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私が映画を観て沁みた時の話。お笑い芸人・永野

あの日あの時、観終えた後に感情が大きく動いた忘れられない一作。お笑い芸人・永野さんが語る、胸に沁み入る物語に出会った時の記憶。


本記事は、BRUTUS「沁みる映画。」(2024年11月15日発売)から特別公開中。詳しくはこちら

photo: Yu Inohara / text: Kohei Hara

映画らしく“閉じない”主人公に駆り立てられた

グッドフェローズ

「沁みた」と同時に、間違いなく僕の人生を狂わせた一本です。最初に観たのは17歳の頃で、将来について真面目に考え始めた時期。当時、ロバート・デ・ニーロが出ている映画は観なきゃいけない気がしていて、流れで出会った作品でした。

冒頭から印象的。主人公のヘンリーが「大統領よりもギャングに憧れていた」と言うんです。それがもう、すげぇカッコよくて。少年時代から始まって、仲間に認められながらどんどんマフィア社会の中で出世していく。ただ、この映画に出てくるギャングは、みんなカッコ悪い(笑)。

グッドフェローズ
©1990 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

『ゴッドファーザー』や『スカーフェイス』ではある種ヒロイックに描かれているけど、『グッドフェローズ』は姑息で汚くて、情けないギャングがいっぱい出てくる。ヘンリーも最初はイケイケだけど、妻と愛人の間を行ったり来たり、薬漬けになったりして、しまいには自分が生き延びるために仲間を売ってしまう。

ラストシーン、寝間着を着たヘンリーが「クソ面白くない日々が死ぬまで続く」と言い捨て、シド・ヴィシャスの「マイ・ウェイ」が流れるんです。このシーンに衝撃を受けて、俺は絶対東京に行こう、と決めました。

ヘンリーが最後に殺されていたら「面白い映画だったな」で終わっていたかもしれない。でも、濃密な栄光と転落の末にあるのがつまらない人生だと描かれてしまったから、普通に生きていくのがバカらしく思えた。こんな映画、観なきゃよかったと恨んだ時期もありましたよ。でもおかげで、とんでもなく変な人生になりました。