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夏子の部屋 ゲスト:鈴木おさむ 老害にならないためには、どうしたらいいですか?

夜な夜な世界中から様々な分野の著名人が訪れる、1日1組の完全紹介制フレンチレストラン〈été〉。オーナーシェフの庄司夏子さんは、女性がマイノリティと言われる料理業界において24歳で独立開業し、2022年にはアジアの最優秀女性シェフ賞にも選ばれた。彼女がシンパシーを感じ、会いたいと思う人に会いに行くこの連載。第四回のゲストは、今年3月に放送作家を引退した鈴木おさむさん。日頃から飲み友達という二人だが、改めて庄司さんが気になっていることがあるそうで、鈴木さんの事務所を訪ねた。

photo: Shinpei Suzuki / text: Rio Hirai

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鈴木おさむと庄司夏子

ソフト老害でも、誰かを幸せにできるし結果も出せる

鈴木おさむさんが時間をかけて集めたアートの前で。

庄司夏子

私、(鈴木)おさむさんが、メディアで引退の話をするときに「自分がソフト老害になってきているんじゃないか」とおっしゃっていたのが、すごく気になっていて。若い頃は年長者や上司が叱ってくれたり教えてくれたりするけれど、仕事をあるレベルまで突き詰めていくと、注意してくれる人がいなくなるじゃないですか。

お店の代表をやっている身としても、裸の王様にならないようにしなくちゃと思うんです。どうしたら、ソフト老害にならないで済むんですかね。

鈴木おさむ

僕はソフト老害で良いと思っているんですよ。ある程度結果を出した人しかパワーを発揮できる老害にはなれないわけだから、そういう人って嫉妬もされるんです。人って、何かで結果を出すと注目を浴びるでしょ。

僕は一番嬉しくてこわいことって、その“ブーム”だと思っていて。ブームから定番になるのは難しくて、どんな人でも定番になっていく過程で「終わった」とか「勢いがなくなった」と揶揄されて、下から若い人もどんどん出てきて焦ってより頑張るんだけど、それが若い人からしたらうざがられる。

それでもわがままでいたって良いのに、自分自身も若い人が苦労している過程を知っているからこそ、意外とそうわがままにもなれないという。あとは、数字に対して敏感になることは大切だと思いますね。自分の売り上げに対して臆病でいられれば大丈夫だと思う。一流の人って、たとえそう見せていなかったとしてもちゃんと臆病ですよ。

庄司

ソフト老害でいても良いんですか?あと数字に臆病になるのがどうして裸の王様にならないことに繋がるのか、もう少し聞いてみたいです。

鈴木

本当にパワーで封じ込める老害は良くないですけれど、ソフト老害だって人を幸せにしたり結果を出せると思うんですよ。ソフト老害でいることで一番タチが悪いのって、「俺、若者の気持ちわかるから」って勘違いしている痛々しさですかね。だから自分自身がもうソフト老害なのだと自分自身が認識できれば、少しは楽になるとは思います。

数字に臆病になるべきだと思うのは、臆病な人は数字が伸びない理由を探って、自分自身に原因がないか考えられるから。自分の売り上げが減っていくのには絶対に何か理由があるじゃないですか。臆病でないと、自分自身に原因があるという可能性にも気がつけない。それに数字を見ていないと、ヒットが出せないですからね。

仕事のフェーズが変わって、成功の価値観も変化した

最初に出会ったのも、バーだったという飲み友達の二人。

庄司

私は自分自身だけでなく、スタッフやスタッフの家族の生活を支えているという意識があるので、数字には敏感にならざるを得ないですね。数々のヒット作を創出してきたおさむさんですが、おさむさんにとって「成功」ってなんですか。

鈴木

僕は、はじめ夏子さんにお会いした頃には「成功=褒められること」だと思っていたんです。「何のために仕事をしているのか」と考えてみると、僕にオファーをしてくれた人を喜ばすためだと考えていた。

だからまずはオファーしてくれた人に褒められたら嬉しいし、どんなに嫌いなやつが相手でも、褒められれば嬉しい(笑)。でも今はそれが変化して、今は「死ぬときに家族が棺の横で泣いてくれること」だと思っています。

庄司

おさむさんのキャリアが変化して、ご家族との時間が増えたからでしょうか。

鈴木

うーん、そうですね。だって日本の夫婦の3分の1が離婚するというでしょう?きっと「離婚しようかな」と考えている人は半分くらいはいるはずですよね。僕の周りでも、50代から一人になって自分のための人生を歩んでいる人が本当に多い。

選択肢が多い時代だからそれでも全然良いんだけれど、だからこそ、最後に自分の棺の横に家族がいて泣いてくれる可能性ってそんなに高くない。その最後が普通だと思っていたけれど、普通なんかじゃなくて、結構幸せなことなんじゃないかと思ったんです。

どんなお金持ちでも成功者でも、やっぱり孤独に死んでいく人って不幸にしか見えないですよ。

庄司

仕事は自分が結果を出せば良いけれど、家族って、自分だけがどうにかしようと思ってもどうにもならないですもんね。私の仕事は、スタッフのおかげでできていることがたくさんあるけれど、自分で料理を作って自分でサービスをしているので自分自身が体調を崩したら終わり。

何かあったときに、スタッフやスタッフの家族、自分の家族はどうなるんだろうということは常に考えています。

鈴木

僕は放送作家を引退してから、「スタートアップファクトリー」というベンチャーキャピタルを立ち上げて、いろいろな人に頭を下げて投資のお願いをしているんですよ。僕は認知度もあって、これまでの僕を知っていてくれていたりして、ありがたいことに本気で応援してくれる人もいるけれど、お願いに行った後に返事がない。なんてことだってある。

結構悔しい思いもしていて、でも52歳にしてこんな気持ちになれるってすごいことですよね。よく「第二の人生」、なんていうけれど、僕はずっと一本道だと思ってるんです。一本の道を、どう生きるかですよ。

庄司

おさむさんでも、今も悔しい思いや苦しい思いをしているんですね。私も、いつも孤独だなと思っています。9割は失敗。それでもやっているときはクリエーションに対する情熱でアドレナリンが出て、目標を達成するまでやり続けられる。

振り返ると苦しかったと思うんですけど、なんとか一本道を歩いている感じです。今日は、ありがとうございました。

初めて会ったときから夏子さんを「一流だ」と思ったという鈴木さん。

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