見つからないといわれて久しい。だが、鏡さんは取り合わない。
「まだまだありますよ。例えば〈リーバイス®〉501XXはけっこう見つかるんです。なぜかというと人気があり価値が高いから。逆に40年代よりも古い年代になると、物があっても市場価値がわからないから注目されないだけで。古着はあります」
好きなことを仕事にすると決心し古着屋になって20年。鏡さんの仕事への原動力はずっと変わらない。
「大好きな古着にずっと囲まれて、しかも一時的ではありますが、実際に自分の手元に届くわけですから。嬉しいですし励みになります」
生粋の古着ラバーとして、鏡さんは今後、古着の魅力を今とは違った角度から広めていきたいという。
「古着が好きな人って、良くも悪くも“価値”が好きじゃないですか。でも価値ばかり考えてしまうと、古着に対する純粋な気持ちが持てなくなりそうで怖いんです。だからこれからは経営者としてもイチ古着好きとしても古着そのものの魅力で心が動かされるように、古着と向き合っていきたいです。古着を初めて買った時の純粋な気持ちは、ずっと持ち続けていきたいです」
買い物のあとに、古着メシ
※紹介した古着の多くは一点物で、品切れの場合があります。価格等の情報は取材時のもので、変更になる場合があります。