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江口のりこが綴る、日用品「20代のとき友人にもらったヒョウ柄のアイロン台」

Illustration: Mai Beppu / Edit: Masae Wako

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20代のとき友人にもらった
ヒョウ柄のアイロン台。

私には加奈恵ちゃんという友人がいます。お互い19歳のときに地方から上京してきて住み込みで働いた職場で知り合いました。

私たちのアパートは四畳半しかなく、布団とテレビとラジオを置くだけでしたが、加奈恵ちゃんの部屋には冷蔵庫やコタツ、クッションなどがあり、たとえ小さくても生活を充実させようとする女性らしさに溢れていました。私は何もない自分の部屋が気に入っていた。

そこでの暮らしも1年が過ぎ、お互い職場を離れることに。私は新宿のさらに小さい3畳一間のアパートへ引っ越した。相変わらずの何もない生活が何年も続くなか、加奈恵ちゃんの方は大学入学、卒業、就職をしていた。

ある夜、加奈恵ちゃんから「不審者に後をつけられている」と電話があった。今思えばすぐに駆けつけてあげればよかったのに、私は「まずは石を拾って。そいつが襲ってきたら鼻の下めがけて殴ったらいい」とアドバイスをして電話を切った。できるわけないのに……。今でも胸が痛くなる。ちなみに私のアパートに幽霊が出たとき、加奈恵ちゃんは次の日すぐに泊まりに来てくれました。

そんな加奈恵ちゃんが結婚することになった。引っ越し作業を手伝うことになった私は、当時住んでいた中野坂上から学芸大学まで自転車を漕ぎながら「要らない物をもらおう」と決めていた。そこでもらったのがヒョウ柄のアイロン台。

アイロン台なんかなくたって生きていけると思ったけど、使ってみたら気持ちが良かった。あった方がいい!加奈恵ちゃんは少し豊かになることをいつも私に教えてくれます。たまにしか使わないアイロン台ですが、立派な愛用品です。

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