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今聴くからこそ、新鮮。村上RADIOの『再乱入ライブ』がレコードになった!

ラジオ番組発のイベントがレコードになるなんてことは久しく記憶にない。それが村上春樹 presentsとなると、もうレアどころの騒ぎではない。村上春樹さんがパーソナリティを務めるラジオ番組『村上RADIO』と早稲田大学国際文学館の共催で昨年7月(オンエアは9月)に行われた『村上春樹 presents 山下洋輔トリオ再乱入ライブ』の爆演がアナログレコードとなった。再乱入ライブ?まずは番組冒頭の村上さんのトークから。

photo: Keisuke Fukamizu, Azusa Takada (live) / text: Akihiro Furuya

今聴いても、というか、今聴くからこそ新鮮な音楽なんです

「いまから五十何年前に、山下洋輔さんのトリオが早稲田大学4号館(旧4号館)にピアノを運び込んでやった乱入ライブがありました。去年(2021年)、国際文学館(村上春樹ライブラリー)というのが造られたのですが、それが4号館という建物の改築でした。

山下さんの演奏した4号館と、今の4号館は違う建物なんだけど、同じ4号館、せっかくだからもう一度“乱入”してもらおうじゃないかと。山下さんにそのお話をしたら、面白そうじゃないかと言ってくださって、それで『再乱入ライブ』が実現しました。そんな伝説の夜を楽しんでください」

1969年7月。学生紛争が吹き荒れる中、早稲田大学で行われた山下洋輔トリオの伝説の『乱入ライブ』が50年以上を経て甦ったのです。しかも同じ曲目、同じ曲順、メンバーも山下洋輔(ピアノ)、森山威男(ドラム)、中村誠一(サックス)とこれまた同じ、不屈の鉄人プレーヤーが集まる。

「———バンドのメンバーは乱入時とまったく同じ顔ぶれだ。もちろんもう全員、気鋭の若者ではなくなっている。風貌を見れば、そのへんの碁会所にたむろしていてもおかしくないような『おっさん軍団』だ(失礼)。しかしいったんステージに立ち、楽器を手に取れば、現代のどんな若手ジャズ・プレーヤーにも負けないエネルギッシュで、ワイルドで、そしてあるときにはこぼれ落ちんばかりにリリカルな音楽が、そこに繰り広げられる。ほとんど奇跡的なまでにありありと———まるで局地的にタイムスリップが起こったかのように———」

と、村上さんは圧倒的なまでに再現されたステージをライナーノートにこう熱く記している。

一方、ステージに立った山下さんは、ことのほか冷静で、「———コンサートの趣旨に沿って当時のままのメンバーによる演奏が要請されたが、これは中村誠一、森山威男共に自分のリーダーバンドで活動を続けているという元気さだったので、当日結集することにまったく問題はなかった。リハーサルをやろうという話も出なかった。集まれば本番のステージで昔通りにできるという確信が我々全員にあったのだ。当日顔を合わせて、あの時やった通りの順番でやろうと話しただけだった。———」(『波』新潮社、2022年9月号掲載。ライナーノートより)。

村上RADIOの『再乱入ライブ』の様子
山下洋輔トリオ『再乱入ライブ』の模様。1969年に行われた『乱入ライブ』はジャーナリストの田原総一朗さんが企てた。当時、村上さんはまだ早稲田大学の学生だった。

レコード化のきっかけは?

「本当に素晴らしかった。残しておきたいよね」とイベント終了後、村上さんがぽろっとこぼした一言がレコード化のきっかけだったとか。こうして53年ぶりの名演が残ることになった。CDではなく、シリアルナンバーまで付いたレコード(村上さんの書き下ろしも付いたブックレットも豪華)として。

村上RADIOの『再乱入ライブ』レコード
レコード番号は「MURLP−1001」。これは村上RADIOのLP第1弾を意味するのだろうか?

『再乱入ライブ』のレコードについて、録音、ミックスを担当したエフエム東京技術局長の川島修さんはこう語る。

「山下洋輔トリオのお3方のそれぞれの個性を表現しながら、かつ一体感のあるサウンドとしてのバランスを考えました。仕上がったレコードを聴くと、ライブホールの空間や当日の熱やエネルギーがとてもよく伝わっている感じがします。ありのままに表現ができたのは、アナログレコードならではのことではないかと思っています」と。

「今回のこの大隈講堂の『再乱入ライブ』がこうしてレコードという形をとり、音源として残されることには大事な意味があるはずだ。どうか『かつての若者たち』の、限りなく若々しい演奏に耳を澄ませていただきたい」

村上さんはライナーノートでこのレコードをこうまとめた。