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平松 麻が綴る、日用品「地下室のネズミという名の燭台の話」

Illustration: Mai Beppu / Edit: Masae Wako

地下室のネズミ
という名の燭台の話。

食卓には燭台がなくちゃならない。

人生におけるワースト5に入るくらい、料理を冷ますことが嫌いなわたしには、とにかく蝋燭が欠かせない。食事のそばで炎がメラリと揺れていれば、温かさがえんえんと続く気がする。フランス、ジュラ県のブドウ畑に囲まれた小さな村、シャトー・シャロンから持ち帰った燭台は、もう食卓と合体しているほどになった。

ヴァン・ジョーヌ(黄色いワイン)で名高いその村では、どの家にも同じ燭台が置いてあった。飴色になった木の台から鉄板がくるくる螺旋状に巻き上げられた定番のかたちらしい。螺旋の溝をつたってつまみを回し上げれば、短くなった蝋燭が押し上げられるという完璧な実用性で、貫禄たっぷりの出で立ち。

「地下室のネズミ」という名で親しまれるゆえんは、尻尾みたいにひゅるりと伸びる突起と、灯る炎がワイン貯蔵庫の暗がりの中でチョロつくネズミの眼に見えるから。「別名、税務官の光る眼とも言うんだよ」と教えてもらうと、近くにいた女性が「アラ知らなかった」とフランス語で多分そう言った。

燭台を作業部屋に運んで火を灯してみたら危ういことになった。蝋燭はしずしず芯を燃すのみで音もしないから、つい存在を忘れてしまう。周りは油絵や紙でいっぱいなのに。油絵具が染み込んだ作業着が炎すれすれを幾度もかすめる。結局慌てて炎を吹き消し、燭台をモチーフにしてひとまずスケッチをした。

螺旋を線で追えば、かつての鍛冶職人の手がぼんやり霞むかしらと期待した。描き終えたら燭台を食卓に戻しに行き、そのまま夕食の支度を始めた。