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夏子の部屋 ゲスト:スカイスクレイパー代表・西牧大輔、新社長・諸沢莉乃 経営者の必要条件って何ですか?

夜な夜な世界中から様々な分野の著名人が訪れる、1日1組の完全紹介制フレンチレストラン〈été〉。オーナーシェフの庄司夏子さんは、女性がマイノリティと言われる料理業界において24歳で独立開業し、2022年にはアジアの最優秀女性シェフ賞にも選ばれた。彼女がシンパシーを感じ、会いたいと思う人に会いに行くこの連載。第5回のゲストは、今年5月に〈CoCo壱番屋〉を営業するスカイスクレイパーの社長を引退した西牧大輔代表取締役と、そのバトンを引き継いだ諸沢莉乃さん。庄司さんは、22歳で社長の座に就いた諸沢さんと彼女を抜擢した西牧さんに、経営者としての条件を伺いたいようです。

photo: Yu Inohara / text: Rio Hirai

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テーブルで食事をする庄司夏子、西牧大輔、諸沢莉乃

社長に経営資質は必要ない

笑顔の諸沢莉乃
諸沢莉乃さんは、15歳のときにアルバイトとしてスカイスクレイパーがフランチャイズ経営する〈CoCo壱番屋〉で働き始める。

庄司夏子

18歳くらいの若い女性でも仕事量に応じて、お給料もどんどん上げていくのが〈été〉の経営方針ですが、世間的にはそうした価値観はまだまだ浸透していない。私自身若い女性だからというだけでオーナーシェフということに驚かれたり、「パトロンがいるのではないか」など根拠のない臆測による心ない言葉を受けてきました。

銀行からの融資調達にも苦労しましたしね。そういう意味でも、当時22歳だった諸沢さんがアルバイトからいきなり社長へ抜擢されたニュースは、すごく興味深いと思いました。

西牧大輔

私たちが経営するスカイスクレイパーでは、年齢や性別、キャリアなどにかかわらず、意志がある人にチャンスが巡ってくるようにしています。正直、諸沢は経営者の資質としてはマイナス。「経営者になろう」なんて思ってもいなかったんですから。

しかしそれは、後からなんとでもフォローできることで、彼女は、「この人だったらついていきたい」と思うような信頼できる人間性をもちあわせていたんです。失敗は当たり前で、不満に思いません。

庄司

私も手を動かすことしか学んでこなかったので、店舗経営はさっぱりわかりませんでした。良いものを作れば結果は後からついてくると信じて、現在の1日1組スタイルに落ち着いたんです。自分のやらなければいけない料理に集中するために、財務については専門分野の方をアサインしています。諸沢さんは、西牧さんから社長就任のお声がけがあったときにどう思いました?

諸沢莉乃

私は高校生のときから〈CoCo壱番屋〉でバイトをしていて、西牧代表によく進路相談に乗ってもらっていたんです。「人のために汗をかきたい」という漠然とした目標はずっとあったのですが、どういうキャリアを歩みたいという夢が分からなくって。

そんなタイミングで社長就任のお声がけがあり、「今のフリーターという立場よりも、よりもっと多くの人のために汗をかけるかもしれない」と思って引き受けました。

素直が最強の社長条件

CoCo壱番屋のカリフラワーライスにビーフのルー、カキフライトッピング
庄司さんは、カリフラワーライスにビーフのルー、カキフライをトッピング。

西牧

諸沢は若い分、いい意味で世の中のことを知らない。だからこそ、素直に社長就任を引き受けたんだと思います。彼女の良いところは、失敗を翌日にまで持ち越さないんですよ。失敗した瞬間は落ち込んで泣いたりもするのですが、次の日になったら明るく仕事をする。

こないだも「社長に就任してからの間、私は周囲から注目を浴びて、生意気な人間になっていました」って泣きながら反省していたんですが、次の日には前向きになっていました。

諸沢

丸一日は本当に落ち込むんですけど、現場で働いているスタッフに会うと元気になれるんですよね。みなさんのおかげです。

西牧

そういう意味で、「スカイスクレイパーが好き」「会長の考え方が好き」という思いを持つ人に社長を譲ろうと思っていました。そういう人ならば、現場も困惑しない。会社が苦しくて、思うようにスタッフの給料や休暇が増やせないときでも、人間関係だけはよくしくていけるんですよ。

そして会社とスタッフの最初の人間関係をつくるのは僕。年齢や学歴ではなく挨拶や礼儀などの方がよっぽど大切で、それがきちんとできる諸沢が、社長に最適だと思ったんです。庄司さんは、チームでの人間関係で何か意識していますか?

庄司

私とスタッフの心理的な距離を近づけすぎないようにしています。近づきすぎて友達のようになるのではなく、緊張感のある関係でいたい。ですので、仕事の打ち上げの席もなるべく離れるようにしています。ただ料理の面においては遠慮しないでほしいと思うので、難しいところですね。

諸沢

私は今年の4月までアルバイトでした。それが急に社長になったので、現場のスタッフとの距離感に悩んでいるところです。これまで仲良く接していたアルバイト仲間とどう接しようか……。

西牧

僕が諸沢によく話すのは、「楽しむ側でなく、楽しませる側になれ」ということ。スタッフが「楽しんでいるかな」と顔色を窺いながら、管理する側になってほしいです。

庄司

「自分が抜擢された強み」を、分かりやすく示すのも大切。アルバイト仲間の方々の中に、どこか置いてかれたような気持ちが少なからずあると思うんですよ。そこで自身の強みを見せて、憧れの対象になることは会社にとっても健全だと思います。

西牧

経営者は労働基準法の範囲外なんで、「残業」という概念がない。つまり365日、24時間会社のために頭を動かしているような状態なんですよ。「諸沢があんなに働いているんだから」と思われるくらいの仕事量をこなせば、誰もが嫉妬せずに納得いくのかと。稼ぎに責任はつきものです。

諸沢

私の強みは素直なことだと思います。最初は分からなかったことでも、素直に受け入れれば数年後に立場が変わって分かることがあると、働く中で実感しました。社長という立場になってから特に、素直な人の成長のスピードには驚かされます。

庄司

素直は最強。組織として活動するならば、基本的な人間性が重要だということがよく分かりました。これからの世代の憧れの対象になれるよう、もっと精進していきたいですね。

カウンターに座る庄司夏子、西牧大輔、諸沢莉乃
西牧代表のスタッフ育成の指針は「応援すること」。

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