たった1人で描き上げた93分間。不条理な世界をシニカルなタッチで
『音楽』『JUNK HEAD』など個人製作のアニメ映画が盛り上がる近年、新たな名作が誕生した。『中之島映画祭』や『ぴあフィルムフェスティバル』で短編作品が注目された新星、鈴木竜也監督が構想から作画、脚本まで1人で作り上げた初長編作品『無名の人生』だ。
物語は東北の団地に暮らすいじめられっ子の少年が、ある出会いによりアイドルを目指すところから始まる。
「自分がアイドル好きなので、男性アイドル好きの男性の目線を描きたいというのと、名前が持つ多重人格性に面白さを感じて、人生の局面で名前が変わる人物の一代記を軸に製作し始めました。最終的には“長生き”が主題になりましたが(笑)」
もともとは実写映画を学んでいた鈴木監督。コロナ禍に遊びで作ったGIF動画がきっかけとなり、独学でアニメーションの製作を開始。その手法はユニークだ。
「先に絵を描いて、台詞(せりふ)は配役が決まってから考えました。ラップで言うとビートを作った後にリリックを書くイメージです」
若年層の死、戦争など社会問題を織り込む作風だが、キャッチーな動きとシニカルなタッチで描かれる不条理な世界はどこか冗談めいていて、ユーモアが垣間見える。そのシュールさが最大の魅力だ。
「お笑いが好きで中学時代は『ガキ使』のDVDを友達と回し観してました。だからちょっとふざけるくらいがちょうどいいんです。その方が“救い”がありますよね」