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海の上で食物を育てる海上ファーム〈Green Ocean〉。昔ながらの木と最新技術とを掛け合わせて実現

はじまったばかりの目新しい取り組みは、その分野を切り拓いてきた先人の試行錯誤を見聞きしたうえで、独自のアイデアを繰り出し生まれたもの。つまり、今考えうる最良の形の一つと言えるのではないだろうか。手がけた人たちに、最良に至るいきさつを聞いた。

text: Saki Miyahara / edit: Emi Fukushima

最新までのいきさつ

1241年:
現在まで残る嚴島神社の社殿が完成する。

1961年:
建築家・丹下健三により海上都市構想「東京計画1960」が提案される。(1)

2008年:
ドバイで人工島「パーム・ジュメイラ」が完成する。

2011年:
浮体構造物「メガフロート」が震災復興に活用される。

2019年:
オランダで水上集落「Schoonschipプロジェクト」がスタートする。(2)

2023年:
N-ARKによる海上ファーム〈Green Ocean〉がはじまる。

海上都市構想「東京計画1960」
(1)実現しなかった東京湾上に広がる都市構想。撮影:川澄明男

水上集落「Schoonschipプロジェクト」
(2)運河上にオフィスや住居が集まり街を構成。©Naoko Kurata

歴史を踏襲し、昔ながらの木と
最新技術とを掛け合わせて実現。

話を聞いた人:田崎有城(N-ARK代表取締役)

BRUTUS

N-ARKが建設を計画している〈Green Ocean〉とはどんな建築ですか?

田崎有城

海上に建設した施設で食物を育てる海上ファームです。海上では、特殊な栽培方法により、海水を栄養源として葉物野菜やトマトを栽培します。
海面下では光技術を利用し、植物プランクトンを光合成によって増殖させ海中環境回復を目指す計画です。

現在はいくつかの地方自治体に提案中で、2023年のプロトタイプ完成を目指しています。現在、地球を取り巻く自然環境は激変中。
日本各地でも毎年のように豪雨や水害が起きていて、その規模は年々大きくなり頻度も増していますよね。

このまま温暖化が進めば、災害が増えることは確実。世界中で海面上昇によって沈んでしまう町や地域が出てきます。
世界の農地の5分の1は塩害による被害に遭うようになってきており、気候変動被害は遠い未来の話ではなく現在進行形で深刻化しています。

BRUTUS

素材や構造はどのように決めたのですか?

田崎

現在も素材と構造は日々検討していますが、近代建築に使用する素材は鉄、コンクリート、ガラスが一般的。しかしこれらはすべて塩に弱い素材です。

海面上昇による都市塩害が拡大していくと、近代建築は劣化が激しくなります。それに比べ、木材は歴史的にも塩への耐性がある素材として使われてきました。

〈Green Ocean〉では、建材にはCO2の吸収と固定にもなる間伐材や、建設予定地由来の木材を採用することで輸送時のCO2削減を考えています。
木造構造的に強化が必要な部分もあるので、木材と錆びないカーボンをハイブリッドに組み合わせた技術なども検討中です。

実は海上建築の歴史は古く、旧約聖書のノアの方舟や、広島県にある嚴島神社は有名です。1961年には東京都の人口増加に対応するため、海上の都市計画案「東京計画1960」を建築家の丹下健三が提案。

近年では、世界各地でも人工島建設が増えてきています。参照する過去の事例はたくさんあり、例えば中東の建築バードギールからもヒントを得ました。
夏暑い中東では、地下水路から冷たい空気を吸い上げて天然のクーラーにする技術があります。

海水の安定した温度を熱交換し、ファーム内の温度調整に転用。アグリテック、素材、工法など先端技術を取り入れながらも、昔から培われてきた人類の知恵や原始的な技術も同時に検討することで、環境負荷が少なく、気候変動時代に適応した建築を実現していきます。

BRUTUS

今後、海上での生活も可能になりますか?

田崎

オランダのアムステルダムでは運河上に住宅が立ち並ぶ「Schoonschip」という水上ビレッジが誕生し、多くの人が生活をしています。N-ARKも、海上不動産の実現を今後の目標としています。

自然災害によって生活スタイルが変化しても逆転的な発想とデザインと最新テクノロジーを駆使することで、気候変動時代のより良いライフスタイルを実現していけると思います。