新作で演じるのはすべてから目を背ける女
映画『ほつれる』で門脇が演じる綿子は、壊れた夫婦関係を修復する意志も、清算する覚悟もなく、不倫関係に逃避し、愛人を失う局面でも現実から目をそらしてしまう。
「すべてから目を背けるうちに、見ないようにしていることすら忘れて不感症になる。そんな怖さを感じさせる作品です」
豊かな人生が、新鮮な演技につながっていく
映画好きを唸らせる作品に、ひっきりなしに出演する門脇麦。気鋭の監督である加藤拓也と初タッグを組んだ『ほつれる』もまた快作に仕上がった。加藤は岸田國士戯曲賞を受賞した劇作家であり、映画やドラマの世界でも活躍する。彼の書く台本を、門脇は「ここまで緻密な本はなかなかない」と絶賛した。
「このセリフを口にできることが嬉しかったです。今作は俯瞰ショットが多くて、表情よりも、役者の声で画(え)を紡ぎます。“音と間”を重視する加藤さんのセリフは、説明的じゃないのに伝わってくるんです。クランクイン前に2週間、入念なリハーサルも行いました。徹底的にカメラアングルを探るので、本番では迷いなく演じられました」
夫には心を閉ざしている綿子は、不慮の事故で愛人を失ったことをきっかけに自分のもつれた心をほどいていくことになる。
「私も心がかたくなになって感受性を失う可能性は十分にあるなと思います。だからプライベートでもアクティブに行動している節がある。一度立ち止まると、スイッチを入れ直すのは大変だし、心のアンテナも錆びてしまう。それが怖くて常に動いています。でもそうすると、心はリフレッシュしても体が疲れる。釣りが好きで、よく船釣りをしますが、帰宅後はすぐ休みたいのに、魚が新鮮なうちに料理しなくちゃいけなくて“なんでこんなに釣っちゃったんだろ”って後悔することもあります(笑)。それでも感性を鈍らせないために必要な時間です」
「豊かな人生を送ることが、新鮮な演技につながる」と語る門脇は、女優として洗練を目指すよりも、新鮮であり続けたい、と言う。
「この先結婚したり、子供ができたりするかもしれない。そういう人生の変化が演技に表れていくのが楽しみですね。演劇もドラマもどの仕事も楽しくて。映画もミニシアター系はもちろん好きだし、大作にも出たい。加藤監督も全部の分野でごちゃまぜに活躍されているじゃないですか。私もそうやってカオスを生み出せるような女優になれたらいいですね」