大橋未歩、シャルロット・ゲンズブールらの“その後”のマイロングバケーション

移動が制限された数年間も終わり、海外が再び身近になった現在。旅好きたちはここぞとばかりにロングバケーションに出かけています。著名人・文化人に、自由になった“その後”に行った旅先を聞いてみました。

初出:BRUTUS No.989「A Long Vacation 一世一代のバカンスへ。」(2023年7月18日発売)

text: Kimi Idonuma, Emi Fukushima, Ryota Mukai

家族と春のシチリアへ。肩書を忘れて街を歩く

シャルロット・ゲンズブール/俳優、監督、歌手

最近までニューヨークに住んでいたのですが、その間6年ぐらいはほとんど旅行をしていなかったんです。時間があれば、パリに帰って母に会っていましたが、本当にそのくらいでした。2023年の春、まとまった時間がとれたので娘たちと一緒にシチリア島を訪れることに。

以前にもイタリアに降り立ったことはありましたが、その時は仕事関係でサッと立ち寄っただけで、いわゆる「旅」という形ではありませんでした。初めてのシチリア観光は、ものすごく楽しかったです。役者という仕事柄、普段から世界のいろいろな場所を訪れてはいますし、そうした場合でも土地のことを深く知ったり、素晴らしい人に出会ったりすることはできるんです。

でも、純粋に観光客の一人として街をぶらぶらするのは、やはり気持ちがいいですね。今回は家族と行動していたこともあって、非常にリラックスした時間を過ごすことができました。旅らしい旅を、すごく久々に満喫できたような気がします。

イタリアのシチリア島
シチリアの地には世界遺産も多く点在する。©AGE FOTOSTOCK/AFLO

ビバークと硬い蕎麦で迎えたニュージーランドでの年越し

大橋未歩/フリーアナウンサー

数年ぶりに夫婦揃って休暇を取れることになり、2022年末から年始にかけての10日間、ニュージーランドを旅しました。新婚旅行ではアメリカのジョン・ミューア・トレイルを歩いたほど山好きの私たちの目当ては、やっぱりロングトレイル。

5日かけて、北島のタラナキ山を周回するトレッキングコース、アラウンド・ザ・マウンテン・サーキットを歩きました。面白い形状の岩や朝日に照らされた山肌の複雑な陰影など、神秘的な光景も印象的でしたが、何より忘れがたいのは度重なる道迷いです(苦笑)。

トレッキング大国ゆえ登山道も道標もしっかり整備されていますが、雨や風で木がなぎ倒され順路が曖昧になったポイントも。いつしか誤った道を進み、大晦日に緊急ビバーク(野営)する羽目に。水を無駄にはできないので、持参していた乾麺の年越し蕎麦をそのままかじったのはいい思い出です(笑)。改めて自然の力を思い知ったとともに、一生心に残る年越しになりました。

ニュージーランドのタラナキ山
円錐形が美しいタラナキ山だが、山道は過酷。

旅先の本棚を通じて楽しむ現地の書き手との一期一会

文月悠光/詩人

つい先日、4泊5日で韓国を訪れました。滞在したのはソウルの明洞(ミョンドン)周辺。若者たちが集まる繁華街で、いかにも異国情緒を感じるエリアではありませんが、約3年ぶりの海外ということもあり、ハングルの看板が連なる街の様子にはやっぱりワクワクしました。

詩人という仕事柄、旅先で必ず足を運んでしまうのは本屋さん。今回も3店ほど巡った中で共通していたのは、詩集の取り扱いの豊富さです。日本に比べ韓国では詩が人気だと耳にしたことがあったんですが、ランキングコーナーにまで詩集部門が設けられていたことには驚きました。

装丁の美しさに惹かれて購入したのがパク・ノヘさんという詩人の写真詩集です。タイトルは「道」の意で、時間が空いた時にカフェに寄ってはグーグルの翻訳機能を駆使しながら読み進めていたんですが、静かに語りかけてくるような言葉が印象的でしたね。街の空気を感じながら、現地の書き手が紡いだ言葉に触れる時間は、まさに旅の醍醐味です。

韓国のソウルにある本屋の店内
韓国の書店では図書館のように過ごす人も多い。

2ヵ月弱で欧州4ヵ国5都市へ。“隔離”なき後の気楽な過ごし方

川谷光平/写真家

2023年の7月初旬、グループ展に参加するためにドイツ北部のブラウンシュヴァイクへ。せっかくの機会なので、その前の5月下旬からロンドン、パリ、アムステルダム、ベルリンと巡ることに。2ヵ月弱も日本国外で過ごすのは初めてだし、ベルリン以外はこれまた初。

複数都市を回るからこそ、街並みの変化やちょっとした作法の違いをビビッドに感じられて面白い。2年前海外に行った時とはまるで違い、隔離も検査もないので気兼ねなく楽しむことができました。当時はどうしてもリスクを気にしていたので。ルーヴル美術館やゴッホ美術館などは今や観光客でいっぱい。行くのを諦めた場所をもありました。代わりに動植物園やちょっとした郊外を出歩くのも面白い。

2週間ほど滞在したロンドンでは、サウスロンドンのペッカムや、イーストロンドンのハックニーへ。若いアーティストが集まる刺激的なスペース〈The Baths〉では、ローカルな音楽イベントを楽しみました。

オランダのアムステルダムの動物園〈ARTIS〉
アムステルダムで動物園〈ARTIS〉へ。

お金持ちの付き人(水川友樹)、草野絵美、阿部裕介の“その後”のマイロングバケーション