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ライゾマティクス・真鍋大度がDNAで聴く6曲。新しいジャンルが生まれる瞬間

音楽が生まれる場所、それはフロア。場の空気や環境とDJのルーツが複雑に影響し合って構成されるDNAを分析したくなる曲。

Illustration: Shinji Abe / Text: Keiko Kamijo / Special thanks: Setsuya Kurotaki

「フロアにいると“あ、今新しいジャンルが出てきているな”と感じる瞬間があるんです。その瞬間に立ち会っている時が一番面白い」と言うのは、ライゾマティクスの真鍋大度さん。

真鍋さんはアーティストとしての活躍が目立つが、DJ歴もかなり長い。学生時代には週5〜6日もDJを務め、フロアから新しい音楽ジャンルが生まれる瞬間を肌で感じてきた。

「クラブ音楽は、もともとフロアにいる人を踊らせるための音楽で、ルーツはアフリカ音楽から脈々と続いていて、特に最近はかなり細分化している。ジャンル発生の仕方がちょっと特殊で、DJがかけたい曲とフロアの状況は常にインタラクティブな関係にあって、その調整が次のジャンルを生み出すケースがあるんです。DNAを引き継いでいく感じがすごく面白い」

新しいジャンルが生まれる瞬間

真鍋さんはDJを始めた頃から、曲を聴いてはサンプリング元を探し、DJがどんな音楽に影響を受けて曲を作っているのかを妄想し、独自の系譜を描くのが好きだったという。

「サンプリングは著作権の問題もあるから、彼らは元ネタを巧妙に隠しつつ新しい手法を編み出す。その手法や元ネタの選択から彼らがどんな音楽に影響を受けて、DNAを引き継いで曲を生み出しているのか、妄想しながら楽曲を読み解くのが面白いんです」

曲を分析した未来予測は、ある程度機械的にできるが、クラブ音楽はフロアの環境に大きく左右される。そのジャンル発生は機械というよりは、むしろ生物に近い。

「ダンスミュージックがフロアに適応しながら進化していく様子は生物の生存戦略に近い。テンポの変化が一番大きな進化だけど、サイドチェーンやモジュレーションと呼ばれるエフェクトの使い方が変化するだけで新しいビートやグルーヴが生まれ、それがそのままジャンルとして確立するケースもある。

ワブルベースと呼ばれるダブステップのベースはその典型。元ネタのジャンルやサンプリングネタというルーツといった遺伝的な影響を受けながら、フロアに順応して、いろんな要素が影響して進化したりあえて退化したり変容する。

例えば、イギリスのクラブでダークな雰囲気のダブステップが流行り始めた頃、女の子をフロアに呼ぶためにUKファンキーも合わせてプレーしていたら、徐々にその2つが交わってダブステップが進化したという話もある。

また、サンプラーやサイドチェーンが生んだグルーヴがジャズの演奏手法に影響を与えることもあって、JDillaやFlying Lotusはその典型。

個人的にはヒップホップ、ジャズ、ジューク、ミニマルテクノのDNAを持った進化のベクトルが気になってます」

「Roberta Flack」Flying Lotus

「Roberta Flack」Flying Lotus

リミックスに様々なアーティストを招集。中でもテクノ、ダブステップのトラックメーカーMartynのバージョンはヒップホップとダブステップの初期の交差を堪能できる。『Los Angeles』収録。

「ジャズや電子音楽、ブラジル音楽をベースにしたヒップホップで、日本のゲームサウンドや映画の影響も窺える。ジャンルに縛られず軽々と越境した曲作りやリミックスには脱帽」(真鍋)

「CMYK」James Blake

「CMYK」James Blake

KelisとAaliyah楽曲をサンプリングしたヒップホップ、ダブステップ、UKガレージのDNAが絶妙に交わって進化。21歳のJBがサンプリングミュージックの限界にチャレンジしたEP。『CMYK EP』収録。

「ポップあるいはR&Bと思ってる人も多いかもしれないけど、曲の構造やプロダクションを聴くとダブステップをベースに、ヒップホップのカルチャーにリスペクトがある人なんだということがわかる。R&Bのボーカルサンプリングの手法はブリアルやマウント・キンビーの影響と公言している」(真鍋)

「Tell U(ft. Rochelle Jordan)」Machinedrum

「Tell U(ft. Rochelle Jordan)」Machinedrum 

ポスト・ジュークの代表曲。3連を基調としたグルーヴは継承しつつ、音数を減らし歌ものを増やしたことでR&B色が増。音数を減らす進化は加速しそう。『Human Energy』収録。

「IDM、ヒップホップ、ダブステップ、UKガレージ、ジュークと時代に合わせてスタイルをうまく進化。リミックスで旬のビートを紹介するのも彼の得意技でミッシー・エリオットやビヨンセなどポップアーティストのトラックを手がけていることでも有名」(真鍋)

「Out in the Streets」Africa Hitech

「Out in the Streets」Africa Hitech

ダブステップからジュークへ展開が始まる初期の作品でDNAにはレゲエやグライム、ダンスホール等へのオマージュと実験精神が垣間見えて面白い。『93 Million Miles』収録。

「90年代初頭に登場したUKテクノを牽引したメンバーの一人で、アルバム『76:14』はアンビエント・エレクトロニカの名盤としても知られている。90年代半ば以降の彼は、ジェダイ・ナイトやアフリカ・ハイテック等の名義を使い分けて、クラブ・ダンス・ミュージックを繰り出している」(真鍋)

『Hyperdub 10.1』VARIOUS ARTISTS

『Hyperdub 10.1』VARIOUS ARTISTS

Kode9が主宰するHyperdubのレーベル設立10周年記念の2枚組コンピ。ラシャド、DVA、Kyle Hall、Kode9……、クラブ音楽のDNAを存分に体感したかったら迷わずこの一枚を。

「新しいジャンルの登場は間違いなく彼が関わっている。ヨーロッパのフェスで何度か一緒になったことがあるが、ブースでフロアの反応を計測しながらプレーしているさまが記憶に残っている」(真鍋)

「Drank, Kush, Barz(feat Spinn)」DJ Rashad

「Drank, Kush, Barz feat Spinn 」DJ Rashad

Gファンク、トラップ、ドラムンベース、アシッドミニマルなどを取り込み、ジューク/フットワークの新しい潮流を作り上げた記念碑的な楽曲。『Double Cup』収録。

「彼のトラックは手法、サンプリングネタを知るとさらに楽しめる。例えばサンプリングミュージックの音程を変える時って再生スピードを変えるのがDJの常套手段なんですが、ラシャドはサンプラーの機能を使ってると見せかけて、サンプリングそのまんまだったりする」(真鍋)