北海道の道南に位置する八雲町。この地域は、日本における木彫り熊の発祥地として知られている。実はルーツはスイスにあるのだが、今年はこの地に木彫り熊が誕生してからちょうど100年目に当たる記念すべき年だそう。

スイスの熊にアレンジを加えた“毛彫り”に始まり、後にその毛を彫らずに面だけで熊を表現した八雲独自のスタイル“面彫り”が誕生。さらにそれをアレンジして“ハツリ彫り”というオリジナルの作風を確立させたのが、八雲を代表するレジェンド作家の柴崎重行だ。

前置きが長くなったが、その柴崎の作品を写真家の田邊剛が美しい写真で切り取り、編集者の松本有加が『PENKERU』というタイトルで一冊の作品集としてまとめた。その発売を記念して、東京でイベントが行われるという。

『PENKERU』柴崎重行作品集 8,800円(問い合わせ先:kodamado)。写真:田邊剛、編集:松本有加。

柴崎は単なる民芸品ではなく、アートとしての木彫り熊を追求し、人里離れた山林「ペンケル」で生活をし、木々に囲まれたアトリエで黙々と熊を彫り続けた人。

その作品は、重厚な木の質感と繊細な彫り込みで、見る者に自然の生命力を感じさせるだけでなく、熊という動物の威厳と愛らしさが共存した作品に仕上がっている。“抽象熊”などと呼ばれ、アート的な評価が高まり、国内外を問わず人気だ。

『PENKERU』は、八雲町民である千田健悦が長年にわたり熱心に蒐集してきた、貴重な柴崎作品で構成されている。千田は柴崎の作品の深い理解者であり、1974年に発足した「柴崎木彫鑑賞会」のメンバーとして柴崎の作品を継続的に蒐集し、その価値を世に広めてきた。

ページをめくれば、柴崎が長きにわたり磨き上げてきた彫刻の技術の変遷を辿ることができる。柴崎重行という作家の歴史を振り返るのに必要十分な作品を収めた一冊なのだ。

東京・代々木の〈寄/Vektor shop®〉内のGarage Galleryで行われるイベントでは、柴崎重行の木彫り熊作品が非売展示されるほか、未公開カットも含めた写真展示、さらには八雲町特産のホタテを使った軽食の販売なども行います。八雲の歴史と木彫り熊文化、そして柴崎重行という作家の奥深い世界に触れる絶好の機会となっている。

また、〈kodamado〉を中心に〈喫茶ホーラク〉など、八雲町のみで販売される予定だったこの本を、100部限定で東京のイベント会場でも販売するのでぜひ足を運びたい。