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〈New Balance〉だけが知っている坂本龍一

東京・清澄白河にある東京都現代美術館で開催中の展覧会『坂本龍一|音を視る 時を聴く』。多彩なコラボレーターによってアップデートされた坂本龍一のインスタレーション作品が一堂に会するこの個展に協賛をしたのは、アスレチックブランドの〈New Balance〉だ。〈New Balance〉と坂本がどのように共鳴してきたのか、その繋がりや関係性を掘り下げたいと思う。

photo: Kazufumi Shimoyashiki / text: Emi Fukushima / special thanks: KAB inc.

坂本にとって生涯の相棒だった〈New Balance〉のシューズ

坂本龍一とかねて深い縁を紡いできた〈New Balance〉。アスレチックブランドとしてのみならず、ファッションやライフスタイル寄りのプロダクト展開にも力を入れ始めていた2003年を起点に、坂本をCMや広告ビジュアルに起用したり、コラボレーションプロダクトを制作したりなど、さまざまな形で取り組みを共にしてきた。

そもそもこうしたプロジェクトが始まる以前から、〈New Balance〉のシューズを愛用していた坂本。出会いは1992年頃、滞在していたイギリス・ロンドンでのこと。わずかな休息時間を利用して散歩に出た折に、小さなセレクトショップのウィンドウ越しに見つけた、鮮やかな黄緑色のバックスキンに、青色の「N」マークが入った〈New Balance〉の一足に一目惚れ。これを購入したことをきっかけに、その履き心地の良さや、足の健康を追求したものづくりをルーツに持つブランド哲学にも惹かれ、あちこちで探すようになったのだという。

New Balance CRAFTS & DESIGN GALLERY
2003年から〈New Balance〉の広告ビジュアルに登場した坂本。特別内覧会では、アザーカットが展示された。

特に1997年頃からは健康に強い関心を寄せるようになり、「立つこと」「丹田」「足」「足裏」が大切であることを知ってからは、“靴はNew Balance” “靴下は5本指ソックス”が坂本の定番に。以来、日常生活はもちろん、取材や撮影、ライブなどの日々のあらゆる局面で足元を支え、生涯で足を通した〈New Balance〉のシューズは100足をゆうに超える。ゆえに、〈New Balance〉と坂本龍一の取り組みは、ある意味必然だったとも言えるだろう。

〈New Balance〉が持つ多様な素材は、坂本の楽曲とともに新たな作品へ

〈New Balance〉のプレス内覧会では、1日限りのブースが設けられ、坂本が出演した広告ビジュアルのアザーカットや、私物である「M1500CBW」「M997 Bison Black」「2002R Mule」の3足が展示された。Made in U.K. と Made in U.S.A. それぞれを代表する名モデルに加え、22年に発売されたミュール型のユニークなモデルが含まれていることからも、彼の“New Balance愛”が垣間見える。

またモニターでは、新たな映像作品も。2003年以降のCM制作の際に撮影された過去アーカイブ映像や素材の中から、主に歩いている動作のみを切り取って作られたもので、今回の展覧会のメインビジュアルやBRUTUSの特集「わたしが知らないの坂本龍一。」の表紙も手がけた3人組のデザイン&アートユニット〈GOO CHOKI PAR(グーチョキパー)〉が制作した。

Movie Director:Mami Kawashima(DRAWING AND MANUAL)
Art Direction:GOO CHOKI PAR
〈GOO CHOKI PAR〉が新たに手がけたニューバランスの映像作品
中央のモニターに映し出されるのが、〈GOO CHOKI PAR〉が今回新たに手がけた映像作品。

映像のBGMに使われているのは「Ngo/bitmix」。2003年に〈New Balance〉のCM用にと坂本が書き下ろしたオリジナル曲「Ngo」のリミックス版だ。「Ngo」というタイトルは、“New Balance GO”の意。制作当時は、ブラジルの稀代な作曲家、アントニオ・カルロス・ジョビンへのトリビュートを込めたボサノバアルバム『CASA』を提げてのワールドツアーを重ねていた時期だったことも影響してか、“大人のボサノバ”を彷彿とさせる洒脱な雰囲気の曲に仕上がっている。

そしてそのオリジナル版を素地に、グリッチノイズを効果的に使ってアレンジしたのが「Ngo/bitmix」。坂本本人はオリジナル版よりもリミックス版を気に入っていたそうで、続く2004年に発売のアルバム『CHASM』にもこのリミックス版が収録された。そして今回、〈New Balance〉を介して次世代のクリエイターの才能とコラボレートすることで、坂本の楽曲は、20年以上の時を経てまた新たな作品へと生まれ変わることとなった。

