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夏子の部屋 ゲスト:吉田ユニ 圧倒的なクリエイションを自分らしく生み出すには?

夜な夜な世界中から様々な分野の著名人が訪れる、1日1組の完全紹介制フレンチレストラン〈été〉。オーナーシェフの庄司夏子さんは、女性がマイノリティと言われる料理業界において24歳で独立開業し、2022年にはアジアの最優秀女性シェフ賞にも選ばれた。彼女がシンパシーを感じ、会いたいと思う人に会いに行くこの連載。第6回のゲストは、韓国の演劇『マクベス』のためのポスターが世界三大広告賞の一つであるClio AwardsのClio entertainmentで受賞した吉田ユニさん。それぞれ異なる分野の第一線で活躍する二人がクリエイションの源について語った。

photo: Yu Inohara / text: Rio Hirai

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日常で目にしたものが作品に

吉田ユニと庄司夏子のポートレート
吉田ユニさんのアトリエの本棚の前で。

庄司夏子

私は自分のクリエイションのために、日頃からアートや広告デザインなど様々な作品を見ているのですが、コスメブランドのエテュセや、渡辺直美さんがプロデュースするファッションブランドのPUNYUSなど、ビジュアルが気になってチェックしてみるとアートディレクションを吉田ユニさんが手掛けていることが多くって。

「なんて素敵な作品を作る人なんだ!」と感銘を受けて、思わずSNSでダイレクトメッセージを送って、会いに行ったんです。

吉田ユニ

嬉しかったです。私も〈été〉のシグニチャーのケーキを見たことがあって。美しいのはもちろん、ちゃんと美味しそうに作られていて素敵だなと思っていたんです。

お会いしたときには、ちょうどそのとき控えていた韓国での個展のお話やトランプをモチーフにした「PLAYING CARDS」という作品の話をしましたね。

庄司

吉田さんの作品を見ていると、物をどう見るかの視点が他の人とは一線を画していると感じていたんです。作品は何からインスピレーションを受けて生まれているんですか?

吉田

日頃はあまり意識してはいないのですが、日常のものをモチーフにしていることが多いので、日常生活から自然とインスピレーションを受けているのだと思います。

事務所と家の往復の日々なので、あまり意識して何かをインプットして……ということもなくって。お仕事の依頼を受けて、対象と向き合って、日常で目にしているものと結びつけているのかもしれません。

庄司

作品のために、積極的に何かをインプットするということもないんですか。

吉田

そうですね。例えば映画でも仕事と関係ないものばかり見ています。サスペンスホラー映画やマフィア映画が好きで。庄司さんは、何からインスピレーションを得ているんですか。

庄司

私の場合は、料理とは遠いものから刺激を受けて、食に落とし込む、という作業です。だから、仕事と関係ないものばかり摂取しているという点では似ているかもしれません。

まずはクライアントをよく知ること

吉田ユニのポートレート

吉田

私の仕事はクライアントありきなものが多いので、クライアントや見てくれる人に喜んでもらえるものであり、「自分がやった方が良いもの」にはしたいなと思うんですよ。庄司さんもそのバランスに気を配っていらっしゃるのかなと思ったんですけれど、そこはどうですか。

庄司

私もお客様に提供する料理を作る際には、独りよがりにならないように気をつけていますね。自分のアイコニックな料理を出すだけではなくて、クライアントが大切にしているものを落とし込みたい。だから、お客様の出身国の食文化を調べるなど、リサーチをしているんです。

吉田

そうだったんですね。私もクライアントのカラーを崩すことのないように、コミュニケーションをとって相手を知るというのは大切にしています。その会社やブランドがどうなっていきたいのか、何を伝えたいのか、きちんと理解した上で作りたいと思うんです。

庄司

ラフォーレミュージアム原宿で展示した作品「PLAYING CARDS」は、自分でコンセプトを立てたんですか?

吉田

そう、元々トランプが好きで、ずっとトランプをモチーフに作品を作りたいという思いはあったんですけれど、いざ作るとなると54枚の絵柄を作らないといけなくて。トランプの絵柄をそのままの位置で作品に収めたかったので「コラージュは禁止」というルールを課して、自分で自分に縛られたような生みの苦しみを体験しました。

庄司

そのアイデアを思いついて実行する、脳の使い方が気になっていました。

自分のアイデアを超えていく

吉田ユニ PLAYING CARDS
吉田さんが手がけた作品「PLAYING CARDS」。トランプの絵柄が、お菓子や果物、文房具などの日常的なモチーフによって表現されている。

吉田

私の場合は、アイデアを生み出すときに作り方も一緒に考えます。実現不可能なものはボツ。思いついたときには頭の中で写真としてビジュアルが描かれている。手描きでラフに起こすのが難しいのですが……。でも、その想像そのままだとつまらない。毎回その自分のイメージしたものをさらに超えていくように作りたいと思っているんです。

庄司

自分のイメージを自分で裏切っていかないといけないんですね。

吉田

撮影にはいろいろな人が関わってくれるので、自分だけの力ではなく、みんなの力で超えていけることがあるんですよ。夏子さんの場合は、ご自身のアイデアを自分の手で形にしていっているんでしょうか。

庄司

基本的には、そうですね。これまでは自分のことは自分が一番わかっているから、人の手を使うことをあまり意識してこなかったのですが、いかんせん飲食業界は人手不足でして。いつからか、次の世代の人材を育てることも考えるようになりました。

母校である駒場学園高等学校や小学校で講師をさせていただいたり、遠回りかもしれないけれど、業界的な意義を感じて子供たちと向き合っていますね。高校では、持続可能な食の未来についてや、私が授業で教わることのなかった開業のためのお金の話など、様々なことをお話ししています。「女性だから」という理由で開業資金を借りられなかったり、いろいろあったんですよ。

泥団子を作り続けたその先に

庄司夏子のポートレート

吉田

そうだったんですね。広告業界も、まだまだ男性が多いんですよね。美術大学は女性の方が多いのに。

庄司

そうなんですね。調理系の学校の生徒も女性の方が多いのに、飲食業界は女性の離脱率がとても高いんです。海外では、稼いでいる女性シェフは家庭のことは家政婦にお願いして……、という人もたくさんいらっしゃると思うんですけれど。日本はまだその文化は根付いていないですよね。吉田さんは、どうやったら「第二の吉田ユニ」が生まれると思いますか。

吉田

逆に教えてほしいくらいです(笑)。でも昔から、集中力は高かったかもしれないですね。幼少期、泥団子作りにハマったら、休み時間が終わっても一人でずっとひとりの世界で泥団子を作り続けていたような子どもだったんです。

庄司

泥団子の話、すごくよくわかります。決められた時間の中だけでしかやれない人と、時間に制限なく自分の鍛錬を突き詰められる人を比べたら、後者が圧倒的に早くゴールに辿り着くと思うんですよね。それは、どの業界でも共通しているのだと思いました。吉田さんがひたすら泥団子を作り続けていたその延長に、今の唯一無二のクリエイションがあるのかもしれませんね。

吉田ユニと庄司夏子のポートレート

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