モーターパラグライダーを操りながら風や光の変化を読み、一瞬の構図を探ってカメラを構える。空撮写真家・山本直洋さんは、ファインダー越しに地球を見つめている。
「14歳の頃、当時住んでいたノルウェー国内を家族で旅行している最中に有名な断崖絶壁・プレーケストーレンに訪れる機会があって。そこに立ち、景色を眺めたときに初めて“地球を感じる”という体験をしたんです。物心ついた頃からほぼ毎晩見ていた空飛ぶ夢と現実がリンクして、将来空を飛ぶことが自分の生き方になると漠然と思いました」
フライト前にまず行うのは、地形図と気象データの読み込み。風や雲の動きを予測して、離陸ポイントを見極めるためだ。撮影機材を整備後、パラグライダーを広げ、プロペラ付きのエンジンを背負う。風のタイミングを見計らって、いざ離陸する。
「空に上がるまでが一番神経を使います。安全かどうか、風を読めているか。そこを間違えると命に関わる」
その言葉の裏には、一度、命を落としかけた事故の記憶がある。2019年、世界七大陸の最高峰すべてを空から撮影する世界初の挑戦「Above the Seven Summits Project」を始動。その第1弾となるアフリカ・キリマンジャロでのフライトに向けてのテスト飛行中、高度2500mの高さでエンジンから出火し、炎が背中と腕に燃え広がった。
「熱すぎて苦しすぎて。燃えて死ぬぐらいなら飛び降りようと、逆さまになってもがいていたら、たまたま火が消えたんです。奇跡でした」
それでも病室の窓から空を見ては「またすぐに飛びたい」と思った。
「ただ、死に対する恐怖心はついてしまって“命を懸ける”なんて、以前のように軽々しくは言えなくなった。僕はただ飛ぶことが好きなだけで、冒険家じゃないんですよ」
22年に実現したキリマンジャロ空撮では機材の不調により記録は限られたものの、フライトは無事に遂行。続く第2弾・オーストラリアのコジオスコ、第3弾・フランスのモンブランと着実に進んでいる。
「モンブラン上空では強風で翼が半分に潰れたのですが、事前の訓練の成果で冷静に対応できました。山肌を越えて吹き下ろす風が起こす“フェーン現象”を上空から撮ることもできて、手応えがありました。綺麗なだけの写真はドローンでも撮れる。でも、自分で飛んで、地形のうねりや風の厚みを体で捉えて写した一枚には、魂が宿る気がするんです」
山本さんが写し出すのは、空気ごとすくい取った地球そのものである。

山本さんの冒険を感じる旅先へ

首都オスロから国内線でスタヴァンゲル空港へ。そこから車、またはフェリー+バスに乗り1時間弱でプレーケストーレン登山口に。片道約3.8㎞の道を歩くと、垂直に聳(そび)える岩壁が現れる。「本来の山頂は、さらに尾根を登った先にあり、そこまで行くと人も少なく、リーセフィヨルドを一望できます」(山本)