撮影の裏話からは、坂本のチャーミングな一面も

〈New Balance〉と坂本龍一の繋がりをよく知る5名のスペシャルトークセッション
〈New Balance〉と坂本龍一の繋がりをよく知る5名が登壇してスタートしたスペシャルトークセッション。

さらに当日は、スペシャルトークセッションも開催された。登壇したのは、坂本が出演した広告写真を撮影した写真家の田島一成さん、前述の映像作品を手がけた〈GOO CHOKI PAR〉から浅葉球さん、飯高健人さん、石井伶さん、そしてニューバランスジャパン代表取締役社長の久保田伸一さんだ。編集者の伊藤総研さんによるファシリテートのもと、まず話題はニューヨークで行われた広告撮影について。田島さんからは意外な裏話が飛び出した。

「写真でも映像でも、我々スタッフはいつも、カッコいい坂本さんをカメラに収めようと試みていました。でも、だいたい坂本さんは途中でふざけ出すんですよね。おどけて変な顔をしたり、突然コマネチや、林家三平の“どうもすいません”のポーズをしたり(笑)。毎回なだめながら、なんとかシンプルでクールな坂本さんを狙おうと苦戦していたことを覚えています」(田島)

写真家の田島一成
写真家の田島一成さん。
坂本龍一のポストカード
今回の個展では、坂本が出演した〈New Balance〉広告写真のアザーカット8種類が、ポストカードとして販売されている。〇〇〇〇円。

こうして撮影された素材は、今回〈GOO CHOKI PAR〉が手がけた新しい映像作品にも活用されている。続いては、今回のコラボレーションの始まりについて。久保田社長はこう話す。

「今回の個展に協賛するに当たって坂本さんの所属事務所の方に、面白いアーティストがいるから何か一緒に取り組みをしてみてはどうか、と紹介いただいたのが〈GOO CHOKI PAR〉さんでした。作品をいくつか見させていただいて、率直に面白いなと。私たちには、坂本さんとの取り組みの中でアーカイブしてきた映像や素材が数多く残っていたので、それらを新しく生まれ変わらせてもらえたらという期待を込めて、作品の制作をお願いしました」(久保田)

対して〈GOO CHOKI PAR〉の飯高さんは、依頼を受けた時のことを「ガッツポーズをするくらい嬉しかった」と振り返る。ただその半面、どのようなアプローチにするかを、非常に悩んだのだ、とも。

デザイン&アートユニット〈GOO CHOKI PAR(グーチョキパー)〉左から、浅葉球、飯高健人、石井伶
デザイン&アートユニット〈GOO CHOKI PAR(グーチョキパー)〉。左から、浅葉球さん、飯高健人さん、石井伶さん。

「過去の素材をすべて自由に使っていいということで、3人で頭を捻りました。坂本さんは亡くなったけれど、作品はこれからも残っていく。どこか前向きなものを作りたいという思いがあり、歩いている動作を切り取って表現してみようと着地しました。結果的に出来上がった映像を見てみると、不思議なことに、最後まで作り続けなさい、考え続けなさいと坂本さんに伝えられているようにも感じるんですよね。自分たちで作っておきながら、どこかものづくりに携わる自分たちも襟を正されるような作品になりました」(飯高)

この映像作品について久保田社長は、「カッコいいのはもちろん、想像以上にブランドの哲学とフィットするものになった」とのこと。

ニューバランスジャパン代表取締役社長の久保田伸一さん
ニューバランスジャパン代表取締役社長の久保田伸一さん。

「やはり良いものはずっと残っていくし、何年経っても良いものは良い。今回の作品のように、もともとあったものづくりに新しいエッセンスを加えながら次世代が継いでいくのは、“Classic is New”を掲げてきた私たちのものづくりとも共鳴します。今年はブランドとしても、クラフトマンシップを改めて見直そうという節目のタイミングに、このような取り組みができてよかったです」(久保田)

こうしてトークセッションはお開きに。坂本龍一と〈New Balance〉のさまざまな形でのコラボレーションに触れることができたこの日。坂本を起点に結ばれたさまざまな縁が、未来の新しいものづくりへと繋がっていく兆しを垣間見ることができた。

さらに、坂本が繋いだこの縁から、〈GOO CHOKI PAR〉による『Running Shapes』をテーマにした新しいアート作品が〈New Balance原宿〉にて展示中。こちらにも、ぜひ一度訪れてみてほしい。

New Balance原宿店の内観