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MY PERFECT DAYS 〜10人が語る特別な日常〜 飯田珠緒の場合

観る者に解釈を委ねる映画が好きだ。自らの人生を重ね合わせて妄想したり、物語の続きを考えたり……。ついに公開が始まったヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』は、そのお手本のような映画。この作品を観た文化人10人に、「あなたにとってのPERFECT DAYとは?」を尋ねました。

text: Akane Watanuki

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スタイリスト的視点で見た、平山さんの暮らしぶり

第八回:飯田珠緒スタイリス

「私には平山さんのような無駄のない暮らしはできそうにありません。朝あんなに早く起きてルーティンワークをするのも難しいし、もし布団を敷いて寝る生活だったとしたら、たぶん毎日は畳まないような気がします。誰かに捉われていないのが羨ましいですね。精神的な意味で決まった居場所をつくらず、確立された自分の世界で自由に生きているのが、ホーボーみたいで憧れます」

そう話す飯田珠緒さんのPERFECT DAYは、晴天の下、美味しい物を食べながら音楽を聴いたり映画を見たりと、何も考えずにのんびり過ごす日。

「途中で研ナオコさんが出てくるじゃないですか。神社の公園で、猫と戯れている人として。あれは最高だと思いました。木の茂っている気持ちのいい場所で、猫を撫でている。自由に過ごす一日に猫がいれば、理想的なPERFECT DAYになるはず。実際はいつも仕事に追われるばかりなので、なかなかそうはいきません。

スタイリストはチームワークの仕事だから、周りの人のことも考えながら動かないといけない。iPhoneやPCで密に連絡を取り合う必要があります。そして、たとえ自由な一日ができたとしても、あれをやらなければとか、精算しなきゃとか雑事を考えるから、どうしたってすべてを忘れることはできない。のんびりしていてもたぶん3日くらいで飽きて、やっぱり仕事がしたいとか、人に会いたい、社会と繋がりたいと思ってしまいそう。平山さんという存在はそうではないところがファンタジーめいている。そういう意味で、この映画はおとぎ話だなと思います」

映画内で使われている曲に関して、音楽好きの飯田さんは、最後に“あの曲”が流れるのは「ずるい!良すぎる」と独特の表現で賞賛。

「実は見る前に、町山智浩さんのポッドキャストを聴いたんです。この映画を含めこれまでのヴィム・ヴェンダース作品に沿って、なぜ、この曲が使われているのかを町山さんが解説していました。初監督作品で流れていた曲を、この映画でも採用している理由なども詳しく説明されていて、面白かったです。それもあって映画を見ながら、ああなるほどと納得していました」

映画を観ていると、職業病のようにスタイリングやヘアメイクが気になる飯田さん。今作品ではあまり現実感が感じられなかった箇所を次のように指摘した。

「平山さんの家に姪っ子がしばらく厄介になるのですが、伯父さんの家に転がり込んでいるのに、ずっとヘアメイクがきれいに整えられているのが気になりました。ロングヘアならたぶんラフに結ぶだろうし、後れ毛だって出るはず。なのに、ピシッとまとめられていた。

もっというと、平山さんのつなぎもあんなに毎日着ているのに汚れていないしヨレヨレになってもいない。いつもきれいなのも現実味がないように思えて。だからやっぱりファンタジーなんですよね」

しかしその姪の存在から、平山がなぜこんな生き方をしているかを窺わせるような出自が、間接的に示されていく。

「ああいう背景のある人だから、きちんと生活をしていて趣味のいい音楽を聴いているし、盆栽とか美しい植物を育てているなど、心の余裕を持てているんでしょうね。本当に生活の苦しい人であれば、あんな娯楽を楽しむ余裕はないと思うんです。私のやっているスタイリストという仕事も、いろいろな意味での余裕がないとアイデアは生まれないし、成り立たないんじゃないかなと思っているので」

平山の欲の少ない、悟ったような生活ぶりは、外国の人が想像している日本への憧れという見方もできる。

「少し前のイメージはそうだったかもしれませんが、今の日本は余裕がなくなりつつあります。だから、あの平山さんの暮らしぶりは贅沢にも見える。自分が昔行っていた下北沢のレコード店〈フラッシュ・ディスク・ランチ〉や、焼きそばのおいしい浅草地下街の〈福ちゃん〉が出てきましたが、そこでの平山さんを見ると、私たちですら昭和の時代への郷愁がかき立てられて、羨ましさが湧き上がってきます。今10代の人がこの映画を見たら、昭和にティーンエージャーだった自分とは全然違う感想が出てきそう。それを聞いてみたい」

大船軒サンドウヰッチ
「平山さんが毎日神社のベンチに座って木を眺めながらランチをしているのを見ていたら、サンドイッチが食べたくなりました。あのくらいシンプルなのがいいですね」。お気に入りは箱に入った、懐かしい雰囲気のサンドイッチ。photo:Tamao Iida

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