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今、音楽関係者がギャラリーを始めるワケ。改めて考えたい、音楽とアートの自由な関係性

ミュージシャンや音楽関係者が、相次いでギャラリーをローンチしている。サブスク全盛の今、なぜギャラリーをオープンしたのか、その理由と展望を〈JULY TREE〉主宰の忍田彩さんと〈Bankrobber LABO〉をオーガナイズする小松正人さんに聞いてみた。

photo: Naoto Date / text: Katsumi Watanabe

サブスク全盛の今、音楽関係者がアートギャラリーをオープン

ミュージシャンや音楽関係者が、相次いでギャラリーをローンチしている。まずは渋谷・神泉の〈JULY TREE〉。3月のオープニングでは、80年代のロンドンで撮影され、ラバーズ・ロックの名コンピレーション『RELAXIN' WITH LOVERS』シリーズのジャケットを飾った、写真家・石田昌隆のレア作品を展示する『RELAXIN' WITH LOVERS~photographs~』。

さらに5月には〈HMV record shop 渋谷〉内にギャラリースペース〈Bankrobber LABO〉がオープン。LEARNERSなどのミュージシャンとしての活動と並行し、原宿の〈kit gallery〉も主宰する松田“CHABE”岳二がキュレーターとして参加している。

両ギャラリーとも、オープニングから音楽に関連した展示で連日盛況を見せていた。そこで〈JULY TREE〉を主宰する忍田彩さん、〈Bankrobber LABO〉をオーガナイズする小松正人さんに、なぜギャラリーを始めたのか、その理由と展望を聞いてみた。

小松正人

2014年に〈HMV record shop 渋谷〉がオープンした時、坂本慎太郎さんのイラストをプリントしたトートバッグ、フォトグラファーの菊地昇さんが撮影したザ・クラッシュ、映画『ワイルド・スタイル』のメンバーの写真をデザインしたiPhoneケースを作ったり。何かにつけてグッズは作っていたんです。

その後もアニバーサリーのたび、とんだ林蘭さんやNONCHELEEEさんら、音楽に親和性のある方に作品を描いていただいていました。数年前から“もっと音楽とアートをリンクさせる空間があってもいいな”と考えていて。

そんな時にCHABEさんと話していたら、面白がってくれて。来年10周年を迎えるので、リニューアル的な側面を踏まえ、会社内で調整していき、ようやく実現したという感じですね。

忍田彩

ザ・クラッシュのケース、覚えていますよ!ちなみに〈JULY TREE〉のロゴマークは坂本慎太郎さんに描いていただきました。

小松

共通の知人も多く、カブることが多いだろうと思っていて(笑)。

忍田

最初はギャラリーではなく、みんなで共有できる場所を作りたかったんです。私自身はミュージシャン、夫はレコードレーベルに勤務しているので「ライブハウスやレコードショップ以外、なにか音楽を感じることのできるお店がやりたい」と話していました。

改めて、周りを見回してみると、坂本さんやこだま和文さんのように、音楽家の中に絵を描いている方が大勢いる。ぼんやり「ギャラリーがいいな」と模索していたところ、偶然いい物件の空き情報が届き、急遽借りることにして(笑)。

小松

自然な流れだったんですね。

忍田

しかし、実際に展示を作るとなると本当に大変でした。右も左もわからず、DIYで始めましたが、石田さんはじめ、みなさんにサポートしていただきながら、本当にいいオープニングになったと思います。

左:小松正人さん。右:忍田 彩さん
左から、小松正人さん、忍田 彩さん。

もっとアートも身近に

忍田

〈Bankrobber LABO〉は、店舗2階の一番奥、もともとブラックミュージックなどの中古7インチがあったスペースですね?失礼ですが、魔窟感があるというか……。

小松

本当にその通りです(笑)。オープン当時は相当な量を買い付けていたのでちょうどよかった。でもこの10年の間でお客様のニーズも変わったので、中古CDと7インチコーナーを少し整理して〈Bankrobber LABO〉のスペースに充てました。

忍田

レコードバブルに見える昨今、大変なこともあるんですね。

小松

〈HMV record shop 渋谷〉の場合、中古と並行して、新品のシェアも上がってきていて、前年を超えるぐらいリリースされています。

忍田

HMVへ伺うたびに感じますが、大きなレコードジャケットが並んでいるショップは、ある意味ギャラリーみたいなものだと思っているんですよ。

小松

僕もレコードは総合芸術だと思います。ジャケットがあって、音楽がある。逆もまたしかり。

忍田さんが選ぶ名ジャケット3選

小松さんが選ぶ名ジャケット3選

忍田

アートを抜きにして、音楽は語れませんよね。美術館を使った、高尚なエキシビションもいいけど、もっと日常的に、音楽と一緒に見せられたらなと思っているんです。作家の有名無名問わず、カジュアルに作品の展示ができる場所にしたい。

小松

興味があっても、高尚だと、思わず手が出なくなってしまう。

忍田

アートは形而上学的なもので、人の感情を超えたところにあると考えています。音楽はもう少し人の心に親密。かけ離れているように感じるけど、レコードが両者の懸け橋になっていますよね。

小松

『RELAXIN' WITH LOVERS~photographs~』では、写真の下にQRコードが付いていて、スマホで飛ぶと石田さんご自身によるしっかりした作品解説が付いていて。思わず、読み込んでしまいました。館内では大きな音でラバーズがかかっていたし、アートと音楽が一体化されていましたね。

忍田

静かな展示が苦手で(笑)。

小松

今はSNSで拡散するので〈Bankrobber LABO〉でも、作家さんの了承が得られた場合は、撮影OKにしています。

非ギャラリー的な展示会を

忍田

ちなみに石田昌隆さんの作品をシルクスクリーンにして1枚3万円で販売したんです。女子ならわかると思いますが、いいワンピースを一枚買うくらいの値段なんですよね。それくらいのカジュアルさで買えるといいなって思っています。

小松

私の場合は、レア盤1枚分の値段に感じますが(笑)。

忍田

すぐレコード代に換算されますね(笑)。そう考えるとHMVに併設された〈Bankrobber LABO〉は、すごく便利ですよね。

小松

未定ですが、新譜を発表するミュージシャンへ、ポップアップの一環として、キュレーションをお願いする企画をやろうと思っています。

新旧作、関連作のアートワークの展示はもちろん、おすすめのレコードなどを販売して。作品を展示するだけではなく、レコードに即した立体的なことがやりたいと考えています。

忍田

普通のギャラリーでは難しい展開ですね。ミュージシャンの販路を広げていくという意味では、まったく同感です。〈JULY TREE〉は、ギャラリーとしてはインディーズなので、売り上げの立つ展示より、作家さん、お客さん共にリラックスして楽しめるストーリーが提案できる場所にしたいと思っているんです。

小松

ここのところ求められているのは、そういう遊び心なのかもしれませんね。我々が遊んでいた90年代のクラブシーンを振り返ってみると、自由な場所から、新しい音楽や芸術が生まれていることがわかりますから。すごく大事なことだと思います。

JULY TREE

Bankrobber LABO