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音楽とお金。#5 シンガーソングライター・浮

ミュージシャンに聞くお金の話。今回のゲストは、静かで深い歌で話題のシンガーソングライター、浮(ぶい)。日本各地をツアーしながら考えるお金の使い道とは?

photo: Kazufumi Shimoyashiki / text: Ryohei Matsunaga

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「いつか定食屋を開くために、ツアーを回りながら候補地を考えてるんです」

BRUTUS(以下B)

演奏に出向くときの交渉は自分で?

初めてライブのお誘いをいただくときは、自分の条件は決めて言うようにしています。ある程度の額が前提としてないとお互いに動きづらいと思うので。私は20〜30席くらいの小さな会場でやることが多いし、その地域の人たちがいくらくらいだと来てくれるのか自分ではわからないし、そういう話も最初に聞くようにしています。

B

なるほど。

私の条件を先に聞かれることも多いから、自分で決めた値段をおそるおそる言うんですけど、「でもこれが絶対じゃないです」と付け加えたり、そこは臨機応変で。

B

ツアーにするときは、一つ一つそういうやりとりをしていくわけですか。

そうですね。一つお話をもらったら、そのほかの土地は知り合いを頼ったりして自分でツアーを決めていきます。イチかバチかで行くこともありますね。最終的な判断は自分の気持ちに委ねることが多いので。

B

トリオ編成の〈浮と港〉での活動もありますが、そのときは?

誰かと一緒にやるときは、みなさんにしっかり払えるように条件を出します。そういう交渉がうまくいくようになったのは、前のアルバム『あかるいくらい』(2022年)を出した後くらいからですね。

それまでは、出演料がないとか、苦労もいろいろありました(笑)。せめて交通費だけは出してもらえるように、頑張って交渉するようになっていきましたね。

B

当たり前に支払われるべき経費なんですけど、そこが軽視されがち。

デザイン業界で仕事している知り合いに話したら、「自分の後に仕事をする人たちにもちゃんと対価が支払われてお互いにお金が回るように、責任を持って自分の仕事に値段をつけてる」と言っていて、なるほどと思ったことがあります。

B

今は音楽だけで生活できている?

週に1日だけバイトをしています。お金の問題というより気持ちのバランスですね。音楽だけやってると自分を保てない。

B

社会との接点を持って自分の生活をフラットに見るための重しみたいな?

365日すべてを音楽に費やすとなったら不安でいっぱいになると思います。今の状況でもすでにちょっと不安なので。私を雇ってる店長からしたら嫌かもしれないですけど、アルバイトの時間がすごく穏やかで、いい休息になってるんです。

B

でも、このあと浮としての活動がどんどん大きくなる可能性もありますよ。

いやいや、そんなうまくいくわけないですよ(笑)。

B

創作と仕事のいいバランスが浮の音楽にも必要なんでしょうね。いずれは自分でレーベルを持つとか、自分の音楽をハンドリングすることを考えたりします?

そう思います。自分で何でもできるようになりたいし、音楽を自分で回せるようになったら、ゆくゆくは自分のお店を持ちたいんです。

B

お店。バーとか?

定食屋さんです。小さい頃からずっとやりたかったんです。

B

へえ!厨房に立って、自分の手料理を食べてもらいたい?

そうです。その準備もそろそろ進めたいと思ってるんです。音楽と関係ある感じのお店にするかもしれないですけど、純粋に定食屋さんになりたい。今もどこでお店やるか、自分のツアーを回りながら候補地を考えてるんです。

B

今のところどこらへんが良さそう?

長崎県の島原です。

B

えー!行きたいけど、遠いなあ(笑)

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