東京・恵比寿にある〈東京都写真美術館〉とその周辺で、毎年この時期に開催されているイベント『恵比寿映像祭』が今年も始まった。今年のテーマは「月へ行く30の方法」だ。もちろん本当に月に行く方法を提示しているわけではないことくらいお分かりだろう。月へ行くことは夢物語ではなくなったが、身近な題材から想像力とユーモアで、既存の価値観をひっくり返したり、不可能を可能にしたり、新たな気付きをもたらすアーティストたちの挑戦を紹介している。

展示空間では、歴史的な作品から現代まで、写真や映像を主とした様々なアーティストたちの試みが、まるで星空のようにちりばめられている。特に決められたルートはないので、自由に気の向くまま作品を眺めていけばいいのだが、時代も国もまったく違う作家の作品が、共通のモチーフやイメージで繋がったり、全然違うタイプなのに通底するメッセージは同じだったり。だんだんと錬金術のように、予想もしない化学反応が起こり始める。

また、今回展示する作家たちの生い立ちや文化的・社会的背景を気にしながら再度作品を見直すと、一回見た作品もまったく見え方が変わる。ジェンダーやマイノリティ、人間中心主義、植民地支配、人種問題、権力構造……、今も昔も世界のあちこちの社会で起きている問題に対し、アーティストたちが様々な方法で挑戦し続けているのがよくわかる。

会期中は展示会場でのパフォーマンス、トーク、ディスカッション、ワークショップ等様々なプログラムを開催。観客も参加し、対話と思考を積み重ねる場となる。上映プログラム、地域連携プログラムも多数予定されている。