ゲームクリエイター:〈SQUARE ENIX〉吉田直樹
思い出のゲーム
ペッと吐いた唾のわずか1ドットの描写に、感情を揺さぶられました
ゲーム業界に入ったのちにプレイした『タクティクスオウガ』は、すでにゲーム開発の知識があった作り手の端くれからすると、信じられないものが動いているゲームでした。なかでも衝撃を受けたのが、1ドットに感情が籠もっている演出。後半に差し掛かるあたりで、ホワイトナイトのギルダスが暗黒騎士のマルティムを盾で押しのけるシーンがあるんです。マルティムは後ずさりし、ペッと唾を吐く。
そこには緻密な1ドットの唾が描写されていた。わずか1ドットにこんなに感情を揺さぶられるのか!と震えました。システムの制約はあっても、なんとしてもリアルなシチュエーションを見せたい。そんな開発陣の執念を見せつけられた気がしました。僕は負けず嫌いなので、先人たちに追いつけ追い越せという気持ちでやってきました。
当時も今も、ゲームをプレイ中に驚いたら、どうしてそう思うんだろう、なぜそう感じるんだろうと考えます。同時に裏側では数値がどのように動いてるのか、パラメーターの種類などを読み解いていく。その思考の蓄積が、勝手に脳内の引き出しに収まっていく感じです。ゲーム以外でも同じで、就寝前のクールダウン時に眺める都市伝説や量子力学のYouTube動画も、自然と引き出しに入ります。
開発中にその引き出しがパーンと開くこともあれば、中を覗いて「これ使えるな」とヒントを探すことも。いちばんアイデアが閃(ひらめ)くのは入浴中かもしれないです。スノーボードの帰りに温泉に浸かりながら「1年先のアップデートでいけるぞ!」とか(笑)。
開発の第一歩は、シリーズものかそうでないかで違います。特に『FF』の場合は難しくて、人によって求めるものがバラバラです。グラフィックの精度も上がり、どこまでも追求できてしまう。ですので『XVI』は様々な側面から理詰めで考えました。まず前作を振り返りつつ、物語性を重視。アイコニックな召喚獣はリアルに動くように。多くの世代に届けるため、バトルは完全アクションにした。
この先も続くシリーズだからこそ、可能性を広げておきたかったのです。これが新タイトルとなれば全く違うアプローチの仕方を考えますね。スタッフが盛り上がるかどうかも重要。スタッフ自身もゲーマーとして楽しみたいですからね!
吉田さんの代表作
Special Thanks:©SQUARE ENIX LOGO ILLUSTRATION:©YOSHITAKA AMANO