“昭和っぽい”の中に宿る
文化継承の素晴らしさ
日本のもの作りはスゴイといわれるが、こと日用品においては日常に溶け込みすぎて、その魅力を見過ごしているものも多いだろう。ならば外国人の目で改めて身近な日用品のポテンシャルを再検証してみよう。日本カルチャーに精通し、日本をこよなく愛するアメリカ人、文化史執筆業のデーヴィッド・マークスさんと「ニッポンのいい生活道具」を探してみた。
やってきたのは東京・豊洲にある大型ホームセンター。あまりの品数の多さに日本人でも右往左往してしまうが、デーヴィッドさんの足取りに迷いはない(初来店なのに!)。入店して一直線に向かったのはカイロ売り場。20種類以上はある商品の中で即決で手に取ったのが爪先に貼るタイプのものだ。
「アメリカにもカイロはありますが、爪先専用は日本で初めて知りました。粘着力も素晴らしくて冬の必需品。かゆいところに手が届く商品作りは日本ならではで、感心します」
次に手に取ったのは棕梠のほうき。
「“昭和っぽい”感じが好きなんです。今は世界中どこを旅しても昔ながらの雰囲気を残した場所やモノがとても少ない。チェーンの飲食店が増えて、どこの国に行っても同じでしょ。でも日本には昔ながらの喫茶店や定食屋、銭湯とかオーセンティックな店が残ってる。クラシカルなほうきとかヒノキの風呂桶とか、古き良き日本の生活様式や文化を感じられるアイテムが身近な店で安く買えるなんて最高ですよね」
日本在住歴17年。日本の大学院で日本文化を研究していたデーヴィッドさん。今や“レトロかわいい”的な文脈で使われがちな“昭和っぽい感じ”の本質を、日本人以上に的確に捉え、大切にしている。
「すごく楽しいね」と、特にじっくりと見ていたのが文具コーナー。「日本はクリアファイル天国ですよ。こんなにカラフルな品揃えは信じられない!タスクによって色分けするとか、日本人の真面目で几帳面な生活が表れているんでしょう。
シールなんて色も形も種類が膨大で、僕はこれが大好き。本の背表紙に貼るんですけど、読んだ本には青、途中のものには赤を貼って読み終わったら剥がす。こういう整理法を思いついたのも日本の文房具のおかげです」
その後も台所用品、消耗品、ガーデニング用品やDIY用品コーナーなどを足早に回りつつ、リズムよくカゴに商品を入れていく。
「日本のホームセンターがすごいなと思うのは、同じ目的で使う商品でもその選択肢の幅が広いこと。例えば急須に入れて使う茶こしは内径に合わせて1㎜単位で展開されてます。自分が持っているモノにフィットしないということが起こらないのは本当にありがたいことです」
それは香りの面でも感じている。
「蚊取り線香なら定番の香りからラベンダーやシトラスなどナチュラルな香りのものもある。あと“無臭”という文化も日本に来て驚いたことの一つです。アメリカでは防虫剤や柔軟剤には強い香りがついていてそれがすごく苦手だったので、無臭の商品を見つけたときは心からうれしい!と思いましたね。きっと日本のメーカーが使う人のライフスタイルや趣味嗜好を考え抜いて商品開発をしてきた結果なのでしょう。そういう心配りに胸を打たれます」
ニッポンのいいものには
作り手の魂がこもっている
2軒目は料理好きのデーヴィッドさんのたっての希望で、浅草のかっぱ橋道具街へ。店主自ら実験を重ねて開発するオリジナル調理道具が人気の〈飯田屋〉では、店主の飯田結太さんと話し込んでいる。
「オムレツが大好物なんですけど、なかなか理想に近づけなくて。どんなフライパンを使ったら、上手なオムレツを作れますか?」と質問。
飯田さんによると、卵料理のおいしさを分けるのはフライパンの熱伝導だそう。一気に熱が伝わる銅製なら卵が硬くならず、ふわとろのオムレツが作れますよと銅、鉄、ステンレス製など、さまざまな素材のフライパンを見せつつ、これまで重ねてきた調理実験の感想を交えながら詳しく解説してくれた。
「飯田さんは100種類以上のフライパンを使って熱伝導の実験をしていると聞いて驚きました。使う人のニーズに合わせて的確に商品を提案できるのは、熱心な研究があるからこそです。デイリーに使うものだからこそ徹底的に使い心地や耐久性を検証しもの作りをする姿勢は素晴らしいですし、まさに職人ですね」
同じく飯田さんがあらゆる角度を試して、一番切れ味がいいと確信して作ったピーラーも気になる様子。
「全幅の信頼を寄せられる調理道具があるというのは心強いですね。僕は着るものであれ日用品であれ、長く愛着を持って使いたいと思っているので、納得して使えるものが見つかる店はとても大切なんです」
目当てのものをあらかた手に入れ帰路に就いている途中、デーヴィッドさんの携帯に奥様から入電が。味噌汁用の鍋が欲しいというリクエストを受けて、急遽〈東京厨房〉に立ち寄ることになった。店主に聞くと味噌汁はどんな鍋でも問題ないよとのことで、今回は昭和のおっかさんが使っていたようなゴールドのアルミ製。アルマイト加工が施された両手鍋をセレクトした。
目当てのものをあらかた手に入れ帰路に就いている途中、デーヴィッドさんの携帯に奥様から入電が。味噌汁用の鍋が欲しいというリクエストを受けて、急遽〈東京厨房〉に立ち寄ることになった。店主に聞くと味噌汁はどんな鍋でも問題ないよとのことで、今回は昭和のおっかさんが使っていたようなゴールドのアルミ製。アルマイト加工が施された両手鍋をセレクトした。
「今回の買い物で改めて感じたのは、日本の製造者の関心のレベルがものすごく高いことです。例えば飯田屋さんでは“ピーラーはどの角度が一番効率的で切れ味がいいのか?”
“どんな料理にどの素材のフライパンを使うと一番おいしいか?”のような実験を繰り返して製品を作ったり、販売していました。
そうした研究熱心さと努力、使い手を思う気持ちがあるからこそ最高の品揃えができるわけで、それはほかの販売店やメーカーにもいえるでしょう。日本の“いいもの”を支えているのは、そうした作り手の魂なんだと思います」
デーヴィッドさんが選んだ
“いいもの”16選
デーヴィッドさんが3軒のお店で選んだのは、オーセンティックなものから、クスッと笑えるものまで16品。日用品の見方が変わる、新たな魅力を語ってもらった。